voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス33…『次のルート』

 
「さっきからシドばっかり戦って戦わせてくれない」
 
アールは首に掛けていた武器を元の大きさに戻して腰に挿した。現れる魔物をひとりで倒していくシドを眺める。
 
「仕方ありませんよ、迷路内では魔物がいませんでしたから、うずうずしていたのでしょう」
「キマイラだけじゃ発散出来なかったんだね」
 
キマイラの動きを鈍らせるために巻き付けた伸びロープは、回収しないままだった。回収していたらまたなにかに使えたかもしれないのにとアールは少し後悔した。
 
魔物と戦っているシドを余所に、ルイは地図を広げた。アールも地図を覗き込んだため、背の低い彼女に合わせて地図を少し下げたルイ。
 
「うーん、全然わからない。今どこなの?」
 と、アールは地図の右側を持って現在地を探す。
「ここです。今こっちの方面へ歩いていて……」
 ルイの右手の人差し指が地図をなぞる。「ここから分かれ道になっています」
「ほんとだ。どっちから行くの?」
 と、二手に分かれている道を目で辿る。「あ、ここって街だよね? こっちの道のほうが街に立ち寄れていいんじゃない?」
「さんせーい」
 と、カイも覗き込む。
「えぇ、ですが移動サーカスで数日間も足止めをくらいましたので……」
「あ、そっか。そうだよね、じゃあ今度は街に寄らずに行こうか」
「不賛成」
 と、カイ。
「シドさんも立ち寄ることは避けたいでしょうし、多数決で決めても街のない道へ進む方がいいでしょう」
 
ルイはそそくさと地図を閉じた。
 
「えー、待ってよぉ、ヴァイスんは? ヴァイスんは街に寄りたいよねぇ?」
 カイは少し離れた場所にいたヴァイスに訊く。
「いや、私はどちらでも構わん」
「どっちでもいいならじゃあ街に寄りたいってことにしてぇ、アールだって出来れば街に寄りたいでしょー?」
「まぁ……でも」
「シドぉー」
 カイが呼ぶと、魔物を仕留めていたシドが振り返った。
「シドはさぁ、武器屋行きたくなーい?」
「は? 武器屋?」
「街に寄るか寄らないかで多数決をとってるんだ」
「寄る必要ねぇな。食材足りてんだろ?」
 と、シドはルイに訊く。
「えぇ、なんとか……」
 ホワイトメイズでは殆ど与えられた食料で過ごしていたから、その分の食材が余っている。
「じゃあ必要ないな」
「えーっ、最新の武器とか置いてる店があるかもしれないのにぃ。スーパーとかめっちゃ安いかもしれないのにぃ。可愛い女の子沢山いるかもしれないのにぃ」
「どんな街なの?」
 アールはルイを見遣った。
「……わかりません、行ったことがないので。そんなに小さな街では……ないかと」
 と、ルイは眉をひそめた。
「どうした? 顔色悪いな」
 シドはルイの顔を覗き込んだ。
「えぇ……実は少し体調が……」
「早く言えっての」
 
一先ずテントを広げ、ルイは薬を飲んだ。熱を計ると38度を超えている。
 
「しばらく横になる?」
 と、アール。
 
テント内にはアールとルイ、そしてカイがいた。シドは外で魔物を相手に時間を潰している。ヴァイスはなにをするわけでもなく木に寄り掛かり、ルイたちが出てくるのを待った。スーはヴァイスの肩から飛び降りて、草むらの中を跳びはねた。スーなりに遊んでいるようだ。
 
「いえ、僕が足を引っ張るわけには……」
「いつから具合悪いの?」
「迷路をさ迷っているときからあまりすぐれていませんでした」
 と、話すルイの横でカイが布団を敷いている。
「気づかなかった……。ルイはあまり顔に出さないから。少し休もう? 悪化したらいけないし」
「いえ、大丈夫ですよ」
 無理をして笑顔で答えるルイの額に汗が滲んでいた。
「ダメだって。旅にルイは必要不可欠なんだから、早く治してもらわなくちゃ」
「……すみません」
 
ルイは仕方なくシキンチャク袋から布団を取り出した。カイはとっくに自分の布団で眠っている。
 
「着替えますね」
「あ、うん。シドたちに休むって伝えてくるね」
「すみません……」
 
アールはテントを出て、ヴァイスとシドにルイの病状を伝えた。ヴァイスは特になんの反応もしなかったが、シドは仏頂面をして舌打ちで返事をした。
 
「あと街にも寄らない? ルイの体調も気になるし」
「街に着く頃には治ってんだろ」
「そうだといいけど……。それに地図を見たら一本道に出るまでの距離は同じくらいに見えたよ? 街がある方の道を選んで、街に寄るかどうかはそのとき決めたらいいんじゃないかな」
「…………」
「なにがあるかわからないし」
「……はぁ」
 シドは大袈裟なほど大きくため息をついた。「まぁアーム玉があるかもしれねぇしな」
「そうだよ、回復薬の補充……とか……」
 と、アールはすっかり忘れていたことを思い出した。
「なんだよ」
「私ココモコ村で薬草見つけたんだった。ルイに言ってから回収しようかと思ってたのに忘れてた」
「うわ……お前ほんっと使えねぇな」
 
アールは自分の忘れっぽさに呆れるしかなかった。
 
「あ、そういえば景品貰えなかったね、迷路クリアしたのに」
「…………」
 シドは舌打ちをしてしかめっ面で考え込んだ。
「シド?」
「また現れるらしいからそのときに回復薬なり武器なり根こそぎ奪ってやるよ。じゃねぇと気が治まらねぇ」
 

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