voice of mind - by ルイランノキ


 内証隠蔽13…『ウィル』

 
グリフォンの生息地ではグリフォンの卵が岩の影に隠れて詰まれており、卵を見つけたときには遠回りをしながら先を進んだ。卵があるということは親が近くにいるということだ。
それでも一行の前に2匹目のグリフォンが現れ、戦闘を余儀なくされた。
おかげでグリフォンの羽根は大量に集まった。町についたら全て売ってお金に換え、これだけあれば新たな食材や回復薬を買い揃えることが出来るだろう。
 
シドの故郷、ツィーゲル町についたのはそれから3日後だった。
その間、どこにも聖なる泉がなかった為、回復薬の殆どを使い果たしてしまった。
 
「グリフォンの生息地に泉がないのは嫌がらせなんじゃないかなぁ」
 と、疲労で痛む太ももを叩くカイ。
「体力奪われっぱなしだよね」
 と、アール。
「だいじょうぶ? オレ、肩叩くよ!」
「ウィル、ありがとー」
 アールはウィルの頭を撫でた。
 
ウィルには随分と助けられた。
今でも不意に気分が落ち込むときがある。不意に、自分はなにをしているのだろうと思うときがある。そして不意に、昔の夢を見る。そんなときに隣を見るとウィルの寝顔や笑顔があって、とても癒された。子供というのはそこにいるだけで癒される。
 
──ツィーゲル町はドイツのブレーメンという町並みに似ている。
三角屋根の背の高い煉瓦づくりの建物が多く、町自体はそんなに広くはないが、雰囲気は都会的である。
 
「シドん家どこ?」
 と、アールが訊く。
「ルイ、ホテルは決めたのか?」
 シドはアールを無視するように、そう訊いた。
「まだですが、オススメはありますか?」
「食材屋の近くがいいなら、東区域にある小さい宿だな」
「部屋が空いているか訊いてみますね」
 町の受け付けで貰った地図に、宿の連絡先も書いてあった。
 
ルイが電話している間、一行は受け付けの前で待機している。アールはちらりとシドを見やった。久しぶりの故郷だというのに、懐かしんでいる様子もなく、大欠伸をして腕を組み、壁に寄り掛かった。
 
「……なんだよ」
 アールの視線に苛立ち、睨む。
「なんでもない」
 
シドもルイのように、家のことは言いたくないなにかがあるのだろうか。
 
「いやぁー、懐かしいなあ!」
 と、カイの方が町並みを懐かしんでいる。
「カイは来たことあるんだね」
「そりゃそうさ、俺っちと、シドっちの思い出の町なのだ・か・ら!」
「きもちわりぃ言い方すんな」
 シドは嫌な顔をした。
 
ヴァイスはスーを肩に乗せ、壁に寄り掛かっていた。不意にウィルに視線をやると、ウィルは思い詰めた表情で町を眺めていた。そして身を隠すように、電話をしているルイの後へと下がった。
 
「…………」
 
ヴァイスは暫くウィルの様子を眺めていたが、宿が決まり、歩き出した途端に興味は薄れた。
 
「シド、家族と会わなくていいの?」
「うっせぇーなさっきから」
 と、シドは苛立ちをあらわにする。
「ごめん……」
 しゅんと肩を落としたアールの肩に、カイがポンと手を置いた。
「気にしない気にしない」
「カイ……」
 
カイはアールになにか甘い言葉のひとつやふたつ、呟こうとしたが、それを阻止するかのようにウィルがアールの手を引いて立ち止まった。
 
「ん?」
 アールも足を止めてウィルを見下ろすと、一同も足を止めた。
「行きたいとこあるから、一緒にきて」
「行きたいところ?」
「アールとふたりきりになるつもりだろー」
 と、カイが頬を膨らませた。「俺も行くから!」
 
ウィルは真っ直ぐに、アールを見上げていた。その表情はなにか言いたげで、放ってはおけない。
 
「──ルイ、私あとで宿に行くね」
「わかりました。部屋は“百合の間”です」
「ユリの間? 番号じゃないんだね、了解」
「ではカイさん、行きますよ」
「えっ?!」
 
ルイもウィルの様子を察したのだろう。カイを無理矢理連れて宿へ向かった。途中までヴァイスは後ろをついて歩いていたが、部屋の名前も確認済みだ。ふらっと姿を消した。
 
「さてと。どうしたの?」
 アールは中腰になり、訊いた。
「……買い物したいんだ」
 ウィルは気まずそうにそう言って、アールから目を逸らした。
「買い物?」
「……お金がない」
「あぁ!」
 と、アール微笑んだ。「物によるけど、あまり高いものじゃなければ買ってあげるよ」
「ほんとに?」
「うん。そのかわりちゃんと浮き島のこと、教えてね」
「それは大丈夫!」
 と、ウィルはアールの手を取って歩き出す。「お店こっちだよ」
 
ウィルはこの町のことを知っているようだった。ウィルが買い物をしたいと言い出したお店は複雑に入り組んだ道を進んだ先にあったが、迷うことなくアールを案内したからだ。
1、2回来た程度では覚えることは不可能に思える。それに、広い道があるのにウィルはあえて裏通りを選んで遠回りしたのではないかと思えた。
 

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