voice of mind - by ルイランノキ


 倚門之望22…『ハイマトス』

 
「に、にに、人間を喰うっ?!」
 と、カイの口からご飯粒が飛んだ。
 
午前6時。
あれから一眠りし、朝を迎えていた。
 
「カイ汚い。ご飯飛んだ」
 と、カイと座卓を囲んでいたアールが言う。
 
ヴァイスの姿はない。ルイが起きたときにはもうスーも一緒にいなかったようだ。
シドだけがラウンドテーブルで食事をしており、ルイもカイと同じ座卓で食事をしている。
 
「だって、人間も喰うんでしょ?! ヴァイスん!!」
「うんでも、人間の姿になるために仕方なく、みたい。だから人間の村を襲ったハイマトス族がいたのは事実みたい」
「主食として喰ってそうだけどな」
 と、シド。
「仕方なくだってば! ……多分」
 と、むくれるアール。
「仕方なく喰ったら美味かったってこともあんだろうが」
「食事中ですよ」
 と、姿勢よく食事をしているルイ。
 
夜も遅く、口数が少なかったせいで詳しくは聞き出せなかった。だからハイマトス族についてまだわからないことが多い。
 
「食事中に食事の話をしてるだけだろ」
「えー、じゃあコアラは母親のウンコを食べる話をしてもいいわけぇー?」
 と、カイがシドに食いついた。
「汚ねぇ話しすんじゃねーよ!」
「食事の話ししてるだけですけどー?」
「いい加減にしてください」
 と、黙々と食事を続けるルイ。
「わかったわかった」
 シドはみそ汁をご飯にかけてかきこんだ。
 
アールはみそ汁を飲み干し、食事を終えて食器を重ねているルイに訊いた。
 
「ねぇルイ、ヴァイスはまだ、呪いが解けたわけじゃないよね」
「呪い?」
 と、手を止める。
「あ、黒魔導士の魔法」
「えぇ、モーメルさんが姿だけでもと人間に戻す薬を作り、ヴァイスさんに飲ませたようです」
「それってどういうことなんだろう。人間の姿に戻って、目もハッキリと見えるようになったみたいだし、でも魔法は解けてないんでしょ?」
 ルイは少し考えた。
「一時的なものなのかもしれませんね」
「人間の姿に戻ってるのが?」
「えぇ。例えば病気になって熱が出たとします。熱を抑える薬を飲んで熱は下がっても、病気が無くなったわけではないということです」
「……そっか」
 
食事を終えたシドが立ち上がる。
 
「おいお前ら、人間の姿に戻ったっつっても、元は毛むくじゃらだからな。毛むくじゃらの状態でも元に戻ったと言える」
「ややこしいこと言わないでよ」
 アールはムッと口を尖らせた。
「その黒魔導士が何者なのか、何のためにヴァイスさんや村を襲ったのか、気になりますね」
 
食器を持って立ち上がるルイ。アールも残り一口のご飯を口にかけ込んで、食器をキッチンに運んだ。
 
「気になることがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「ヴァイスって……自由自在に変身出来たりするのかな」
「……というと?」
 
迷宮の森での出来事を思い出す。死体の頭を山積みにしたアンデッドに捕まり、身動きがとれなくなっていたときに人間の“手”の化け物がぞろぞろと襲い掛かってきた。
そんな絶体絶命だったアールの危機を救ったのがヴァイスだった。
振り向いたときには“手”の数が減っており、動いている“手”はなかった。緑色の血で染まっていた手のアンデッド。
ヴァイスの口も、緑色に汚れていた。
 
「なんとなく」
 アールは考え込みながら言う。
「どうでしょうか……」
「最初からライズの姿に自由自在に変身できてのなら呪いで“あの姿にされた”とは言わないよね。人間の姿だったのに呪いでまたライズの姿に戻されて人間の姿に戻れなくなった、かな? で、モーメルさんの力を借りて人の姿に戻れるようになった……? 一時的に」
「かもしれませんね」
 と、ルイも考え込む。
「それによってヴァイスは自由自在にライズにも変身出来るようになった、とかありえない?」
 
もう一度ライズに会いたいと思ったが、ライズの姿に戻ることをヴァイスがどう感じているのかかわからない以上は容易く口には出せなかった。
 

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