voice of mind - by ルイランノキ


 内証隠蔽7…『生き残り』◆

 
「きっとそれに間違いないでしょうね」
 
ルイはシドと合流していた。シドの左手にはウィルが落としたと思われるお守り、銅のメダルが握られている。
 
「チビ女は?」
「まだ探しているのかもしれません。僕が見てきますので、シドさんは先に戻っていてください」
「電話してさっさと戻れって言えば済むだろうが」
 と、ルイの世話好きに呆れるシド。
「なにかあったら大変ですから。電話を掛けながらその辺を見てきます」
 
━━━━━━━━━━━
 
「おそい。遅い遅い遅いなぁもう!」
 と、ウィルはゲームに飽きたのか足元に転がっている石を拾っては結界の壁に投げた。
「探してくれてるんだよ、感謝しないとぉ」
 カイは困り果て、テーブルに頬杖をついた。
「こんなに待たされるとは思わなかった! お菓子くらい出しといてくれたらよかったのに!」
「半分同意」
 
シドに弟がいたらこんな感じだろうなと、カイは思う。生意気で自己中なところがそっくりだ。
 
──その頃アールは壁一面の棚に置かれた鳥かごだらけの部屋にいた。
 
鼻につんと来る嫌なにおいが纏わり付く。
はじめは鳥かごの中で一羽ずつ、小さな“虫”が死んでいるのだと思ったが、その部屋の明かりをつけてハッと息をのんだ。
 
そこにいたのは親指サイズほどしかない小さな人間だった。
 
「えっ……」
 
嫌な汗が背中を伝う。アールはひとつの鳥かごに顔を近づけ、まじまじとそれを見遣った。そして、小さな人間ではないことに気づく。
 
「羽がある……」
 
そう呟いたとき、真後ろから「ここよ」と声がした。
後ろにあった棚の、一番下の右から二番目の鳥かごの中で小さなそれはアールを見上げていた。
 
「あなたは……?」
「お水を……いただけないかしら……ここから出してほしいの」
 
幼い頃に絵本で読んだピーター・パンを思い出す。ピーター・パンに出てくるティンカーベルにそっくりだった。ティンカーベルは、妖精だ。
 
鳥かごには鍵がかかっていたが、錆び付いていたため強く引っ張っただけで鍵を壊すことが出来た。すぐにシキンチャク袋から水を取り出していると、その妖精はふらふらと弱りかけた飛び方で部屋に置かれている鳥かごをひとつひとつ見てまわった。
 
「あぁ……そんな……みんな死んでしまったのね……ひどいわ……こんなのひどいっ……」
 
妖精はひらひらと床に落ちて、崩れるように泣いた。
 
「……お水を飲んで? 飲みにくいかもしれないけど」
 
アールは妖精の目の前に、水を入れた水筒のコップを置いた。妖精からしてみればお風呂ほどの大きさである。
 
「まだ生きてる子がいないか、探してみるね」
 
アールは鳥かごの中で動かないでいる妖精に、一匹ずつ声を掛けていった。小さいから些細な動きも見逃さないように、しっかりと見遣った。
 
コップの水を手ですくって飲んだ妖精の羽はキラキラと輝きを取り戻し、アールの顔の横へ移動した。
 
「ありがとう、助けてくれて……」
「ううん、私は偶然通りかかっただけだから」
 そう言って一通り見回ったが、息のある妖精はいなかった。
「メック……」
 と、生き残りの妖精は出入り口に近い棚の鳥かごに近づいた。「一週間ほど前までは……私と話をしていたの」
「そう……」
 かごの中で、眠るように死んでいる。
「私が捕われてた鳥かごから距離があるし、姿は見えなかったけど……。でもあるときから返事が短くなって、少なくなって……何度呼びかけても返事が聞こえなくなっちゃった……」
「…………」
 アールは小さな小さな妖精の背中を眺めた。触れようにも小さすぎる。
「はじめはみんな生きてたの。殺されちゃった子もいたけど。ここの住人が姿を現さなくなってから、どうにか抜け出す方法はないかってみんなで知恵を絞ったりしたのよ? でもどれも失敗……それでも私達は飲まず食わずでも人間よりも長く生きられるから希望は捨てなかった。だけど、ひとり、またひとりと声が消えていって……」
「私になにか出来ること、ある? ここに置いていくのは可哀相かも……」
 妖精は振り返り、言った。
「みんなを出してあげてくれる?」
「うん、やってみるよ」
 
鍵があればいいのだが探している暇はなさそうだった。とりあえず見るからに錆びている鍵から力任せに壊していくことにした。
 
そしてアールの手が赤く痛み始めた頃、ルイから着信があった。
 
「ちょっと手伝ってほしいことがあるの」
 
偶然見つけた小屋にいることを話すと、ルイはちょうどその小屋が見える場所にいるとのことだった。

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