voice of mind - by ルイランノキ


 内証隠蔽24…『レプラコーン』

 
買い物を終えたアールは、走って宿へ戻った。部屋にシドの姿はないが、かわりにヴァイスがいた。
 
「シドは?」
「実家へ。ついでにグリフォンの羽など集めた材料をを売ってくるそうです。もう帰ると思いますよ」
 と、答えたルイからお風呂上がりの香りがした。
「お姉さん達ともお別れかぁ」
 カイは口を尖らせ、テーブルに顔を伏せた。
「頭痛は大丈夫?」
 と、アールはカイの隣に座る。
「うん、薬のんだら落ち着いた」
「偏頭痛ですね」
 ルイはカイの反対側に座ってお茶を飲んでいる。
「あー、偏頭痛は辛いね。雨の日はよく頭が痛くなるよ」
「偏頭痛持ちですか?」
「うん、でも最近はなくなったかな。たまに天気が悪いと頭が痛くなる」
「なにそれ、天気の悪さがアールの頭を悩ませるから?」
「違うと思うけど……そういうことない? 雨の日には頭が痛くなるの。いつもじゃないけど」
「低血圧頭痛ですね、女性に多くみられるのですよ」
「女性限定なの?」
 と、アールはうんざりする。
「限定というわけではありませんが、気圧が低くなると、頭の血管や末梢神経が圧迫されて頭痛になることがあるようです」
 
そんなたわいのない会話をしていると、実家に戻っていたシドが帰ってきた。部屋には入らず、入口の前で「帰ったぞー」と告げた。
それを合図に一同は腰を上げて、宿を出た。
 
「浮き島のことですが」
 と、宿の前で立ち止まり、ルイが口を開く。「この町の裏から行ける可能性があるようです」
「ガキに詳しく聞いたのかよ」
「えぇ」
「ガキの言うこと信用できんのか? 嘘かもしれねぇだろ」
「嘘の部分は白状したから本当だと思うよ」
 と、アール。
「嘘の部分?」
 シドは眉をひそめる。
「行き方まではわからないって。気を失って気づいたら浮き島にいたから。あと、綺麗なお姉さんはいないらしいの。おばあさんと鷲鼻の小人がいるって」
「ひぃ!」
 と、反応したのはカイだった。
「残念だったな」
「一気に興味失せたんですけどぉー」
「とりあえず裏から出てみるか」
 と、シドが町の裏口へ歩き出したため、アールたちはシドについて歩いた。
 
裏口の外はこれといって変わった様子はなく、平坦な土地に木々が鬱蒼としている。
一行は一先ず探索するように辺りを歩き回った。
ウィルは町の裏の森で背の低い鷲鼻の老人と出会い、助けてもらったと言っていた。その老人をルイはレプラコーンではないかと読んでいる。
 
「レプラコーン?」
 アールは聞き返した。
「靴の修理が得意な妖精の一種です」
「へぇ、面白いね」
「えぇ。一日中遊び回り、踊ることが好きな妖精が多くいて、そんな妖精の靴を修理するのが彼等の仕事です。妖精の靴を優先に修理しているので人間の靴はなかなか手が回らないとか。そのため、人間が彼に修理の依頼をすることはありませんが、他にも彼等にはとある特徴があるのです」
「なに?」
「お金を嗅ぎ付ける能力」
「金の在り処を知ってる」
 と、シド。「金目の物の在り処もな」
「ふーん」
「魔女に捕まったのかもねぇ」
 と、カイが想像する。「すばしっこいからなかなか捕まらないんだけど、魔女なら捕まえそうじゃん」
「可能性はありますね」
「そのレプラコーンはここでなにをしていたんだろ?」
 と、アールは足を止めて辺りを見回した。
「わたくしが推理してしんぜよう。流れからすると、魔女に頼まれて金目のものを探しに来てたんだ!」
 カイは自信ありきにそう言ってみせた。
「あながち外れでもないかもな。町の周辺には宝が埋まっていることがある」
 と、シド。
「なんで?」
「町の住人が裏ルートかなんかで手に入れた宝を隠す為に外に埋めるんだよ。外に出る奴なんてそうそういねぇし、隠す本人もさほど遠くまで行く勇気はないからな」
「それ掘り起こしちゃうの?」
「あぁ。それにトレジャーハンターには狙われやすい」
「トレジャーハンター? お宝探す人たち?」
「えぇ、売り捌く為に手当たり次第見つけた宝箱を開けて奪って行く連中ですね」
「あぁ、前に聞いたかも。悪戯で魔物を宝箱に入れて閉めてく人もいるとか」
「そうそう」
 と、カイが頷く。「からっぽの宝箱があるのはそいつらのせい」
 
20分くらい歩き回っただろうか。レプラコーンどころか魔物一匹遭遇しない。ウィルは嘘をついたのだろうか。誰もがそう思い、諦めかけたその時、小動物が走り回るような音が聞こえ、一同はピタリと静止。耳を澄ませた。
 
「なんかいるな」
 シドはそう言うと刀を抜いた。
「レプラコーンかも」
 小声でアールは言った。
「訊いてみればいいじゃん?」
 と、普段と変わらないボリュームで言ったカイは、次にこう叫んだ。
「レプラコーンさぁーん! いたら顔出してー! 俺たち金には興味ないから安心してー!」
「ばかっ! 逆に逃げたらどーすんだっ」
 
とシドが怒鳴った直後、一本の木の影から小さな老人が顔を出した。
 
「──ほい? なんの用かね」
「出た……」
 まさかの展開に、アールとシドは声を揃えて驚いた。
 
ウィルが言っていた通り、随分と小さくはあるが妖精のアイリスと比べたら全然大きいため、妖精というより小人のようだった。羽もない。
少し汚れた白い髭が口の回りを覆っている。一見頑固で怖そうな顔ではあるが、大きな目をパチクリとさせて首を傾げる姿は愛らしくもあった。
 
「浮き島について、教えていただきたいのですが」
 と、ルイはレプラコーンとの距離を保ったまま地面に膝をつき、目線の高さを合わせた。
「知らん」
「ウィル、という少年から聞きました」
「……知らん」
「助けてくださったとか」
「知らん知らん知らん」
「チッ」
 と、会話を聞いていたシドが舌打ちをした。アールはシドを睨み、少し我慢してと目で訴えた。
「浮き島にはお婆さんがいらっしゃるようですね、ウィルさんから伝言を預かっているので直接お会い出来たらと思っているのですが。それに返したいものも」
「知らーん。」
「おいテメェジジィいい加減にしろよ!」
 
痺れを切らしたシドがズカズカと歩み寄ったが、レプラコーンはパッと姿を消した。
 
「くっそ……」
「消えた?」
 と、アールは見回す。
「移動しただけ」
 と、背後の樹の枝に、レプラコーンが座っていた。
「すごい……早業!」
「朝飯前じゃ」
「追いかけっこしたら絶対に勝てないね」
「人間の足は遅いからな」
「そんなにすばしっこいのにどうして魔女なんかに捕まったの?」
「捕まっとらん! 自ら会いに行って下で働くことに決めたんじゃ」
「どうして?」
「過去に戻る必要があったから」
 
あれ? と、ルイは思う。あれだけ知らないと連呼していたレプラコーンだが、スラスラと質問に答えている。うまく誘導すれば浮き島への行き方も聞けるのではないだろうか。
 
「ふーん」
「なんじゃ、興味ないようじゃな」
「そんなことないけど、それよりそのお婆さん、魔女というだけあって怖そう……」
「ふぁっは!」
 と、レプラコーンは笑う。「優しい人じゃ」
「じゃあウィルのこと心配してたりしませんか?」
「…………」
「…………」
「知らん。」
 
──振り出しに戻った。
 

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