voice of mind - by ルイランノキ


 内証隠蔽18…『シドの家』

 
「すみません遅くなって……」
 
ルイ達はシドの家から宿までの中間地点で落ち合った。
 
「なんでハイマトスとしょんべん臭いガキまで一緒にいんだよクソが」
 酷い言いようである。それほどシドは家に招きたくないのだ。
「いいじゃん。大勢の方がいいみたいだし」
 
シドからの連絡はルイの携帯電話に入り、電話に出るとシドは最小限のことを言った。
「今なにしてんだよ、姉貴がメシ作ってるから来い」と。
 その直後、近くにいたヤーナがシドの携帯電話を奪い、「出来るだけで大勢でね! シドが迎えに行くから大通りを南に歩いておいで」と言って電話が切れたのである。
 
それをルイの口から聞いたアールは、じゃあ全員で行こうと誘い出した。勿論スーも一緒だ。
 
「ったく……迷惑かけんじゃねーぞ。おとなしくしてろよ?」
「うん。っていうかシドのお姉さんって綺麗だね」
「どこがだよ」
 と、シドについて行く。
「超キレイだよ! 優しそうだし」
「どこがだよ」
「…………」
 
アールは歩きながらシドの横顔を見上げた。無表情というより少しけだるそうな顔をしている。
 
「あ……」
「あ?」
「わかった」
「なにがだよっ」
「シドが女の人について詳しいのに女嫌いな理由!!」
「詳しかねぇーよ別にっ!」
 と、苛立ちながら足速に歩いた。
 
──そういうことか。
アールは全て理解したように頷いた。
いつだったか、リアと電話をしているときに、彼女が話していた。シドは女に対して冷たいが、誰よりも女の子の気持ちを分かってると思う、と。
 
「そういえば嫌いな女性のタイプについてかなり具体的に話してたなぁ」
「そうなのですか?」
 と、ルイ。
「うん。忘れちゃったけど、すぐ泣かないとか、すぐ男に頼らないとか、ベタベタしないとか、煩くないとか、他にも色々」
「シドさんは幼いころに色々と……あったようですからね」
「いろいろ?」
「女の子の服を着せられ──」
「黙れッ!」
 と、シドは立ち止まって振り返るとルイの目の前まで歩み寄って胸倉を掴んだ。「殺す」
「聞こえていたのですね、すみません……」
「暴力禁止」
 と、アール。「仕方ないよ、お姉さんばかりだと」
「なにが仕方ねんだよっ」
「んー、かわいい男の子には女の子の恰好をさせたくなるのが女なのです」
「なんじゃそりゃ! 理解出来ねーなっ」
「頭弱いからだね?」
 と、ウィル。
「おいてめぇ今なんつった?」
「なにもー!」
 ウィルは笑いながらアールの陰に隠れた。
「暴力禁止」
 と、アール。
「なんもしてねーよ!」
「手を出してからじゃ遅いじゃない」
「クソがッ!」
 
不機嫌なシドに連れられ、アール達はシドの実家へと招待された。
玄関のドアを開けて出迎えてくれたのは色気のある次女、エレーナだった。香水の香りがふわりと漂う。
 
「いらっしゃい、どうぞ」
 と、一行を招き入れた。
 
リビングで寝ていたカイはシドにたたき起こされ、いつもは端に寄せている大きな折りたたみローテーブルを男4人で中央に運んだ。ヤーナがクローゼットから人数分の座布団を運び出す。
 
「お手伝いすることはありますか?」
 と、ヤーナに声を掛けたのはルイとアールだった。
「いや、客の手を借りるわけにはいかないよ」
「さっきテーブル運ばせてたろーが」
 と、テーブルの後ろにあるソファに腰掛けているシド。
「うっさいなぁ、しょうがないでしょ重いんだから!」
「おまたせー」
 と、台所から長女のヒラリーが料理を運んできた。
 
ルイがすぐに手を貸し、お盆からテーブルに移した。
台所へ戻ったヒラリーをアールは戸惑いながらも追いかけた。ルイを見ていると女である自分こそなにか手伝わなくてはと思ったのだ。
 
「あ、あの……なにか手伝います」
「あら、あなたね、アールちゃん」
 と、柔らかく笑うヒラリーは、目つきの悪いシドとは似ていない。
「はい、はじめまして」
「はじめましてー。私はヒラリーっていうの」
 台所のテーブルにまだ大量にある料理を、小さなお盆に乗せた。
「これ全部運ぶんですか?」
「うん、でもアールちゃんは座ってて?」
 と、ヒラリーはリビングへ。
 
そう言われても黙って待ってるのは申し訳ない気がするし、かと言ってお手伝いは結構ですと言われているのに勝手に手伝うのは有難迷惑になるような、ならないような……。
アールは迷い、ルイならどうするのだろうと一先ず台所を出た。リビングに戻るとルイはテキパキとおかずの配置を換えている。
リビングに運び終えたヒラリーがまた台所へ向かった。
 
「あっ、あの、やっぱりなにか……」
 アールはまたヒラリーを追って台所へ。
「いいのいいの、すぐに運び終えるから。さ、こっちよ。リビングに来て?」
「え……あの……」
 と、こんな調子でアールは台所とリビングをただただ行ったり来たり。
 
やっぱり手伝おうと台所へ行くアールの首ねっこを、シドが掴んだ。
 
「わぁ?!」
「お前はさっきから何をちょこまかしてんだよ邪魔だ」
「ごめん、手伝おうと思って……」
「手伝ってねぇじゃねーか!」
「ごめん……」
 と、要領が悪すぎるアールは肩を落とした。
「お盆出してやるからお前も運べ」
「う、うん!」
 

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©Kamikawa
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