voice of mind - by ルイランノキ


 倚門之望3…『外の世界』

 
武器屋には50本ほどの刀が飾られていた。短剣も含めると100本以上はある。どれもケースの中にあり、触れるには店員に言うしかない。
流石に武器屋の中にまで花が飾られていることはなかったが、アンティークな小物が並べられ、お洒落な店内である。
 
「いらっしゃいませ。なにかお探しで?」
 と、50代半ばの男性店員がシドに声をかけた。
「いや、ちょっと見てるだけなんだが……新品ばっかだな」
「中古品でしたらあちらの倉庫に」
 
案内され、レジ横のドアを開けて入ると四つの棚が並んであり、様々な刀剣が無造作に置かれていた。
 
「おいおい、管理が雑だな」
「人手が足らんのですよ」
 と、店員がバツの悪い顔をする。
「雇わねぇのか?」
「武器屋っていうのはそうそう儲かるものではありませんからね。旅人が訪れても買っていかれる客より売りに来た客のほうが多いですし。大金はたいて買っていかれるのは新品のものがほとんどで、中古品を買うのはコレクターばかりですが、そんなにおりませんし」
「まぁそうだろうが」
 シドは目の前にあった棚から適当に一本の剣を引き抜いた。
 
所々錆び付いている。刃もボロボロだ。これじゃあ大根の切り口さえざらつくだろう。
 
「VRCにレンタルしていた時期もありましたが……保管状態が悪く契約を打ち切られてしまいまして。もう鍛冶屋に売ろうかと」
「可哀相に」
 と、シドは剣を棚に戻した。
「えぇ、私も若い頃は旅をしておりまして“相棒”がいましたから、お気持ちはわかります」
「墓場だな、ここは」
 
━━━━━━━━━━━
 
アールとカイはVRCに到着していた。道に迷うこともなく、自転車だとすぐだった。
今回は長居しないため、トレーナーはつけずに自由に使える部屋に向かう。
 
首に掛けていた剣を腰に差し直して廊下を歩いていると、結局ついて来たカイが言った。
 
「あれからシオンちん、どうなった?」
 その名前にどきりとする。
「連絡はないよ……。そっちは?」
「ないなぁ。結局アールがシオンちんに恨まれることしたってことぉ?」
「……そうみたいだね」
 
そう答えながら、アールはカイもその後のことを気にすることもあるんだと、意外に思う。
 
「カイはどこまで知ってたかな」
 ルイがどこまで仲間に知らせただろう。
「ボーゼじいちゃんが死んだってこと。巨大なシャチに潰されて」
 
廊下の向かい側から一人の男性が歩いてくる。アールは思わず彼をチラ見した。首に一眼レフカメラをぶら下げていたからだ。武器らしきものは持っていないが、肩から黒い鞄を下げている。
 
「そっか、じゃあ全部聞いたんだね」
「うん、多分。でもじいちゃんが死んだのって俺たちが島を出てからじゃん? なのにアールのせいにするなんてわけわからないよ」
 膨れ面のカイの横を、カメラを持った男が通り過ぎる。
「元を辿れば私のせいだから」
 
目の前に予約した戦闘部屋が見えてきたが、その手前でアールの足が止まった。
視線を感じて振り返ると、すれ違った男がカメラのレンズを向けている。
 
「お? スカウトかなぁ」
 と、カイはピースをしてみせると、男は困ったように苦笑しながらカメラを下げた。
「なにか用ですか?」
 アールは男に歩み寄った。
「いや、珍しいなと思ってね。女の子が腰に刀剣を差していて、尚且つそれが様になっているというのが」
「え……私ですか」
「なぁーんだ俺をモデルにスカウトするんじゃないのかぁ」
 と、カイがすねる。
 
男は肩に掛けていた鞄から一冊の雑誌を取り出し、アールに渡した。
 
「私は《外の世界》という雑誌の記事を書いていましてね、こうして外から訪れた旅人と接触して話を聞かせてもらったり外の世界の情報を貰っているんですよ。取材料は内容によってはお支払いしていますがね」
 
アールは男の話を聞きながら、雑誌をパラパラとめくった。カイが斜め後ろから覗き込む。
 
「ほんとだ。武器を持った旅人さんたちが載ってる」
「中には珍しい武器を持っている人もいてね、武器特集なんて企画もやってるんですよ」
「俺も写りたいなぁ」
「お、取材してもよろしいですか?」
「すみません」
 と、アールがカイを阻止するように、雑誌を男に返した。「取材はごめんなさい」
「えぇーっ」
 カイがうなだれる。
「取材されると困ることでも?」
 男の目が好奇心に満ち溢れる。
 
カイが話の流れで全て察し、口にチャックをした。
 
「はい。親に内緒で出てきたんです。家出同然で。居場所がバレると困ります」
 適当に、咄嗟に考えついた嘘だった。
「どうして家出なんか。しかもなにも外に出ることはないだろう」
「内緒です」
 アールは人差し指を立てて口の前へ。「取材は受けないと言ったはずですよ?」
「ははは、参ったな」
「でもカイならいいですよ、根掘り葉掘り聞いても。何も出てこないと思いますが」
「どういう意味だよぉ!」
「《刀を腰に差して旅をしているくせに滅多に刀を抜かない男》の特集でも組んでもらったら?」
 
意地悪を言うアールに、カイは口を尖らせた。
男はそんな二人を見ながら面白そうに笑っている。
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -