voice of mind - by ルイランノキ |
「アマダットについては、後で話しますね」
ルイは玄関の前でそう言った。
「ルイ、本当に大丈夫……?」
と、アールは不安げに尋ねた。
メイレイはようやく落ち着きを取り戻していた。だが、いつまた暴れ出すかわからない。ベッドに呆然と座り込んだまま、一点を見つめている。
「えぇ、僕もすぐに宿へ戻ります。先に休んでいてください。お騒がせしてすみませんでした」
「気にすんな」
と、シド。
「そうだよー」
と、カイ。
ヴァイスはルイと目が合うと、小さく頷いた。
「ありがとうございます。──アールさん、宿に戻られる前に病院に行かれてください。顔にガラスの破片が刺さっているかもしれませんから」
「うん、わかった」
時刻は午後8時過ぎ。外は真っ暗だ。
「僕がすぐに治せればいいのですが……」
と、ルイは家の中を見遣る。
メイレイが気掛かりなのだ。
「いいよいいよ、大丈夫だから。じゃあ……先に戻ってるね」
「はい。お気をつけて」
一同はルイを残して宿へ向かった。
歩き出して直ぐにアールの表情が苦痛に歪む。
「いたたた……」
立ち止まり、靴を脱いだ。
「どったのー?」
と、カイ達も足を止める。
「ガラス踏んだみたいで」
靴下を脱ぐと、足の裏が血で真っ赤になっていた。
「うひゃあ! いたたす!」
と、カイが顔を背けた。
「まだ刺さってんのかなぁ……」
「お前どうせ暇だろ」
シドがヴァイスに言う。「病院に運んでけよコイツ」
「いいよ私歩いて行けるしっ」
慌てて靴下を履いた。
「ヴァイスん、スーちんは俺と一緒だから安心してアールを送ってってねー」
と、カイまでヴァイスに任せた。「俺も行ってあげたいけど眠らなくちゃ」
「なにその理由……」
カイは大きな欠伸をしながら、シドと街の闇に消えて行った。
「私ひとりで行くから、ヴァイスも先に休んでて──」
と、言い終わる前にひょいと抱き抱えられていた。
「ルイに何故一緒に行かなかったのだと咎められるのは面倒だ」
「……ごめん」
結局アールはヴァイスにお姫様抱っこをされながら病院へ向かった。
「ルイ……大丈夫かな」
「…………」
「ルイのお母さん、ルイのこと……旦那さんと重ねて見てるところがあった」
「…………」
「…………」
アールはヴァイスの顔を見上げ、気になっていたことを尋ねた。
「ヴァイスは……魔族とは違うの?」
「…………」
「ハイマトス、だっけ。それとアマダットは違うの?」
「…………」
「ごめんね、何も知らなくて」
病院に着き、ドアを開ける為に一度アールを下ろした。
「ルイがアマダットについて説明する。その時にでも話そう……」
と、ヴァイスは病院のドアを開けた。
アールは片足で跳ねながら中へ入り、靴を脱いだ。
さほど大きくはない街に相応しい、小さな病院だ。スリッパに履き替え、受け付けの小窓から顔を覗かせた。
「すみません」
「あ、はい。どうされました?」
と、中年女性の看護師が対応する。
「あの、」
どう説明しようか悩んでいると、看護師が受け付けから出て来てアールの体を一通り目で見遣った。
「顔に血がついてるけど」
と、看護師の顔が近づく。「転んで出来る怪我ではないようね」
「ガラスを踏んだんです」
「え? ガラス? 踏んだ?」
看護師はアールの足元を見遣る。
アールはスリッパと靴下を脱いで足の裏を見せた。血が少し固まったのか、黒くなっている。
「あらあら……えっと? 原因は貴方じゃないわよね」
と、ヴァイスを一瞥する。
「あ、違うんですっ」
アールは大袈裟なほど否定した。「酔っ払いに絡まれて、彼はその……助けてくれて」
「酔っ払い? やぁねぇ……。とにかく診てもらいましょう」
と、看護師はアールを診察室へ連れていった。
ヴァイスは静まり返った廊下にある椅子に腰掛け、診察が終わるのを待った。
Thank you... |