voice of mind - by ルイランノキ


 内証隠蔽25…『物々交換?』

 
遥か上空に浮かぶ島。
酸素は薄く、白い霧雲に覆われて視界を遮られることもある。
背の低い植物が足元に広がっている。規則的に並べられた石畳を辿った先に、少し不気味さを感じさせるいびつな形の黒い家が建っている。煙突から灰色の煙りが舞い上がり、まるで木製の家を一度火で炙ったかのようである。
 
ジリリリリ……と、黒電話の音が響く。
乱雑とがらくたが置かれた部屋を歩く老婆は、受話器を取った。
 
「誰だね」
『久しぶりだねぇ、アタシだよ』
「声だけじゃわからないよ」
『モーメルさ』
「あぁ、なんだい、まだ生きていたのかい」
『あんたも元気そうじゃないか』
「まだ死にはせんよ。──それより何か用かね?」
『アタシの知り合いがそろそろそっちに行くようだからね、よろしく頼むよ』
「おやおや、世話焼く女だったかい? あんた」
『人は変わるさ。この年になってもね』
「興味深いじゃないか」
 
懐かしさに会話が弾む。
島の下には真っ白い雲の海。白い海を抜けて漸く緑が見えてくる。そこからもっと遠く離れた大地の上に、アール達はいた。
 
「じゃあ逆に訊きますけど、どうすれば教えてもらえます? 浮き島へ行く方法」
「ふむ……」
 レプラコーンは短い腕を組んで考えた。
「物々交換じゃな」
「なにが必要なのでしょうか」
 と、ルイが前に出た。
「バジリスクの舌じゃな」
「ひぃえーっ」
 と、カイはヴァイスの背中に隠れた。「絶対やだ!」
「バジリスクって?」
 アールはルイを見た。
「猛毒を持った蛇ですよ。見た目は竜のようですが」
「ヘビ?! ヘビの舌なんて何に使うの!」
「魔女に訊いてくれ。バジリスクの舌を土産にすりゃ、文句ない」
 
一行は仕方なく一度町に戻り、毒消しを大量に買い込んでからバジリスクについての情報集めを行った。
 

──浮き島へ行くには幾つものルートを通らなければならなかった。
 
何度も行くのをやめようかと思ったよね。
でも、行ってよかった。
浮き島について知ったのも、ウィルや魔女に出会ったのも、きっと必然。
 
私たちは出会うべくして出会ったんだろうね。
私は何年も前から決まっていたんだ。
この世界にやってくることを。

第二十一章 内証隠蔽 (完)

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