voice of mind - by ルイランノキ


 涙の決別24…『カイの居場所』

 
「シド謝ってきてよ! このままじゃカイがホントに仲間から外れちゃうじゃない!」
「謝る気はねぇよ。この旅には俺らの命がかかってんだ。足手まといは切ったほうがプラスになる」
「ふざけないでよ! これまで一緒に戦ってきたのに!」
「なにと? あいつが何と戦ってきたって? 恐怖心か?」
 
嘲笑うシドを見て、アールから表情が消えた。そしてアールの右手がシドの左頬を叩いた。
 
「──カイは必要不可欠なんだよ。シドにとってはそうじゃないんだろうけど、少なくとも私にとってカイは中心にいる人なの! ずっと一緒にいたのに、私よりシドの方がカイと一緒にいた時間長かったくせに、カイのなにを見てきたの?!」
 
悔しくて涙が出る。不用な仲間なんかひとりもいない。
 
「城に……カイ宛てのおもちゃが沢山届くって、知ってる?」
「……は?」
「私たちが魔物との戦いに集中してる間、カイがなにをしているか知ってる?」
 
街に魔物が現れたとき、カイが何をしていたのか。
 
──私自身、リアさんから城に届けられるおもちゃの話を聞かされるまで、知らなかった。
 
「カイは私たちが出来ないことをやってくれてた」
 
━━━━━━━━━━━
 
「おもちゃ?」
『えぇ、そうなの。おもちゃやお手紙が沢山』
「なぜにまた……? 誰から?」
『カイ君に助けられた子供たちからよ』
「助けられた?」
 
戦いに夢中になっていると、気づかない、気づけないことがある。それは周囲への影響。
魔物の動きばかり目で追って、自分の背後で逃げ遅れて躓いて動けなくなっている人がいるなんて気づく余裕がない。
視界に入らないところで魔物に爪を立てられて倒れている住人がいても勿論気づかない。
 
そして、いつの間にかカイがいなくなっていても、逃げ足が速いなと思うだけでまさか逃げながら住人を助けていたなんて、知るよしもなかった。
 
 ばあちゃん大丈夫? はやく家ん中逃げたほうがいーよ!
 
 うちは遠いけんのぉ……
 
 じゃあ目の前の人ん家でいーじゃん。ごめんくださーい!
 
 
 きみ大丈夫?! ケガしてんの?! 母ちゃんは?!
 
 はぐれた……
 
 とにかく隠れられるとこまでがんばって走ろう!
 
 
カイはくだらないことは自慢するくせに、こういうことは口にしなかった。
きっと自慢出来ることだとは思っていないからだ。ただ私たちを見て、自分はなにも出来ないと思いながら走り回っているだけだと思っているからだ。
 
 あなた、どこに住んでるの?
 
 ゼフィール城です。ヘヘン!
 
 で、どこに住んでるの?
 
 ゼフィル城
 
 …………
 
リアは電話越しに困ったように言った。
 
『父がね、おもちゃを届けるなって言うのよ。カイ君は遊びに夢中になりすぎるところがあって、旅に支障が出ると悪いからって』
「あぁ……確かに」
『でも、お手紙だけでも見せてあげたいのよね』
 
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カイの存在は、大きいよ。
この世界で生きる“私”を作るパズルがあったら、カイはきっと最後のピース。
 
隅っこのピースじゃなくて、一番目立つ、ど真ん中のピース。
 
だからカイが抜けるなんて考えられなかった。
 
それなのに
 
私はみんなから抜け出したんだ。

 
「私連れ戻してくる」
「やめろ。あいつの本心も聞いたろ。本人にやる気もねんだから連れ戻したって有難迷惑なだけだ」
「そりゃシドにあんな言い方されたら……」
「俺のせいなのか? 違うだろ。戦う気がねぇのは元からだ」
「…………」
「お前は責任とれんのか?」
「……え?」
「弱いままのあいつを連れ回すってことは、俺らの足手まといになるだけじゃねぇ。本人も危険な目に遭いやすくなるってことだ。実際、ピエロの野郎に目ぇつけられやがった。お前はこの先ずっと、あいつを見てやれるのか? 危険なときは助けて守り続けられるのか? 今回みてぇに別行動することもあるんだ。その度にお前はあいつの心配をするのか? ──で、自分の身も守れず死んだらどうするんだ」
「それは……」
「あいつを切り捨てるのは互いの為になる」
 
シドが言っていることは理解出来る。確かに今のままのカイを連れ戻して旅を再開するのは危険かもしれない。でも──
 
「切り捨てるっていう言い方は撤回して」
 
アールはそう言い放ち、町へと走って行った。
 
「僕も撤回していただきたいですね」
 と、シドを見遣る。
「…………」
 シドはルイから目を逸らし、離れた場所に腰を下ろした。
 
「仲間割れかい?」
 と、ルイの背後から声がした。
「え……」
 振り返ると、いつの間にか現れたレプラコーンがルイを見上げていた。
「例のものは手に入れたかの?」
「あ……はい。それはきちんと用意しています」
 ルイはシキンチャク袋に入れていた約束の品、バシリスクの舌を渡した。ビニール袋に入っている。
「ほほほっ、立派じゃな」
「あの、それで浮き島への行き方を教えていただけるのでしょうか」
「ふむ。実はの、わしは今では魔女からゲート紙を預かって行き来しとるんじゃよ。しかしそのゲート紙はわし専用のものじゃ。頼まれたもんを手に入れて届けたり、逆に魔女から頼まれたもんを誰かに届けたりするためのもの。これまでもお前たちのように魔女に会いたがる者がおったが、方法を聞いて諦めて魔女への手紙をわしに託して去って行くものばかりじゃったよ。内容はどれもこれも私利私欲ばかり。魔女はそんなもん読まん」
「僕たちはどうしても直接お会いしたいので、お手紙で済ませる気はありません」
「ふむ。いくつかのルートを通って行くしかない。まずはストーンサークルにいるノームに会い、トゲトゲの森を抜ける方法を訊くんじゃな」
「トゲトゲの森……」
 と、ルイは考え込む。
「自力で通り抜けるのは不可能じゃよ」
「ノームというのは、元小妖精のですよね」
「そうじゃ。騒がしいのが嫌いじゃから、嫌われんよう気をつけるんじゃな。ほな」
「えっ、それだけですか?! 浮き島への行き方は……?」
「じゃから言うとるじゃろ、ノームに訊け。そして正しいルートを辿るんじゃ。誰しも簡単に浮き島へ辿り着けると思わんでくれ」
 
レプラコーンはそう言い残し、目に見えない程の速さで姿を消した。
 
「厄介だな」
 と、ヴァイスがつぶやく。
「えぇ、そう簡単には招いてくれないようです」
 ルイはシドを見遣った。
「シドさん、ここでアールさん達を待ちますか?」
「……好きにしろ」
 

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