voice of mind - by ルイランノキ


 内証隠蔽14…『秘密の行動』

 
ルイ、カイ、シドは受け付けの前から電話予約をしておいた宿にたどり着き、疲れきった腰を下ろした。
煉瓦づくりの建物が多い中で、ここは木で建てられた平屋の宿で、そのため部屋の数は全部で5室しかない。全体的に濃い茶色の板が並べられており、どこか懐かしい温かみのある雰囲気だった。
 
時刻は午後4時12分。
 
四角いローテーブルに右頬をつけてうたた寝しているカイの横で、シドは刀の刃を磨いている。
ルイはその向かい側で食材用のシキンチャク袋の中身を確認しながら、買い物へ行く前に必要な材料を紙に書きはじめた。書き終えてから、筆記用具をしまい、紙は四つ折にしながら言った。
 
「シドさん、お時間があるのでしたら御実家へ顔を出しに行かれては?」
「いいんだよ別に」
 と、ため息混じりに答える。
「しかし明日の午前中には──」
「うっせぇな。言われなくても行くっつの」
「それならいいのですが」
 
ルイはあまりしつこく言うことは控え、部屋を出た。
それから30分程してから、シドもカイを置いて部屋を出た。
 
━━━━━━━━━━━
 
「子供服……」
 アールはウィルに連れてこられた店内を見て歩いた。
 
子供服のお店である。0才児から12才くらいまでの洋服がずらりと並び、女の子用と男の子用で左右に分けられている。
 
「なにが欲しいの?」
 お洒落をしたい年頃なのかもしれないと思いつつ、アールは尋ねた。
「えっと……」
 ウィルは辺りを見回し、答えた。「帽子と靴かな」
「帽子と靴かぁ。確か靴は向こうだったよね」
 歩き出すアールに、ウィルは立ち止まったまま言う。
「アール姉ちゃんが選んでよ」
「え? うん、いいけど」
 と、立ち止まる。「どういうのがいいのかな。なんセンチくらい?」
「まかせるよ。23センチ! オレ、ちょっとあっち見てくるから!」
「了解、じゃあ後でね」
 
アールは靴が置かれているコーナーへ向かうと、ウィルは反対方向へ歩いて行った。
 
ウィルは帽子を探しに行ったのだろう。
アールはそう思いながら靴を手に取った。活発な男の子。走り回りやすい靴がいいだろう。ファッション店で働いていたとはいえ、女性向けの店だったし子供服は置いていなかったため、悩みに悩む。合わせやすい無難なデザインのものがいいだろうか。値段も気になるところだ。
 
そうして2足ほど選んだアールは、あとでウィルにどちらがいいか選んでもらおうと一先ず買い物かごに入れた。
店内を眺め、帽子置き場を探す。
 
「ウィルー?」
 
だが、帽子置き場にウィルの姿はなかった。どこに行ったのだろうか。店内を歩き回るが、どこにも姿はない。
 
「ウィル……?」
 
店内をまわっている間に棚が視界を塞いで互い違いになることも多い。アールは何度もぐるぐると店内を見て回ったが、それでもウィルの姿は見つからなかった。
 
「すみません」
 アールは買い物かごをレジに置き、女性店員に尋ねた。「トイレってありますか?」
「えぇ、あちらに」
 と、手で場所を示す。
「すみませんが男子トイレにウィルという男の子がいないか見てもらえませんか? いなくなっちゃって。あとこの靴買います」
 
女性店員は棚の整理をしていた男性店員に声を掛け、トイレを確認するようお願いしてからレジの仕事に戻った。箱に入っている靴を2足、紙袋へ移す。
 
「弟さんですか?」
「え? あ、はい。似てませんけどね」
 と、笑顔でちょっとした嘘をつく。違いますと言って説明するのが面倒だった。
「優しいお姉さんですね、靴のプレゼントだなんて」
「あはは……気に入ってくれるといいのですが」
 
会計を済ませたとき、トイレから男性店員が戻ってきた。
 
「個室も確認しましたが、誰もおりませんでしたよ」
 と、心配そうに報告してくれた。
「そうですか……ありがとうございます」
 
どこに行ったのだろう。
 
「ご心配ですね、店内を捜しましょうか」
「あ、いえ。さっき散々捜したので。多分……先に帰ったのかな。ありがとうございました」
 と、一礼をして買い物袋を持って店の外へ。
 
人が歩いている。決して多くはない。店の前の道にもウィルの姿はなかった。
アールはルイに電話を掛けた。もしかしたら一人で宿へ向かったのではないかと思ったからだ。しかし、電話に出たルイは食材屋で買い物をしている最中だった。
ルイはシドとカイが部屋にいると知らせた。アールはカイに電話を掛けたが出る気配がない。寝ているに違いなかった。
 
「シドに電話するか……」
 
そう呟き、掛けようとした手を止めた。前方からシドが歩いてくるのが見えたからだ。
 
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ウィルはアールがシューズコーナーに向かったのを確認したあと、店の外へ出た。
店の脇を通って細い路地を抜け、煉瓦作りの4階建てアパートの前まで来ると、そのアパートと隣のアパートの隙間に入り込み、1階の窓から中を覗き込んだ。
 
カーテンは開けられておりリビングがよく見えるが、誰もいない。電気の明かりも消えていた。
 
「……どこ行ったんだよ」
 
ウィルは肩を落とすと、壁に寄り掛かった。急に込み上げてくる孤独感に、視界が歪む。
 

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