voice of mind - by ルイランノキ


 涙の決別11…『一対一』

 
ツィーゲル町の裏口から外へ出ると、レプラコーンと出会ったツィーゲル森に出る。シドの姉達を巻き込むわけにはいかず、カイはクラウンを連れて町から移動した。
 
以前出会ったときは、互いに複数の仲間といたが、今回は一対一。そんなクラウンがカイに提案した“遊び”は、ロシアンルーレットだった。
 
「いやいや、いやいやいやいや」
 と、カイは手と首を同時に振る。「おかしいよ」
「なにがですー?」
「君は遊びが好きだということはわかった。でもねぇ、ロシアンルーレットは遊びじゃなくて、運試しだよ。そんなの遊びじゃなーい」
 と、胸の前で両手を使ってバツをつくった。
「賭け事も遊びのひとつだけどねーえ」
 と、クラウンはポケットからマジックのように本物のライフルを取り出した。
「え……いやいや、色々おかしい! どこからつっこめばいいのさ!」
 
ロシアンルーレットにライフルを使う。ポケットから長いライフルが出て来た。
 
「これはゲームだよ。制限時間は一分につき、チャンスは一回ずつ。この森の中を一分間逃げ回り、ライフルを持った側はその一分間で仕留める」
「おかしいおかしい」
「仕留められなかったら交代」
「先手有利じゃん! いやいや、そういう問題じゃない! ロシアンルーレットじゃないじゃん! ロシアンルーレットっていうのはねぇ、例えば10個くらいあるシュークリームのひとつにカラシを大量に入れて一個ずつ交互に食べていって、カラシに当たった人が負けー! みたいなやつだよ」
「よし、じゃあそれにしよーう」
「あ、まじ?」
「カラシはないから毒を入れるね」
「……俺買いに行くよ、カラシ。町すぐそこじゃん」
 
どこか似た雰囲気を持つふたり。アール達が苦戦している最中、なかなかゲームが始まらない。
 
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「あれ? カイくんは?」
 と、二人分のアイスココアをお盆に乗せたヒラリーが、居間のソファで寛いでいるヤーナに訊いた。
「ちょっと前に出掛けたよ」
「そうなの? せっかくココア持ってきたのに」
 と、取り敢えずローテーブルに運ぶ。
「あたしが飲むよ」
「そう? どこに行ったのかしら」
 ヒラリーはヤーナの隣に腰掛けた。
「カイの知り合いが尋ねて来て、一緒に出掛けたみたい。ピエロのメイクしてる奴だったから素顔はわかんないけど、雰囲気からこの町の人じゃなさそうだった」
「……ねぇ、本当にその二人は知り合いなの?」
 疑わしそうな目で問う。
「え、さぁ……本人は知ってるようだったけど」
「カイくん?」
「いや、客」
「カイくんは出掛けるときに何か言ってた?」
「……なにも。戻ってこないから出掛けたんだなーって」
 そう答えながら、ヤーナも不安を感じはじめていた。「やばいかな?」
「わからない。私ちょっとその辺見てくるわね」
 と、ヒラリーは立ち上がった。
「いや、あたしが行くよ」
 と、ヤーナも立ち上がる。「姉さんは一応シドに連絡して。何事もなきゃそれでいいし」
「わかったわ、気をつけてね」
 
ヒラリーはヤーナを見送り、家の電話からシドの携帯電話に連絡をした。
 
家を出たヤーナは、周囲を見回しながらカイを捜した。幸いなことにカイの知り合いだと名乗っていた男は目立つピエロのメイクをしている。手当たり次第、人に声をかけてピエロを見なかったかと尋ね歩いていると、すぐに裏口から町の外へ出たということがわかった。
 
ヤーナは町の裏口の前で立ち止まり、当惑した。ヤーナは生まれてから一度も町の外に出たことがなかった。普通はそうだ。ツィーゲル町を出るときはいつもゲートを使って町から町へと移動するだけで、“外”に出ることはない。
 
「出たいのかい?」
 と、出入り口を塞ぐ柵の隣に立っているガタイのいい男が微笑しながら言った。「危険だよ、外は」
「でもピエロともうひとり、男の子、外に出たんだよな?」
「あぁ、出てったよ」
「ピエロじゃない方、なんか武器持ってた?」
「いや? 丸腰に見えたけどなぁ」
「…………」
 
ヤーナは頭を悩ませた。自分は助けにいけない。ただの知り合いではないことは明らかだった。
 
「あんたさ、助けに行ってくれない? 金なら払うし、門番ならあたしが引き受けるから」
「無茶言わないでくれよ。まぁその辺の男よりは力があるが、魔物がうじゃうじゃいる外に飛び出して行けるほどじゃあない」
「もうッ! 役立たず! それでも男なの?!」
「まいったなぁ……」
 と、男は苦笑しながら頭を掻いた。その腰には二つの短剣が差してある。
「じゃあその短剣貸して」
「だめだだめだ。助けに行きたいんなら、クエストボードが置いてある酒屋にでも行ってみるといい。金に困ってる奴や暇を持て余している奴が手を貸してくれるかもしれない」
「んな暇ないからあんたに頼んだのに!」
 と、ヤーナは男を睨みつけ、背を向けて走り出した。
 
仕方ない。誰か雇えそうな人を探すしかない。
 
裏口から近い酒屋へ向かって走っていると、レディース洋服店から次女のエレーナが出てきてヤーナと目を合わせた。
 
「エレーナ!」
「あら、なにしてるの? 汗だくじゃないのよ」
 と、エレーナの手には買ったばかりの洋服が入っている紙袋がぶら下がっている。
「カイの奴、やばい奴に捕まってるかもしれないんだ!」
「はぁ? 詳しく話してくれなきゃわからないわよ」
「詳しく話してる暇なんかないの! あ、そうだエレーナ、玄関にカイの刀が置いてあったから、それ裏口まで持ってきて」
「いやよ。まだ買いたい物があるんだから。前から目星をつけていたワンピースが入荷したのよ、早く買わないと売り切れちゃうじゃない」
「あんたが呑気にワンピース買ってる間にカイが殺されでもして、それでも平気でそのワンピースを着てデートに行けるっていうんなら好きにすれば?!」
 ヤーナは苛立ちを見せながらそう言い放ち、酒屋へ走って行った。
 
「まったくもう……」
 と、ため息をつくエレーナの元に一台の原付きバイクが走って来る。
「ちょっとお兄さん」
 原付きバイクに乗っていたのは明らかに40近くの中年だったが、エレーナはお兄さんと呼んで胸の谷間を見せながらバイクを停車させた。
「なんか用か?」
 と、中年男はつい胸の谷間に視線を落とす。
「家まで乗せてくれない? ついでにすぐまた戻って来たいの」
「往復しろってのか」
「えぇ、いいでしょ? もっと中まで見せてあげるから」
 と、エレーナは服を下に引っ張り、更に胸の谷間を大きく見せた。
「……まぁいいだろう。乗りな」
「ありがとう、助かるわ」
 

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©Kamikawa
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