voice of mind - by ルイランノキ


 涙の決別13…『駆け回る3姉妹』

 
クラウンは大きな丸い玉の上に乗っておてだまをしている。
 
「あれもだめ、これもだめ、じゃあ君はなんのゲームだったら出来るのかなーあ」
 と、クラウンは3つのボールをおてだまにしながら考える。
 
それをカイは目を細めて見上げている。
 
「だからさっきから言ってるじゃないかぁ、命に関わらないゲームだよ」
「それでは私が君に会いに来た意味がない。時間も時間なので、暇つぶしはおしまい」
 と、クラウンはおてだまをポケットにしまった。
 
カイは警戒しながら身構えた。
 
「マジックを見せまーす」
 と、クラウンはスーツの内ポケットからハンカチを取り出すと、片手でそれを持って、もう片方の手を隠した。
「は?」
「チャラーン!」
 と、ハンカチを退かすと、手の平の上に白いハトが現れ、上空へ羽ばたいて行った。
「わぁー、ハト久しぶりに見たー!」
 思わず拍手をしてハトを見送るカイ。
「続きましてー、チャラーン!」
 と、今度はカエルだ。森に放つ。
「なんでも出てくるねぇ!」
「ラストー、チャラーン!」
 と、クラウンが最後に出して見せたのは、人の頭ほどある赤い吸血コウモリだった。
「ぎゃあああぁあぁあああ!」
 逃げ足の早いカイはすぐに森の中を駆け出したが、その後を吸血コウモリが追いかけてくる。
「さーて、楽しませてくださいよー?」
 クラウンは大玉の上であぐらをかいた。
「正々堂々と戦えーっ!!」
「いいけどあんたすぐ負けるでしょーう?」
「確かにっ!!」
 
地を這う魔物が相手なら木に登れば一休み出来るものの、相手は吸血コウモリだ。武器は必要ないと言われたせいで置いてきてしまったことを酷く後悔した。尤も、武器を持っていたからといってカイがひとりで吸血コウモリを仕留められるかどうかは別だ。
 
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「いくら払うんだ?」
 と、酒屋でビールを浴びるように呑んでいた無精髭の男が口元を緩ませながらヤーナを見遣った。
「いくらなら手ぇ貸してくれんの?」
「相手がなにもんかわかんねぇからなぁ。まぁ10万くらいでいいよ」
「10万……」
「安いもんだろ、人の命を助けてやろうってんだから」
「5万払う。助けてくれたら残りの5万も払う」
「ヘヘヘッ、ちゃっかりしてやがる」
 と、男は立ち上がり、ポケットからくしゃくしゃのミル札を取り出すとカウンターに置いて外へ出た。
 
その頃ヤーナに頼まれてカイの武器を取りに帰っていたエレーナは、バイクから下りると玄関に立てかけてあった刀を持ち、再び後ろに飛び乗った。
 
「裏口までお願い」
「約束は守ってくれるんだろうなぁ?」
「約束?」
「よーく拝ませてくれるんだろう?」
 と、男は身をよじり、エレーナの胸元を見た。
「わかってるわよ。早くして」
「へいへいっと」
 男はバイクをUターンさせ、裏口へ向かった。
 
自宅にいたヒラリーは何度もシドの携帯電話に着信を入れたが、一向に出る気配がなかった。留守番電話にメッセージを入れたものの、折り返しの電話を待つ間、気持ちが落ち着かず、結局何度も電話を鳴らすのだった。
 
カイの刀を持ったエレーナが町の裏口に到着したときには、既に無精髭の男を連れたヤーナが立っていた。
 
「遅い!!」
「私に言わないで。この男に言って」
 と、エレーナはバイクを運転した男を睨んだ。
 
ヤーナはエレーナから刀を受け取ると、裏門の見張りに門を開けるよう、命令した。
 
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カイは地面に埋まっていた石に足を取られ、すっ転んだ。吸血コウモリのキーキーッという耳障りな鳴き声が真後ろに迫り、起き上がると同時に目の前にあった大きめの石を掴んで吸血コウモリを思いっきり殴った。
吸血コウモリが怯んだ隙に距離をとり、石を拾った。今は石しか武器になりそうなものがない。
 
「遊び遊び遊び遊びこれは遊びーっ!!」
 と自分に言い聞かせ、恐怖心と焦りを抑える。
「1匹じゃつまらないよねーぇ」
 と、クラウンは再びハンカチで片手を隠してから、もう1匹、吸血コウモリを増やした。
 
カイの視界に2匹の吸血コウモリが飛び込んでくる。
 
「ふ、増えてるっ?!」
 
絶体絶命という言葉が脳裏を過ぎった。自分は吸血コウモリに血を吸われて死ぬのかと。死んだあとに仲間が駆け付け、吸血コウモリすら倒せないこいつはやっぱり選ばれし者を守る光ではなかったんだと思われ、讃えられることなく生涯を終えるんだ──
 
「カイッ!」
 と、逃げ惑うカイの耳に女の声がした。
 
一瞬、死神ではなく天使が迎えに来たのかもしれないと思ったが、聞き慣れた声に振り返ると、視界に目の前まで迫る吸血コウモリと刀が飛び込んできた。
 
「うひぇあ!」
 
ゴッ!と、カイの額に刀の頭(かしら)が命中し、そのまま後ろへと倒れ込んだ。
 
「カイ!」
 
彼の名前を呼んだのは刀を届けに来たヤーナだった。倒れたカイに襲い掛かる吸血コウモリを目掛けて自分の靴を脱ぎ、思い切りぶん投げた。靴は命中したが、もう1匹近づいてくる。がむしゃらに助けに入るヤーナを見て、門番が仕方なく腰の短剣を抜いて参戦した。
 
「おやおや、変な助けが入りましたねーぇ」
 
クラウンは成り行きを眺めている。
 
「カイ起きてよ! 気絶してる場合じゃないでしょ!」
 

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©Kamikawa
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