voice of mind - by ルイランノキ


 内証隠蔽6…『古びた小屋』

 
「なんでションベンくせぇガキのお守りを探さなきゃなんねんだよ」
 
シドは苛立ちながら森の中を進む。後からアールとルイがついて来る。
 
「放ってはおけないでしょ?」
「そうですよ、シドさんの町まで連れて行くにしても、彼自身を守るお守りがあればますます安全です。それに──」
「“浮き島”」
 シドはそう言って足を止めると、振り返った。「信じてんのか?」
「彼から言い出したんだよ? シドがウィルを無視して自力で壁をよじ登ろうとしたら、『お守りを探してくれたらいいこと教えてやる』って言って、浮き島の話が出てきた」
「えぇ、僕らが浮き島を探していることは知らないはずです。偶然にしては出来過ぎてはいますが、この偶然を見逃すのは勿体ないでしょう」
「ったく……罠でもしらねぇぞ」
 と、シドは背を向けて歩き出す。
「私向こうに行ってみるよ」
「お一人で大丈夫ですか?」
「うん、あまり時間割いてられないし、手分けしよう」
「わかりました、では僕は反対方向を探します」
 
レンガの壁の前では、結界の中でカイがウィルの世話をしていた。といってもゲーム機を貸しているだけだ。
 
「ねぇ、本当に浮き島には美女がいるの?」
 と、ウィルの隣の椅子に座るカイ。
「いるいる」
 ウィルはゲームに夢中になりながら答えた。
「何人いるんだろー?」
「100人」
「うひょー、俺の体がもたない!」
「……あ」
 ゲーム画面に、ゲームオーバーの文字。
「あーぁ、まだまだだねぇ。お手本を見せてやろう」
 と、カイはゲーム機を受け取った。
「おまえも強いのかよ」
「え、お前? 君ねぇ、それが年上のお兄さまに対する態度かい?」
「うっせー。変態ヤロー」
「なぬっ?!」
 
ウィルはひょいと椅子から下りて、結界の外にいたヴァイスに声を掛けた。
 
「おまえはお守り探さないの?」
「…………」
「浮き島の情報おしえてやらないぞ」
「興味ないな」
「…………」
 ムッとヴァイスを睨んだ。
 
ヴァイスの服の中に身を隠していたスーが飛び出して、結界を挟んだウィルの足元に下り立った。
 
「うわっ、なんだコイツ!」
「今まさにヴァイスんが生んだんだよ」
 と、カイが適当なことを言う。
「かわいくねーっ」
 しゃがみ込み、スーを見下ろした。
「そんなこと言ったらアールんに怒られるよ。アールはスーちん大好きなのに。俺の次に」
「ふーん……」
 改めて見ると、スーが丸い目をパチクリとさせた。「やっぱかわいいかも」
 
━━━━━━━━━━━
 
アールは足元を見ながら森の中を探し回った。どの辺りで落としたのかもハッキリしないという。本当に落としたのだろうか。
 
30分ほど歩き進め、ふと足を止めた。顔を上げると木々の間から古い小屋が見える。
 
「……気味が悪いなぁ」
 
歩いてきた道を振り返るが、シドやルイの姿はない。右手に握っていた剣を強く握りなおし、ゆっくりと小屋に近づいてみる。辺りはすっかり暗く、明日の朝にでも出直したほうがよさそうな気がしてきた。
 
「ちょっとだけ……」
 
ちょっとだけ探索してみよう。
アールは小屋のドアに近づき、耳を澄ませた。なにも聞こえない。二回、ノックをしてみるも、反応はない。強めに三回、ドアを鳴らしてみたが、反応はなかった。
 
小屋の反対側からガサゴソと音がして視線を向けると、獣の姿が見えた。こっちには気付いていないようだ。その獣から姿を隠すように小屋の中へ足を踏み入れた。埃臭く、床が軋む。
 
目を懲らしながら電気のスイッチがないかと手探りで壁を探すと、カチッとスイッチが指に触れた。
小屋には小さな笠付きの豆電球が天井から頼りなさ気にぶら下がっており、1メートルの感覚ごとに廊下を照らしている。
 
指についた埃を払って、更に奥へと足を踏み入れた。
それほど広い小屋ではない。出入り口から左へ伸びる廊下を渡ると部屋がふたつあった。どちらもドアが閉まっているが、手前の部屋のドアノブに触れるとギギギッと軋んだ音と共にドアが開いた。
 
その部屋は8畳ほどで、奥には隣の部屋へ繋がるドアがある。
目を細めながら身の回りにあるものを確かめる。細長い木のテーブルに、実験に使うビーカーやスポイト、薬品のような液体が入った瓶などが埃かぶって無造作に置かれている。
青色の模様が描かれた大きな壺があり、何気なく中を覗き込んで悲鳴をあげた。
 
「ひゃあっ!?」
 
のけ反り、バランスを崩したが転倒は免れた。
壺の中にはネズミの死骸が溜まっていた。下のほうの死骸は既に骨だけになっているが、一番上にあった死骸はまだ皮や肉が残っており、真新しいものだとわかる。
おそらく自ら壺の中に入り込んだのか落ちたのかして、上がれなくなってそのまま餓死したのだろう。
 
アールは顔をしかめ、隣の部屋は確認せずに出ることにした。
しかし、廊下に出ようとしたとき、しんと静まり返る部屋の奥から微かに声が聞こえ、足を止めた。
 
 たすけて……たすけてください……
 
「え……」
 
背筋が凍る。助けを求める女性の声が聞こえる。
 
 お願い……助けて……
 
小さな声ではあるが、隣の部屋から聞こえてくることに気付いた。
 
 助けて……ここから出して……
 
「だ、誰かいるの?」
 
アールは恐る恐るドアに近づいた。
 

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©Kamikawa
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