voice of mind - by ルイランノキ


 内証隠蔽5…『新たな出会い』◆


もし旅の途中で私の街に寄れるなんてことになったら……
 
そんなことを考えていた。
 
私の家は街から離れていて、周りにはなにもない。友達がはじめて私の家に遊びに来るときは必ず道に迷うの。住宅街で道が入り組んでいるわけじゃないのに。
目印らしいものがないからだ。裏は山だし、表は畑が広がっている。その先には川があって、一番近いコンビニでさえ自転車で15分くらいかかる。
 
そんなところに彼らを連れてきたってね、それこそなにもないよ。
 
そもそも別世界だから彼らに私の街を紹介するなんてありえないんだけど、もしもって思っていたら、夢で見ちゃったんだよね。
 
シドは「ほんとなんもねーなぁ」って言って、ルイは「ですがとてものどかで、平和ですね」と微笑んで、カイは私の故郷に来れたことに嬉しさいっぱいで、ヴァイスは文句を言うわけでもなく驚くわけでもつまらなそうにするわけでもなくそこにいて、その肩には背伸びをするスーがいて、私は実家に案内するの。
 
そしたらお母さんが「おかえりなさい」と言って、私は「ただいま」って。「仲間を連れてきたよ」って。
そしたらお母さんは「まぁ賑やかね」って……。
 
そんな、ありえない夢。
 
──シド
 
このとき私はもう一度あなたの故郷へ行くことになるなんて思ってなかった。
 
当たり前だよね。だって……

━━━━━━━━━━━
 
「ダメですね、この道も行き止まりです」
 
憤る一行の行く手を塞いでいるのは、50メートルもの高さまで積み重ねられたレンガの壁だった。壁には蔓が伝い、長い年月この道を塞いでいるのだとわかる。
 
「他に道は?」
 と、シド。
 
改めて地図を広げて確認したルイは、首を振った。
 
「ありません……」
「ない……?」
 と、シドが地図を奪うように取り上げ、自分の目で確かめた。「なんだよこれ」
「道の先が消えているのですよ」
「地図が書き変えられたってこと?」
 と、アールは不安げに訊いた。
 
以前、単なる嫌がらせで地図を書き換えたり道を惑わせる魔法の罠を仕掛けていく輩がいると聞いたからだ。
 
「いえ、はじめからです。おかしいなとは思っていたのですが」
「壁の先に道がないわけじゃないだろ」
 と、シドが地図を突き返す。
 
地図には道を塞ぐ壁を表す太い線が描かれていた。その先に少しだけ空白があり、道は続いている。
 
「この壁の向こうに道はあるにはあるってことだよねぇ?」
 と、カイは頭を傾げた。「その空白が何を意味してるんだろー。落とし穴?」
 
適当に答えたカイだったが、落とし穴かどうかは別にしても、そういう類のものが待ち構えているに違いない。
 
「この壁、越える? でも隣の木に登っても届かないよ」
 アールは周囲を見回すが、一番背の高い木でも壁の半分までしかない。
「スーちん偵察してきてよ」
 と、カイ。
 
スーはヴァイスの左肩にいて、目をパチクリさせた。
 
「スーちゃんがなにか見てもそれを説明できるかなぁ。あの巨大タコがいるならスーちゃんの七変化でわかるけど」
「おいハイマトス、そいつぶん投げろ」
 と、シド。「それか銃口に詰めてぶっ放せ」
「最低ーっ」
 アールとカイが口を揃えた。
「うっせぇ!」
 
スーはヴァイスのコートの中に身を隠した。
 
「あーっ、シドのせいでスーちん拗ねたじゃーん」
 と、カイがシドを責めた。
「普通に頼めば行ってくれたかもしれないのに」
 と、アールはため息をつく。
「ほんとそうですよ」
 と、ルイ。
「まさしく」
 と、ヴァイス。
「うーるっせぇな! 俺が行きゃ問題ねーだろ!」
 そう言って自力でよじ登りはじめたその時、森の奥から叫び声が聞こえてきた。「なんだッ?!」
「わからない」
 
アールは険しい顔で答えると、剣を片手に叫び声がした方角へ急いだ。すぐに仲間もついて来る。さっきの叫び声はどう聞いても人間で、子供のようだった。
  
アールが向かった先で見たものは、木によじ登って青ざめている少年と、その少年を下から狙うバニファという魔物だった。バニファはアールがこの世界に来て初めて目にした魔物であり、旅の道中で出会ったセル・ダグラスという老人がおびき寄せた魔物だ。
 
「どけ」
 
シドの声が風を切り裂き、バニファの首を撥ねた。
 
アールは少年がいる木に歩み寄り、見上げた。よく見れば傷だらけのその少年は、不安げにアールを見下ろしていた。
 

 
「もう大丈夫だよ」
 優しく声を掛けると、少年は木から飛び下りてアールにしがみついた。
「こわかったよぉ! うわぁーん!」
「よしよし」
 アールは少年の頭を撫で、困ったようにルイと顔を見合わせた。
 
11才くらいの少年はウィルと名乗った。
腹を空かせていたウィルはルイが用意したおにぎりを5つも平らげると、お腹を摩りながら豪快なゲップをして水を飲み干した。
 
「なんかちっさいシドみたいだ」
 と、カイ。
「どこがだよっ」
 シドの拳がカイの頭に落ちる。
「痛いッ!」
 
行く手を塞いでいる壁の前でテーブルを出し、結界を張った。一先ず少年の話を聞く。
 
「家出?」
 と、ウィルの隣に座るアールが訊く。
「家出じゃない。自立だよ、自立!」
「なにが自立だよガキのくせに」
 と、向かい側に座るシドは頬杖をついてそっぽ向いた。
「どちらにせよ、君ひとりでは危険すぎますよ」
 ルイはそう言って、コップに水をつぎ足した。
「あれさえあれば大丈夫だったのに」
 少年はふて腐れながら呟いた。
「あれってなぁにー? クマたんのぬいぐるみかい?」
 少年の斜め前に座るカイは小ばかにしたように言った。
 
ヴァイスは結界の外で、レンガの壁に寄り掛かって立っている。
 
「違うよっ!」
 ウィルはテーブルを強く叩いて立ち上がった。「お守りだよっ!」
「お守り?」
 アールが詳しく訊こうとすると、少年は椅子に座りなおして言った。
「それさえあれば魔物を寄せつけないんだ。でも落とした……」
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -