voice of mind - by ルイランノキ


 涙の決別14…『遊びはおしまい』

 
「なんだ……?」
 
シドは両方の翼を切り落としたバシリスクの前で、携帯電話の画面を見て険しい表情を浮かべた。ヴァイスがバシリスクの額に銃口を押し当て、最後の引き金を引く。
 
「どうされました?」
 と、ルイが歩み寄る。その背後から生気のないアールがついてきた。
「姉貴からやたら着信がな」
 そう言い終えたとき、タイミングよくまた電話がかかってきた。
「なんだよ」
 と、電話に出る。
『あ! シド! やっと電話に出てくれた! カイくんが危ないのよ!』
「はあ?」
『ヤーナから聞いたんだけど、ピエロが現れてカイくんを連れてっちゃったみたいなの!』
「……チッ」
 シドは舌打ちをし、心配そうに視線を向けているルイを見遣った。「カイが問題起こした」
「えっ、どういうことです?」
「クラウンがカイの前に現れたらしい」
「クラウンってあの時の……」
「ああ」
 
ルイは少し考え、未だ結界の中にいるアンデッドを見てから答えた。
 
「シドさんはカイさんの元へ向かってください」
「はあ? あいつはどーすんだ」
 と、アンデッドを見据える。
「僕達でなんとかします」
「信用ならねぇな。けどまぁあのバカを放っておくわけにもいかねぇし……ったく。限界まで結界で閉じ込めとけ。俺が戻るまでな。どー見てもやる気ないだろ」
 と、アールに目を向ける。
「倒します……」
 と、力なく答える。
「表情と言ってることが一致してねーよ」
 
結局、町の跡地の外で待機していたビトラムに頼り、シドは一旦カイを助けにツィーゲル町へ戻った。
 
残されたアール達は、暫く休息をとることにした。バシリスクの舌はルイの包丁で切り落とされ、冷凍保管出来るシキンチャク袋にしまわれた。
 
「アールさん」
「はい……」
 地べたに座り込むアールの隣に、片膝をつくルイ。
「僕が水の攻撃魔法で結界の中を満水にしようと思います」
「え?」
「攻撃魔法は苦手ですが、満水にするくらいなら可能です。そんなことでアンデッドは死にませんが、ウジはどうにか出来るかもしれません。エノックスはどうなるかわからないので実験になりますが」
「でもルイ……魔力が……」
「ここに来る前に回復薬を買っていますから大丈夫ですよ」
「……うん、わかった」
 
アールは握っているクロエに視線を落とした。今は大人しくしているようだが、その時を静かに待っている様である。
 
ふと、ヴァイスを見遣った。額が汗を流れている。
 
「ヴァイス……大丈夫?」
 アールが訊くと、ルイは立ち上がり、ヴァイスを気にかけた。
「問題ない」
「回復薬を出しましょう」
 と、シキンチャク袋から取り出す。
「必要ない。暫く休めば回復する」
「ですが……」
「無駄遣いはしないほうがいい」
 ヴァイスもアンデッドを見遣った。
 
アールも結界の中で動いているアンデッドに目をやった。
とても一人では倒せそうにない。倒すとなると仲間の力を借りることになるだろう。ただ、引っ掛かるのはそれをクロエが許すかどうかだ。
 
「クロエ、みんなで倒そうね」
 
アールが呼びかけたものの、クロエは何の反応も示さなかった。
 
━━━━━━━━━━━
 
シドがツィーゲル町に戻ると、ゲートの前で不安げにヒラリーが立っていた。
 
「シド!」
「カイは?」
「裏口から外へ出たらしいの。それで今ヤーナとエレーナが……」
「向かったのか?!」
「カイくん、刀を置いていったからそれを届けに……」
「いつ?!」
「もう……1時間以上も前よ……」
 
シドは駆け出した。途中、鍵が差されたままのバイクを見つけて跨がり、裏口まで飛ばした。
到着すると乗り捨てるようにバイクから降り、開いていた裏口から外へ。
 
そして刀を抜き、立ち尽くした。
 
木々に人が縛り付けられている。カイ、エレーナ、ヤーナ、門番の4人だ。よく見ればヤーナの右腕にダーツの矢が2本、カイの肩には5本、エレーナの足には1本、門番の男の腹部には3本刺さっている。
 
「おや、また助っ人ですか?」
 
シドに背を向けていたクラウンが振り返る。
 
「あちゃー、剣豪が来るとは聞いてないねーえ……」
「…………」
 
シドは刀の刃先をクラウンに向けた。
 
「そんな怖い顔しないでほしいねーえ。まだ殺してないんだから」
「黙れ。」
 と、刀を振りかぶる。
「今何点だと思う? 手足は1点、腹は5点、肩は3点、首は30点、鼻は80点、目は100点。どーもダーツは苦手でねーえ、練習していたところなんだよ」
 
シドが刀を振り下ろすと、クラウンはバク転しながら避け、胸元から短剣を2本取り出して次々に繰り出されるシドの攻撃を交わしていった。
 
「お前の姉さんが痛い目にあったのは、私のせいかねーえ?」
 シドから距離をとり、つかの間の休戦。
「うるせえ……」
 
シドはクラウンにじりじりと歩みよる。
 
「使えない仲間を持つとそれを補うのが大変だねーえ」
「…………」
 
地面に落ちている枝を踏む度にバキバキと音を鳴らした。
 
「シド……」
 と、木に縛り付けられているカイが口を開き、シドは足を止めた。
「ごめんシド……俺……」
「黙れ」
「俺……全然なにもできなくて……」
「いいから黙ってろ」
「シドの姉ちゃんたちまで巻き込んで……」
「いいから黙れっつってんだよ! なんも出来ねぇならせめて黙ってろッ!」
「…………」
 
ヒュッと、ダーツの矢が飛んできて、シドの肩に突き刺さった。
 
「つッ?!」
「3点。」
「テメェ……?!」
 
ぐらりと視界が歪む。
 
──なんだ……? 毒か?
 
「痺れ薬を塗っておいたよ」
「…………」
 
シドは肩に刺さっている矢を引き抜き、地面に叩き捨てた。ピリピリと肩から全身に広がってゆく痺れを感じる。
 
「毒じゃねーなら問題ねぇ」
 
シドは地面を蹴って飛び掛かった。
 

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©Kamikawa
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