voice of mind - by ルイランノキ


 倚門之望27…『交渉?』

 
「こりゃすげーな」
 と、ライモンドは火事で焼け崩れた家を写真に収めてゆく。
 
立派な柱や、大きな家具は形こそ残っているもののどれも黒く焦げ付き、辺り一面に焦げ臭いにおいが漂っている。
消防団が3名ほど現場に残り、火種が残っていないか監視を続けている。
 
「ライモンドさん」
 
女性の声に、ファインダーを覗いていた顔を上げた。アールとカイが近づいてくる。
 
「あぁ、君たちか。いいところに来たな」
 と、ポケットからくしゃくしゃのタバコを取り出した。
 
火事が起きたばかりの場所でタバコを吸う行為に、アールは嫌悪感を抱く。
 
「いいところ?」
 険しい表情で、アールは訊いた。
「お尋ねしたいことがあってね」
 カメラを首に掛けたまま、お尻のポケットから手帳とペンを取り出した。「昨日の夜、お宅らもこの家にいたよな?」
「…………」
 アールとカイは目を合わせた。
「君には話したが」
 ライモンドはペン先でカイを指した。「“アマダット”。君らの仲間のようだ」
「人違いでは?」
「いいや、確認は取れてる。君に話した後、久しぶりにまた一から調べたくなってね、墓地に足を運んだんだよ。ヘルマンの墓と思わしき場所に見知らぬ少年が立っていた。それがこの家の息子、君らのお友達だったのさ」
 
アールは焼け跡を眺めながら、ルイの心配をした。
 
「証拠は?」
 と、ライモンドの前に歩み寄ったカイ。
「君のその態度も十分証拠と言えるが」
 笑いながら、ポケットからボイスレコーダーを取り出した。「本人が認める言葉を発してる」
 
再生ボタンが押され、真っ先に聞こえたのはルイよりも低い声だった。
 
《あの話しは、やはりお前だったのだな》
 
「ヴァイスんだ」
 と、カイ。
 
《アマダットは》
 
ハッキリとそう聞き取れた。そしてすぐに、ルイの声が聞こえてきた。
 
《どうしてわかったのです?》
《同じ匂いがした。お前と、この街の匂いだ》
《……鼻が効くのですね》
 
《まさかカイさんから、アマダットの話を聞かされるとは思いませんでした。冷静を保ったつもりでしたが……》
 
《何処からアマダットの生き残りがいると漏れて、何処からそれが“女性”になってしまったのかはわかりませんが、嗅ぎ回られているようですね……》
 
アールとカイは暫く、ボイスレコーダーに録音されていたヴァイスとルイの会話を聞いていた。
 
《ゼンダさんから直々に城に招待され、グロリアの話を聞かされたときに、このバングルを頂きました──》
 
──ゼンダさん……グロリア。
アールは顔には出さなかったが、ごくりと唾を飲み込んだ。
 
《父から貰った、力を抑えるネックレスは古く、力が薄れかけていたからです。ネックレスの力が無くなれば僕は忽ち自分の力に飲み込まれ──》
 
カチッと、ライモンドは停止ボタンを押した。そしてアールとカイを興味深げに交互に見遣った。
 
「アマダットは彼で決定だな。それはさておき」
 じりじりとカイとの距離を詰め、顔を近づけた。「国王と繋がりがあるようだな」
「なんのことかさっぱり!」
 カイは顔を背け、アールの背中に隠れた。
「嘘が下手だな」
「アマダットだから」
 と、アールは口を開いた。
「なに?」
「アマダットだから、だと思います。正直、アマダットという存在を知ったのは昨日です。そしてそのアマダットがルイだったことを知ったのも昨日でした」
「ふむ」
「だから旅仲間だけど、知らないことが多いんです。なので憶測に過ぎませんが、国王はルイがアマダットだと知っているようですし、知らないにしても強い力を持っていることは知っていた。だから直々に呼ばれたのかもしれません」
「君は国王に会ったことは?」
「ご挨拶程度なら」
「ほう、興味深いな。君らが旅をしているのは国に関わる何かがあるのか?」
「私たちは兵士の端くれですよ」
 
スラスラと、嘘が出てくる。
 
「兵士……」
「外の治安調査を頼まれているようなものです。新たな魔物を見つければ逐一報告、土砂崩れで通れない道があったら報告、特定の魔物の生息地を見つけたら報告、報告・報告・報告。それが私たちの仕事です」
「兵士ねぇ」
「兵士になれなかった兵士の“端くれ”です」
 と、アールは不機嫌にライモンドを睨んだ。「私たちの代わりはいくらでもいるんですよ。だから、私なんかでも使って貰えた」
「何故そんな仕事を引き受けた?」
「金です。ほかになにがありますか」
「死んだら終わりじゃねぇか」
「死ぬまで稼ぐんです。稼いだお金は私の元にじゃなく、ある人の元へ行くようにしていますから」
「なるほど。──じゃあ君は?」
 と、ライモンドはアールの後ろを覗き込む。
 
アールはじわりと汗をかいた。カイがうまい嘘をつけるだろうか。下手な嘘でも私のように堂々とすればなんとかなるけれど。
 
「お、俺は……シドについてくって決めただけだよ」
「シド? あぁ、あの人相悪い奴か」
 と笑い、タバコを地面に落とした。踏んで火を消し、質問を続ける。
「兵士になりたかったわけじゃねーのか」
「俺は別に……しばらく家を離れられればなんでもよかったんだ」
 
──あれ……?
と、アールはカイが本当のことを言っているのではないかと一瞥した。
 
「へぇ、一見あっけらかんとして見えるが、問題を抱えてるってわけか」
「…………」
 カイは視線を落とす。
「もういいでしょ」
 アールはカイとライモンドの間に割って入った。
「いや、よくないね。もっと信憑性がねぇと読者を引き付けるネタにはならない」
「ネタにするつもりなの?」
「当たり前だ。これは俺が長年追ってきたネタだぞ」
「やめてください。ルイは今精神的に辛い状況なんです。──お金で解決出来ませんか」
「ハッハッハ! そんな美味しくもねぇ金なんかいらねぇよ」
「記事にしないでほしいんです」
「断る。」
 と、ライモンドは真顔で言った。「これは仕事だ」
「──カイ」
「ほいッ」
 と、突然カイはライモンドに飛び掛かった。
「うぉわっ?!」
 
ライモンドがバランスを崩して、手に持っていたボイスレコーダーを地面に落とした。それを目で捉えたアールは高らかにジャンプして、ボイスレコーダーの上に着地。バキッとプラスチックが割れる音がした。
 
「あ"ーっ!? お前ッ」
 と、尻餅をつきながら叫ぶライモンドの首からカイがカメラを取り上げた。
 
アールに掛けより、奪ったカメラを見せて自信満々に微笑む。
 
「お前ら……なにやってんのかわかってんのか?」
 呆れながら立ち上がり、ズボンについた砂を払った。
 

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