voice of mind - by ルイランノキ |
「シド、ウィル見なかった?」
アールはシドの前に立ち塞がったが、シドはアールを避けながら答えた。
「見てねーな」
「あ、待ってよ。どこ行くの? あ、実家か!」
シドは苛立ち、舌打ちをして振り返った。
「お前さ、少しは黙ってらんねーのか?」
「え……うるさかった?」
「おめーはいつもうっせーよ」
シドがそう言って再びアールに背を向けようとしたとき、シドの後ろから目を丸くして走り寄ってくる女性にふたりは気づいた。
「シド……? シド!!」
その女性は感極まり、シドに抱き着いた。
「シド!! 帰っていたならどうして連絡してくれなかったの?! どんなに逢いたかったか……ずっとずっと待っていたのに!」
アールは呆然と立ち尽くし、ふたりを眺めた。
シドに抱き着いた女性はとても色気のある艶っぽい女性で、年齢は20代半ばくらいだろうか。ざっくりとV字に開いている胸元から谷間が見える。髪はルイと似たブラウンで長いものの、くしをとかしていないのかボサボサだ。それが逆に“隙”を感じさせ、色っぽい。系統はシェラと同じで、大人びた綺麗な顔立ちだった。
「シドの……」
恋人? ──そう訊こうとしたとき、もう一人とても美人な女性が走ってきて、シドの背中に馬乗りになるように飛びついた。
「シド! 帰ってたんなら連絡しろよなー! すっかり男らしくなっちゃって!」
今度の女性は一人目とは異なり、ボーイッシュだ。顔はこちらも美形で、髪はグレー、短くて跳ねている。黒いショートパンツがよく似合う活発な女性だった。10代後半だろうか。
「シドって……」
モテるんだね。──そう言おうとしたアールの肩を、誰かがポンと叩いた。
「羨ましい限りだよねぇ」
「カイ!」
いつの間にか背後に立っていたカイは、シドとシドを取り巻くふたりの女性を羨ましげに眺めた。
シドはされるがまま、顔は面倒くさそうに棒立ちしている。
「シドってモテるんだね……」
「え? あぁ、違うよ。あれはシドの姉ちゃんだよ」
「えっ?!」
思わず大声で驚いた。シドに姉どころか姉弟がいることも初めて知ったのだ。
「あれ? カイじゃん! あんたも男らしくなったねー」
と、カイに歩み寄って来たのはボーイッシュな方の姉だった。
「いやぁそれほどでもぉー…」
頭を掻きむしりながら照れるカイだったが、お姉さんはすぐにアールに目を向けた。
「あ……こ、こんにちは」
アールはたじろぎながら、頭を下げる。
「可愛い!」
「え……」
「名前は? どっちの彼女? うちの? カイの?」
「俺のです。」
「違います!」
アールは即答したカイをすぐに否定した。
「じゃあうちのだ!」
「馬鹿か。」
と、シド。「ただの旅仲間だ」
「え、まじ?」
お姉さんは驚いてアールを見遣った。
アールはシドがさらりと“仲間”と言ってくれたことにこっそり嬉しさを感じていた。出会ったばかりの頃はこれっぽっちも仲間だとは認めてくれていなかったからだ。
しかしこの場でアールとはどういう関係なのかを訊かれて仲間と答える以外思い付かなかっただけとも言える。
「うちに来るとこだったんだろ? 皆でおいでよ。他に仲間いなかったっけ?」
と、ボーイッシュなお姉さん。
「冗談じゃねぇよ。誰が家に招くかよ。俺だって顔出したらすぐ戻る予定だったんだ」
「なに言ってんの。簡単に帰すわけにはいかないよ」
と、お姉さんはシドの頭を叩(はた)いた。
「いてぇな! 忙しいんだよ俺らは!」
「姉さんの手料理、食べて帰らないつもり?」
「…………」
シドは浮かない表情で目を逸らした。
「毎日毎日あんたの帰り待ってんだよ」
「そうよ」
と、色っぽいお姉さんも会話に入る。「あんたがいつお腹空かせて帰ってきてもいいように、姉さん腕を磨いているんだから」
「あれ?」
と、アールはカイを見る。「もしかしてシドのお姉さんって……」
「うん、もうひとりいる。“ヒラリー”姉さまがね!」
「ヒラリーさん?」
「俺おじゃましに行きます!」
と、カイ。
「私はいいや」
と、アールは周囲を見遣った。「ウィルがいなくなったの。捜さなきゃ」
「じゃああとでおいでよ」
と、ボーイッシュなお姉さん。「他にも仲間がいるなら、連れてきなよ」
「いいんですか?」
「連絡してくれたら迎えに行かすから」
と、シドの背中を力強くバンッ!と叩き、シドが咳込んだ。
Thank you... |