voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス32…『色のある世界』◆

 
出口から外へ出ると、建ち並んでいたテントや観覧車は無くなっており、ジャグリングや玉乗りをしていたピエロたちは広場の出入り口で整列していた。その中心に、一行を移動サーカスに誘ったクラウンがいる。
 
「おいテメェら……」
 
怒りの形相で歩み寄るシド。しかしクラウンは怯むことなく予め用意していたようなセリフを吐いた。
 
「移動サーカスはオレたちの住まい! いつでもどこでも呼ばれたら飛んでゆく。別名、ムスタージュ組織、第十部隊サンジュサーカスの一味だ!」
 
それぞれポーズをキメて見せた。
一行と彼らの間に冷たい風が吹く。
 
「なんか言ってくれないかなーぁ」
 と、クラウンは腕を組んで片足に体重をかけた。
「要するに敵だってことだな。正々堂々と戦え」
 シドはこの厄介な連中を早く始末したいと言わんばかりに刀を抜いた。
「いや、正々堂々と戦うのはオレたちのやりかたじゃないのさー。血生臭いの嫌いでねぇ。遊ぶことだーいすき」
 
クラウンは人差し指を真っ直ぐに伸ばし、アールたちを一人一人指差して言った。
 
「今回はそちらの勝ちだと認めよーう。次回は必ず死んでもらうねー。それじゃ、また」
「え、オイッ!」
 
彼らの地面に魔法円が広がり、サンジュサーカスの一味は光に包まれて逃げるように姿を消した。
一同は呆気にとられていた。ホワイトメイズに入る前までは設置されていたスピーカーから大音量で音楽が流れ、道化師達が愉快にパフォーマンスを繰り広げ、賑やかだったのに今はその名残もなにもない。
 
「また、だと?」
 舌打ちをして、シドは刀を鞘におさめた。
「第十部隊って言った?」
 アールはたどたどしくシドに近づいた。まだ片目が見えにくい。
「随分“飛んだ”な」
「まぁ順番に現れなきゃいけない決まりはないんだろうけど、また現れるのは厄介かもね」
 
アールはなんだかポケッ〇モンスターに出て来るロケ〇ト団を思い出した。どこかユニークで憎めないところが似ているかもしれない。
 
時刻は午前10時。
まだらな青色の空が一行を見下ろし、茶色と緑色の木々が一行を囲んでいる。風に靡いて音が生まれ、自然の香りが流れる。
 
「色があるって、落ち着く」
 アールは呟くようにそう言った。
 
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一行が去ったあと、広場の中心に魔法円が浮かび上がった。そこから姿を現したのはクラウンと、髭を生やしたスーツ姿の男だった。顔は暴行を受けたのか、痣や擦り傷が酷く、瞼は腫れていた。
 
スーツ姿の男はクラウンに尻を蹴られ、魔法円から押し出された。
 
「お前まで連れてくとこだったー。あいつらが死んだらお前も殺す予定だったけど、もう少し生かしてあげよーう。奴らの情報を掴んだらまた教えてねー? そのときはもうちょっと報酬上げちゃうよーん」
 と、クラウンは満足げに笑う。
「あいつらの情報を教えたのは……あいつらを信用していたからだ」
 ふらつきながら立ち上がったのは、ジャックだった。「この金は有効に使わせてもらう」
「意味わからないんだけどー?」
 と、首を傾げる。
「あいつらがお前らごときにやられるわけねぇんだ。お前らがなんであいつらを狙ってんのか知らないがな」
「ふーん。生きて帰れたから言える言葉だねーぇ」
 クラウンは目を見開き、口元だけ緩ませ笑った。「死んでたらお前のせーだ」
「死なねぇよ。情報は教えたんだ。金は返さねぇからな」
「なんに使うのー? 飲み代? いいねぇ、酒は娯楽だ」
「ちげぇよ。捜したい男がいるんでね……金がいるんだよ」
「…………」
 クラウンは何か考えるようにジャックを見据え、口を開いた。
「それはザハールかーい? いや“ジム”と言ったほうがピンとくるかなーあ」
「なっ……なんでお前ジムを知ってんだ!」
 
ジャックは驚いて、クラウンにつかみ掛かった。無理矢理にでも吐かせるつもりだ。
クラウンは怯む様子もなく、そんなジャックを鼻で笑った。
 
「まぁ、他人っちゃ他人だけど、仲間っちゃ仲間だからねぇ」
「……どういう意味だっ」
「部隊が違うんだよ、他所の部隊なんか興味ないから名前知らない奴らばっかなんだよね。同じ組織の人間でもねーぇ」
「同じ組織……」
「あいつは雑魚だから。雑魚部隊。一番下っ端の十七部隊だったかなぁ。オレは第十部隊さ。ザハールを知っていたのはたまたまだ。後の連中は知らないねーぇ」
「なんだよその組織ってのは……あいつらに関係あんのか?!」
 あいつらとは、アール達のことだった。
 
入院中にアールが、全ては自分のせいかもしれないと、そんなことを言っていたような気がする。
 
「あるよー? でもお前には関係ないねーぇ」
「関係あるだろっ、これだけ関わってんだからよぉ!」
 ジャックはクラウンの胸倉をギリギリと絞めた。
「教えてあげてもいいけど、死ぬよ? それに関係ないやつに話したらオレが消されるねーぇ。だから知りたいなら条件としてオレ達の仲間になることだ」
「仲間……だと?」
「どうするー? 知ったら覚悟しないと小指だけじゃ済まないよ」
 
ジャックの右手の小指が潰れていた。拷問を受けた際に潰されたのである。どんなに暴行を受けてもアール達のことは話さないつもりだった。だが、死を悟ったとき、気が変わった。痛みに耐えながら疑問に思っていた。なぜアール達のことをここまでして探っているのか、そして彼女が言った意味深なセリフ。彼女は何者なのか。仲間が死んだことやジムの裏切りと何か関連しているのか。
それらを知る権利が自分にあるのではないかと。
 
「どうする? 弱そうで戦力外だけどまぁ“楯”代わりにはなるだろう。仲間になるかーい?」
「俺は……」
 
──ジム、お前は今どこで何をしている?
お前とは一生会うつもりはなかったが、真相を訊きたい。
 

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©Kamikawa
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