voice of mind - by ルイランノキ


 涙の決別5…『カイの心情』

 
「ふわぁ……ぁ」
 と、アールは欠伸をした。
 
客間を出た廊下から、カイに電話をかける。ルイ達はまだ客間でお茶を頂きながらビトラムと会話をしている。
 
『はいはーい、アール? 寂しくなったの?』
「違う。報告。今ビトラムさんっていう人の家にいてね、そこから小型飛行機でバシリスクがいるスポーク町の跡地まで行く予定なんだけど、明日の朝出発することになったの。それで今日はビトラムさん家にお泊りすることになったんだけど、カイどうする? こっちに来る?」
『ビトラムさんって女の人?』
「……男性だよ」
『独身?』
「綺麗な奥さんと娘さんがいるよ。で、どうする? でもこっちに来てもどうせカイはスポークまで来ないでしょ? やっぱそっちで宿借りる?」
『奥さん何歳? 娘さん何歳? 俺ね、今シドん家』
「…………」
『もしもし?』
「なんか最近カイって残念度増したよね」
 と、アールはため息を零した。
『えっ?! なにその残念度って!』
「いや、なんか……私も人のこと言えないからあまり言えないけど、どうしようもない感が」
『そんなことないよ! 俺別にシドん家でグータラ寝転がってテレビ観ながらお菓子食べてるわけじゃなくて、宿を借りるとなるとお金がかかるから節約しないとと思ってシドん家にお邪魔して、でもタダでお邪魔するわけにはいかなくてお留守番を名乗り出たんだ! そのおかげでお姉様方は有給休暇をとって遠くにお買い物へ、俺はゆっくりとアール達の無事を祈っているというわけ』
「要するに纏めるとシドん家でお留守番しながらグータラ寝転がってテレビ観ながらお菓子食べてるってわけね」
『ひぃ?! 見えてんの?!』
「迷惑かけないようにね。そっちに帰るときには連絡するから」
 
そう言ってアールは一方的に電話を切った。
すると、廊下を挟んで客間とは反対側の部屋のドアが開いた。女の子がアールの顔を不安げに見上げている。
 
「こんにちは、お名前は?」
「……ハナ」
「ハナちゃん? 可愛い名前だね、私はアールっていうの」
「アール……?」
「うん。今日はここにお泊りさせてもらうね」
「うん」
 と、ハナは頷いた。
 
━━━━━━━━━━━
 
床に寝転がり、電話をしていたカイはアールからの電話が切れたあと、すくと立ち上がった。
 
「やばい……このままじゃアールに愛想尽かされてしまう!」
 
リモコンを取ってテレビの電源を切り、お菓子の袋を閉じた。
 
「どうしよう……とりあえず腹筋しよう」
 と、カイは腹筋を始める。
 
意外にも10回、20回、30回とテンポよく熟していった。
 
「アールに……嫌われたら……一貫の……終わり……」
 腹筋をしながら頭を悩ませる。
「いつか……俺達の……冒険が……本に……なったとき……最後は……アールと……俺の……ハッピー……エンドで……幕を……閉じるのだから!」
 
──となるとこれからもっと距離を縮めていかなければならない。
 
カイは腹筋を止め、胡座をかいた。腕を組み、虚空を見遣る。ライバルはアールの恋人だが、さほどライバル心は芽生えてこない。なぜなら此処にいない人だからだ。側にいない人がどうやって彼女を守ることが出来るだろうか、どうやって支えになることが出来るだろうか。
 
アールと恋人を繋いでいるものは、アールの中にある思い出だけだ。
 
「彼氏を思い出す暇もないほど忙しいだろうし、危険な目にあったときや辛いことがあったときはいつも俺たちが側にいるし、俺に気持ちが揺らぐのも時間の問題だなー」
 
カイは立ち上がり、軽く体操をした。
 
「とっくに俺に惚れてると思ってたけど、案外しぶとい。そんなにいい男だったのかなぁ」
 
屈伸をし、背伸びをした。
 
「いや、俺に少しは惚れてるのは間違いない。だって俺カッコイイし、優しいし、面白いし。完全に惚れさせて、そんでもって自覚させなくちゃ。『あ、私カイのこと好きなんだわ!』って」
 
カイは壁に立て掛けておいた自分の刀を持ち、庭に出た。シドのように素振りをはじめるが、シドほど様にはならない。
 
「そもそもアールがこっちの世界に来て二人が離れ離れになった時点で、二人は運命の相手じゃなかったんだよ。それをわかってないんだなぁアールは」
 
カイは腕が痛くなるまで素振りを続けた。
 
「別世界にまできて出会ったんだよ俺と! こっちのほうが運命的じゃーん、一番最初に仲良くなったのは俺だし。他のメンバーはぁ、ライバルにもならないなぁ。シドはアールのタイプじゃないだろうし、ルイは優しいけどアールとは釣り合わないし、ヴァイスは……」
 
カイは素振りを止め、ため息をついた。
 
「ヴァイスは人間じゃないからなぁ。ヴァイスみたいに大人の男になりたいと思ったこともあったけど……だってアールってばヴァイスにならなんでも話せるみたいなこと言ってたし。まぁヴァイスは身長デカすぎてアールと合わなすぎだし、アールがお喋りしたいときにろくに相槌も打てないし何考えてんのかわかんないしなんか雰囲気怖いしヴァイスは確か婚約者いたし。死んじゃったみたいだけど。それにヴァイスは……俺と正反対だ」
 
だから嫌になる。
自分とはまったく違うヴァイスがアールと親しく話していたりするとモヤモヤする。正反対の人間に近づくのは難しいからだ。
 
「ま、ヴァイスもライバルじゃない。アールが笑いたいときに笑わせてあげられない男なんかダメに決まってる」
 
──アールの恋人はどんな奴だったんだろう。
 
カイは素振りを再開した。
 

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©Kamikawa
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