voice of mind - by ルイランノキ


 涙の決別10…『スポーク町の跡地で』

 
ルイが作り出した高さの異なる結界が、スポーク町の跡地に点々と建っている。
フフルドの数は始めにルイが大きな結界で囲み、攻撃魔法を浴びせたことで半数は減っていたが、それでも数え切れないほど生き残っているフフルドが襲い掛かってくる。
 
半数減らしたことにより、危険を察知した残りのフフルドは攻撃性を見せ、ルイたちのいる方へと一斉に動き出した。そのお陰で町の奥で安閑としていたバシリスクの周囲からフフルドがいなくなった。その隙にヴァイスが近づき、ルイが建てた結界の上から銃口を向けた。
 
「静か過ぎて気持ち悪い」
 と、アールは呟いた。
 
聞いていた通り、フフルドは音もなく近づいてくる。まるで大地の上を転がる綿だ。そして近間まで攻め寄ると、丸まっていた体を伸ばして無数の針のような歯を見せるように口をあけた。そこにシドの刀の刃が斬り込む。
アールも結界の上にいながら、積み重なって上って来ようとしているフフルドを斬り付けた。その遠くで、銃弾を頭にかすめたバシリスクが叫び声を上げた。
 
ヴァイスが一足先にバシリスクに攻撃を仕掛け、体力を奪う。ルイはヴァイスがいる地点とアール達がいる地点の中間、フフルドがいない場所に結界を建てた。その上から両者を交互に見遣り、気を配る。
 
それにしても……と、ルイは周囲を見遣った。フフルドに寄生すると言われているエノックスらしき生き物が一匹も見当たらない。手に入れた情報が古く、どういうわけか今はフフルドだけが増殖したのだろうか。バシリスクの生態ははっきりしないが、もしかしたらバシリスクがエノックスを食しているとも考えられる。
 
「ひゃあッ!!」
 
アールの悲鳴にルイが振り返る。アールは結界の上で体を掻きむしりながら暴れていた。そんな彼女にフフルドが襲い掛かってくる。ルイよりも近くにいたシドが駆け付け、よじ登ろうとしていたフフルドを振り払った。
 
「やだやだやだやだッ! 取って取って取ってッ!」
 
叫ぶアールの目は涙で滲み、充血している。シドが彼女の袖をめくると、3匹のヒルのような生き物が噛み付いていた。
 
「ヒルか……?」
 シドが1匹掴み、引き離そうとするとアールの腕の皮までついて来た。
「痛い痛い痛いッ!?」
 そうこうしているとフフルドが性懲りもなくよじ登って来る。
 
丁度よくルイが駆け付け、シドは気兼ねなくフフルド退治に専念した。
 
「ヒルのようですがこれは──」
 と、言い終わる前にアールは膝から崩れ落ち、痙攣し始めた。「これがエノックスですね……」
 
ルイはアールを抱き起こし、シキンチャク袋から取り出した毒消しを飲ませた。それから果物ナイフの先でエノックスの皮膚を切り裂き、殺してからアールの体から引き離して行った。
 
一回分の毒消しの量が足らず、もう一回分を飲ませる。
 
「アールさん、まだ体に食い付いていれば殺してください」
 足や腕等は調べたが、女性の体をまさぐるわけにはいかない。
「大丈夫……いつの間にか裾から入って来たみたい」
 苦しげに呼吸を繰り返しながら答える。
「このヒルのような生き物がエノックスのようです」
「イメージと全然違う」
「えぇ。恐らくフフルドに苦戦している間にフフルドに寄生していたエノックスが体から離れて単体で襲ってきたのでしょう。人に噛み付いたエノックスは早い段階で殺さなければ巨大化してしまうようですから気をつけてください」
 
ヴァイスの銃声が3発、空を切り裂いた。
おとなしく地上で腰を下ろしていたバシリスクが翼を羽ばたかせて上空へ舞い上がる。
 
「ルイ、私はもう大丈夫だからヴァイスを──」
 と、足元に手離していたクロエを拾い上げようとした時、嵌め込まれているクロエのアーム玉が激しく光を放った。
「──?!」
 アールが拾い上げるのをためらったその一瞬をつき、クロエが自分の意志で動き始め、結界の上を滑り、そのままフフルドのいる地上へ落下する。
「クロエ……」
 アールは予備の短剣、グラディウスを手に持った。
 
クロエは何かに引き寄せられるようにフフルドの間をすり抜けて行く。
 
「追いかけなきゃ……」
「アールさん、これを」
 機転を利かせたルイがシキンチャク袋から毒消しと回復薬を渡し、アールに防御力をあげる魔法をかけた。
 
別の結界の上にいたシドが、フフルドのいない隙間を見つけて飛び降りると、アールのいる結界付近まで斬り倒していき、道を作った。そこにアールは飛び降り、クロエを追いかけた。
フフルドの数はだいぶ減っていたが、倒したフフルドに寄生していたエノックスが芋虫のようにうじゃうじゃと地面を這いながら近づいてくる。小さな敵ほど的を射るのに苦戦する。踏み潰している間にフフルドが近づいてくる。
 
「きもちわりぃな……」
 シドはフフルドとエノックスから距離をとった。
「僕が結界で封じます」
「お前はもう魔力使うな!」
「ですがっ……」
 
ルイも結界から飛び降り、ロッドを振るった。
シドが走り寄り、提案する。
 
「ならエノックスはともかく残りのフフルドを一カ所に纏めて閉じ込められるか? 閉じ込めておくだけでいい。なにも全て倒す必要はねぇだろ」
「やってみます」
「俺も手伝う。一匹残らず集めて閉じ込めたあとは、全力でエノックスを踏み潰せ。噛まれんなよ?」
「ええ、任せてください!」
 

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