voice of mind - by ルイランノキ


 内証隠蔽9…『ツィーゲル』

 
カイはシドの隣の席に座り、向かい側に座っているウィルを睨みながらご飯を口に掻き込んだ。アールの隣の席はウィルが占領していた。
ウィルはアールのことを「アールねぇちゃん」と呼んで慕い、彼女の前では可愛い弟を演じているが、アールが食事を終えてテントに歯磨きセットを取りに行くと忽ち態度を変えた。
 
「アールの隣は俺の席なんだからねーっ」
 と、怒るカイに、ウィルは鼻で笑った。
「誰が決めたんだよ。オレが隣にいたほうがうれしそうだったけど?」
「っくぅー! 生意気だなぁ!」
 
そこにアールが戻ってくると、ウィルはすぐに表情を変えてアールに抱き着いた。
 
「アールねぇちゃん、オレ夜怖いからアールねぇちゃんと一緒の布団で寝たい……」
「はぁ?!」
 と声を揃えたのはカイとシドだ。
「いいよ?」
「はぁ?!」
 と、アールの返事に二人はまた声を揃えた。
「お布団が一人分ありますし、スペースもありますよ」
 と、ルイは水を入れたバケツに食器を浸けながら言った。
「やだ! おねぇちゃんと一緒がいい」
「変態だな」
 と、シドは席を立つ。
「なに言ってんの子供相手に」
 アールはそう言って歯を磨き始めた。
「アールん、こいつをナメちゃダメだよ。腹黒のすけこましだよ」
 カイはウィルを指差した。
「すけこましってなに?」
 と、ウィルはアールにくっついて離れない。
「知らなくていい言葉だよ。ウィルには関係ない言葉」
 アールは笑顔でそう答えた。
 
眠りにつく時間になると、ヴァイスは姿を消す。
念のためにいつも敷いておいたヴァイスの布団を今日も広げ、ルイはウィルに言った。
 
「アールさんと寝るのは狭いでしょうから、せめてアールさんの隣に敷いた布団で眠りませんか?」
「やだ」
「…………」
 
アールは仕切りを閉めて服を着替えている。着替え終えると自分の布団を敷き、仕切りを開けてウィルを招いた。
ウィルはアールよりも先に布団に潜り込んだ。
 
「おいっ」
 と、一番端のシドは布団を広げながら言う。「お前ほんとに知ってんだろうな? 浮き島」
「知ってるよー」
 ウィルは布団の中から顔を出してシドを見遣った。
「行き方もですか?」
「うん。でもまだ教えない」
「はぁ?」
「俺ウソついてると思いまーす」
 と、カイはすっかりウィルを信用できなくなっていた。
「ツィーゲル町まで連れてってくれるなら教える」
「ツィーゲル町って、シドさんの……」
 ルイはシドを見遣った。シドの故郷だ。
「そんな辺鄙な町になんの用だよ」
「……べつに。ツィーゲル町の裏から浮き島に行けるんだ」
「うそつけボケッ! んなこと聞いたことねーよ」
「うそついてねーよ!」
 と、ウィルは掛け布団を頭から被った。
 
アールは布団の上からウィルの肩をさすった。
 
「あまりイジメちゃダメだよ。まだ子供なんだから」
「アールはなにもわかっちゃいない……そいつの本性を」
 カイはぶつぶつ呟きながら自分の布団に潜った。
「カイさん、着替えてから寝てください」
「布団に入る前に言ってください」
「言われる前に気づいてください」
「……はい」
 
それぞれが布団に入り、また来る明日の為に体を休ませる。
人の体は脆く壊れやすい。だからこそ少しでも長く睡眠をとる必要がある。
 
「ウィル、もうちょっとそっちに行ける? ちょっと狭いかも」
「うん」
 と、ウィルはゴソゴソとアールが言った逆に移動した。
「ちょっと!」
 とアールは笑う。「逆だよますます狭くなっちゃった!」
「えへへへ」
 
「…………」
 仕切りカーテンの反対側で3人はふたりの会話に耳を澄ませていた。
 
少しでも長く睡眠時間を増やすべきなのだが、この日はなかなか寝付けなかった。
 
「アールねぇちゃんあったかい」
「そう?」
「やわらかくてあったかい」
「やわらか……? 太ってるってこと? ゴツゴツしてるよりはいっか」
「…………」
 
「…………」
 
──眠れない。
 

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