voice of mind - by ルイランノキ


 倚門之望13…『囚われる』

 
「どうした?」
 
霊園を出たところで、ヴァイスはルイの電話が終わるのを待っていた。
ルイは電話を切り、ポケットに仕舞った。
 
「アールさんから、電話でした」
 
そう答えて、暫く視線を落としたまま立ち止まっているルイを、ヴァイスは静かに眺めていた。
 
「すみませんが、男らしくないお願いを聞いていただけませんでしょうか」
「なんだ?」
「……一緒に、来ていただけませんか」
「…………」
「僕の家に」
 
何故、と言いかけて、口を閉ざした。
付き添いが必要になるほど、ルイの心が衰弱しているように思える。
 
「いいだろう」
 
ヴァイスの言葉に、ルイは申し訳なさそうに頭を下げた。
 
「すみません……ありがとうございます……」
 
その姿はごく普通の、まだ幼い10代の少年に見えた。
 
「気にするな」
 
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「あーのーさぁ? 俺を放ってどこ行ったわけぇ? 出掛けるなら出掛けるって言ってよぉ!」
 と、カイはベッドの上で電話をしながらふて腐れていた。
『ごめん、すぐに戻るつもりだったの。でも……ルイのお母さんに会って』
「え、ルイのママん?!」
 
アールはリビングを出て、廊下から電話をしていた。
ルイとの電話を終えたあと、すぐにカイから電話が掛かってきたのである。
ルイの母親は今、シドと楽しそうに話している。旅の道中にあった色んな話。全てルイ絡みの話だ。
 
『うん、育てのお母さんらしいんだけど』
「へ? あーぁ、そういえば生みのお母さんは亡くなったって言ってたなぁ。なんで死んだのかはしんないけど」
 
カイはベッドから起き上がり、ラウンドテーブルの上で寝ていたスーを起こした。
 
『そうなの……?』
「あ、今寂しいって思っちゃった? 知らなかったのは私だけかぁって」
 と、電気を消して部屋を出た。部屋の鍵を閉め、フロントに向かう。
『私だけ? じゃあシドは──』
「知ってると思うよー? アールがまだこっちの世界に来る前のことだよ。俺がルイにお姉さんか妹がいるのか聞いたことがあったんだ。その流れでお母さんの年齢と容姿を聞いたわけ。そこにシドもいたからさぁ」
『なんとなくカイがなんでそんな質問をしたのかわかる気がする……』
「え? なんとなく聞いただけだよー」
 と、肩にスーを乗せたカイはフロントに鍵を預け、外に出た。「んで、どこ?」
『え?』
「ルイんち、どこー?」
『え、来るの?』
「そりゃ行くよー。アールだけずるい!」
『シドもいるよ。あとでルイも来るみたい』
「じゃあ尚更俺も行かなくちゃ。ご挨拶したいしねぇ」
『……そだね』
 
アールは廊下からリビングを見遣った。
人数が多いほうが、いいのかもしれない。
 
なにが?
 
自分に問う。わからないけど、なんとなくそう思う。和やかにルイの“あの人”が再会するとは思えなかった。
 

──今思えば、女の勘というものだったのかもしれない。
女の勘って、恋人が浮気したときに働くものだと思っていたけれど。

 
アールに場所を教えてもらったカイは、また自転車を借りて行こうか悩んでいた。借りるにはお金がいるし、徒歩は面倒くさい。
 
「誰かぁ……バイクに乗せてくださぁーい」
 
独り言を言いながらルイの実家へと歩みを進めていると、後ろから声を掛けられた。
 
「カイさん?」
「──?! ルイ! ヴァイスんも! 今から家行くとこ?」
 ルイは少し考え、アールかシドから聞いたのだろうと察した。
「……えぇ」
「俺も行くんだけど、いいよね?」
「それは……構いませんが、面白くはないと思いますよ」
「えー、そんなことないでしょー」
 と、カイたちは歩き出す。「ルイが育った家を見てみたいしぃ」
「そうですか?」
「ルイの部屋も見てみたいしぃ」
「特になにもありませんよ」
「ルイのちっちゃい頃のアルバムとかさぁ、見せてもらったりぃ」
「……あまり見せたくありませんが」
 
ルイは苦笑した。
一歩ずつ家に近づく度にドクドクと心臓が脈打ち、息苦しさを感じる。額から滲み出てくる汗を何度も袖で拭った。
 

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