voice of mind - by ルイランノキ


 倚門之望4…『おもしろい話』

 
カイはテーブルに出されたクッキーやスナック菓子をつまみながら、オレンジジュースを飲んだ。
 
「じゃあ君はいざという時に活躍するために日頃は無駄な戦闘を避けて体力を温存しているわけか」
 テーブルの向かい側に座る男が言った。男側のテーブルには端に置いたカメラとメモ帳、そして赤いランプがついたボイスレコーダーが置かれている。
「そうそう。シドとアールはまだまだ弱々しいから毎日戦闘を繰り返して腕を磨かなきゃいけないんだけど、俺にもなると必要ないんだ」
「なるほど」
 
男は手帳に《うそつきで遠慮をしらない少年だが、愛嬌はずば抜けていてユニークだ》と書いた。
 
「ところで君だけ俺について来てよかったのか? アールって子、ひとりにしちゃっていいわけ?」
 と、ペンを置く。
「だぁってアールが暇なら行ってこいって言うんだもん。アールと離れるのは寂しいけど、報酬もらえるんでしょ? それにお菓子も貰えちゃうなら全然オッケー!」
 カイは袋に入った煎餅を取り出し、かじった。
「君とアールは恋人同士なのか?」
「違うけど両思いなのは確かだねぇ」
「随分と自信があるんだな」
 と、男は背もたれに寄り掛かりながら笑う。
「そりゃあね。俺に惚れない女の子はいないから」
「ははは、面白いね」
「え? なにが??」
 
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ヴァイスはスーを肩に乗せて街の景色が眺める場所を探していた。
3階建て以上の背の高い建物は電波塔くらいしかなく、小高い場所にある公園は遠足に来た子供たちで溢れていた。
 
「落ち着ける場所はなさそうだな」
 
ヴァイスは公園から引き返し、騒がしくなく酒が飲める落ち着いた店を探した。
 
一方シドは武器屋で無料カタログを貰って店を出たあと、そのまま宿には行かずにVRCへ向かった。ゆっくりしている時間はないからだ。
 
ルイは薬局を出たあと、足速に裏通りを歩きながら宿へ向かった。時折腕時計を見遣り、頭の中で今日のスケジュールを組み立てる。胸に息苦しさを感じ、時折足を止めて壁に寄り掛かると胸を押さえながら呼吸を繰り返した。
 
アールは戦闘部屋で1時間ほど汗を流したあと、カイに電話を掛けてみたが出なかった。
 
「まだあの人の家かな」
 
そういえばまだ名前を訊いていなかったなと思う。30代前半くらいだろうか。顎に少し髭を生やしていて身なりは綺麗とは言えないが、女性にモテそうな外見だった。
 
──終わったら連絡してって言ってたくせに。
 
アールは少しふて腐れながら、廊下の窓から中庭を見遣った。ベンチが端に置かれているだけで特になにもない。
カイがカメラを持った男性について行くとき、アールに帰るときは電話してねと言っていたが、出ない。男の住所も聞いていないし、少し不安になる。
 
怪しい人じゃなければいいけど……。
 
迂闊だった。知らない人にはついて行かないようにと幼い頃から言われているのに。
アールはもう一度カイに電話を掛けてみると、今度はすぐに出た。しかし──
 
『もしもしアールぅ? 今面白い話聞いてるとこだから後にしてもらえるぅ? 帰ったら俺の可愛いお口から聞かせてあ・げ・る』
 と、電話が切れた。
 
なにはともあれ、無事ならよかった。
携帯電話をポケットにしまい、一人で宿ることにした。
VRCを出たとき、ちょうど出入り口でシドとばったり出くわした。
 
「シド! 来たんだ」
「暇だしな」
「私は今から帰るとこ。カイは知らない人の家」
「なんじゃそりゃ」
 
さほど興味なさそうに、シドは受け付けへ。
アールはシドに背を向け、自転車を止めた場所に向かった。
 
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「そんなに美人なの?!」
 カイは目を輝かせながらテーブルに身を乗り出して訊いた。
「誰に訊いても“美しい人で”と言うんだよ。女性に訊いてもね」
「美し過ぎる女の人なんて想像できない! 想像では表現できないほどの美人だ! 逢いたい!」
「俺も逢いたくてたまんなくなったよ。どんだけの美人なのか拝みたくなってね。──いつしか本筋を忘れるとこだったよ」
「本筋? なんだっけ。なんの話だったっけ? おっちゃん世界一の美女を探してたんだっけ」
「ちげーよ。おっちゃんはやめろ。兄貴と呼べ」
 

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