voice of mind - by ルイランノキ


 臥薪嘗胆6…『ブーメラン』

 
レプラコーンから得た情報で、次に向かうストーンサークルがある場所を地図で調べると、徒歩2日は掛かることがわかった。ストーンサークルとは、開けた場所に巨大な岩が円を描くように立っている場所で、魔術師らが儀式などによく使う。
 
その道中で現れる魔物と戦闘を繰り返しながら一歩ずつ目的地へ向かう一行。はじめは新たな武器に心を踊らせていたカイだったが、次第にその元気が無くなっていった。
 
「どうしたの? カイ」
 アールは獣を仕留めてから、カイに歩み寄った。
「ブーメランなんだけどさぁ」
「うん」
「道が狭いと使いづらいんだ。木に当たると戻ってこないし。取りに行くのめんどくさいし」
「結局おめーは武器を変えても性格までは変わんねぇんだな」
 と、シドが呆れた。
「なにも武器は一つじゃなくてもいいんじゃない? 武器屋に輪投げみたいなやつあったじゃない、あれブーメランより小さかったし狭い場所でも使えるかも」
「輪投げ?」
「チャクラムだろ、それ」
 シドは顔をしかめる。
「チャクラムは使う側からしても危険ですよ、人差し指を輪の中に入れて回し、遠心力で投げるものです。使い慣れるまでがまた一苦労ですし」
「そうなんだ……」
「考えてみてよぉ、平たい円盤の刃物が回転しながらビュンビュン飛んできたらチョー怖い。俺、これまで輪っかのものは大概回してきたけどいつもいきなり指から抜けて変な方向に飛んでたよ。ネックレスとか、キーホルダーとか、ハサミとか、ドーナツとか」
「いろんなもの指先で回してきたんだね」
 さすがにドーナツを回したことはないな、とアールは思う。
 
一同は再び歩き出す。
 
「やる気出すのはいいが空回りすんな」
 と、シド。
「そうだよ、自分の出番が来たら己の力を存分に発揮すればいいんだから」
 と、アール。
「そうですよ、例えば上空から現れる魔物を率先してカイさんが──」
「俺が倒そうと思ったらヴァイスが頭撃ち抜いてる」
「…………」
「まぁ、弾丸のスピードには敵わないよね」
 と、アールはカイの肩にぽんと手を置いた。
「結局おいらの出番は少ないまま……」
 と、カイは悔し涙を拭った。
 
しかしカイの武器は意外なところで発揮された。
 
「カイ、がんばって!」
 と、アールが期待を示す。
「うまく狙ってくださいね」
「朝飯前だよこんなの……」
 
カイはブーメランを構え、ターゲットを目掛けて体を使って思い切り投げた。
ブーメランが直撃したターゲットは、高い木の上からゴトン!と地面に落ちた。──宝箱である。
 
「凄いじゃん! カイありがと!」
「…………」
 
宝箱の中は、薬草と回復薬だった。旅には欠かせないものだったが、既に充分な蓄えがあったため、そのままにしておくことにした。
 
「俺さぁ宝箱を落とす人じゃないんだけどなぁ」
「いいじゃない、役に立ってるんだから」
「まぁそうだけどぉ……」
 と、カイは口を尖らせる。
 
やっと自分に合った武器を手に入れたのだから、その武器でかっこよく魔物を仕留めたいと思うのが男の性というもの。自慢だってしたいし、褒められたい。
 
「そういえばカイってキャサリン買ったお金、シドに返したの?」
「ヒィ?!」
 カイの顔が真っ青になる。
「そーいや1ミルも返してもらってねぇなぁ?」
 と、振り向きざまにカイを睨んだ。
「あ、お金といえばルイ、これ」
 アールはシキンチャク袋から茶封筒を取り出し、ルイに渡した。
「これは?」
「シドの──」
 説明しようとしたとき、カイの手が茶封筒に伸びて奪い去った。
「あっ! ちょっと!」
「シド、あの時はありがとう。遅くなったけどこれ、キャサリン代」
「嘘ばっか!」
 アールはカイがシドに差し出した茶封筒を奪った。
「なにすんだよぉ!」
「これはシドのお姉さんが私たちにってくださった支援金なの!」
「そうなのですか? 有り難いですが、なんだか申し訳ないですね」
 と、ルイは恐縮する。
「テメェつくづくだな」
「でもその内の3万は俺のだし。ひとり3万ってことでくれたから……」
「15万も……」
 ルイはまた恐縮する。
「でも宿代に使ったくせに」
「宿代は3万もしなかったよ!」
「そっか。でもキャサリン売ったお金は持ってるはずでしょ?」
 
その会話を聞いていたルイが首を捻った。
 
「すみません、ちょっといいですか?」
「よくないです。」
 と、カイ。
「カイさんの新しい武器の代金は、どこから支払われたのです?」
「…………」
 カイは目を泳がせた。
「私が立て替えたけど……」
「アールさんが? なぜまた……」
「お姉さんたちから頂いたお金が15万で、カイがそこから宿代に使ったのがだいたい1万くらいで残り14万でしょ? キャサリンの売値が2万だったの。そこから宿代に使った1万を戻して15万。それはお姉さんからのお気持ちってことで大事に遣わなきゃと思ってそのままルイに渡すことにしたから」
「たったの2万でしか売れなかったのは腹立つが、残り1万はブーメランに消えたのか? 1万で買えるとは思えねぇが」
 と、シドが腕を組む。
「残りの1万はカイがまだ持ってる。一文無しだっていうから」
「ではブーメラン代は全額アールさんが?」
「うん。でも、私が提案したことだから……。カイは最初、旅をやめる気だったの。それを武器を変えてまた一緒に旅をしようってお願いしたようなものだから。これでカイになにかあったら私のせいだし、だからといって代わりに代金を支払うのが責任を負うことにはならないけど……」
「アール……」
 カイはおどおどしながら、謝った。
「ごめんちゃんと返すからね! 俺感謝してるんだから!」
「返すと言って数年、まだ1ミルも戻ってきてねーけどな」
「もうわかったよ! 千ミル返すから!」
「なんで千ミルなんだよ! そこは1万だろ!」
「落ち着いてください。お金のことで喧嘩するのはやめましょう。シドさんから借りたお金も、アールさんが立て替えたお金も、資金から出します」
「ふざけるな。俺が貸した金はお前らと会う前の話だ。俺とカイの問題は関係ないだろ」
「……そうですね」
「ヒィ?!」
 カイは結局、これからお小遣を貯めて返していかなければならなくなった。
「アールさんが立て替えたお金は、資金から出します」
「でも……」
「僕がアールさんでも、同じ提案をしたと思いますし、実際、カイさんが戻ってきてくれて助かりましたから。新しい武器の購入は、資金から出すことにしましょう。必ず僕に知らせてください、その分のお金はきちんと後からでもお渡ししますから」
 
アールは首を傾げた。
 
結局、城でバイトして受けとったお金は既に無くなってしまっていて、手元にあるお金はルイから手渡されたお小遣だ。そのお小遣いは旅の資金から出されたものだから同じではないのだろうか。
 
「お小遣いと資金は別ですよ?」
 と、アールが頭を悩ませていることに気づき、言った。
「あ……うん」
「アールさんが自由に使えるお金を使うのと、旅に必要なものを買う為のお金を使うのは別ですからね」
「そっか」
 
頭の弱いアール。わかったような、わからないような。
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -