voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス29…『そして』

 
伸びロープを使って4人が集まったとはいえ、最後のひとり、カイもすぐに合流出来るとは限らない。
3人は食卓を囲み、ヴァイスは食卓から少し離れた場所に身を置き、ルイが淹れたコーヒーを飲んでいる。
 
「ではアールさんは……ヴァイスさんと。僕はシドさんと二手に分かれましょう」
 と、ルイは提案した。
 
理由としてはあまり仲が良くないシドとヴァイスを二人には出来ないし、シドはアールを無視してひとりで行動しかねないからだ。──となると必然的に決まる。
 
「じゃあまた夜に合流する?」
「そうですね、カイさんが見つからなければ」
 そう言ってルイはテーブルの端に寄せてあったお弁当箱をアールの前に移動させた。
「おにぎりをふたつ作っておきました。ヴァイスさんと食べてください」
「ありがとう、気が利くね」
「結局食うのかよ」
 と、口の横に朝食のサンドイッチのマヨネーズをつけたシドが言う。
「なるべく食べないよっ」
「食べてくださいね」
 と、ルイ。
「……はい」
 
朝食を終えてルイが片付けをしている間、アールはその場で軽くストレッチをした。
真っ直ぐ15メートルほど伸びている道がある。
 
「ちょっと往復ジョギングするね」
 と、アールは走り出したが、5歩走ってすぐに足を止めて耳を塞いだ。「きゃぁ!」
 
その声は3メートル以上離れていたルイには聞こえなかったが、アールを見ていたヴァイスが気づいた。
 
「どうした……?」
「え?」
 と、ルイが顔を上げ、視線を辿ってアールを見遣った。
 
シドも見遣ると、アールは耳を塞ぎながらなにか叫んでいる。その様子に胸騒ぎがしたルイは慌てて駆け寄り、ルイも同じように耳を塞いだ。そしてシドも歩みより、ビクリと体を震わせた。
 
「うわっ?! なんだこの音ッ!」
 
アールがいる場所に移動した途端に大音量の音楽が耳に入り込んできた。──カイの歌声だ。
ヴァイスは耳を塞がなかったが、不快に目を細めた。
 
「カイの声じゃない? 歌ってる!」
 と、大声で話さないと聞き取りづらいほどの音だ。
「歌っているというより、流しているのでしょう! 3メートル以内にいるということは……」
 
辺りを見回すがカイの姿はない。だとするとここから死角になっている場所、壁を挟んだ向こう側にいる。
 
「行きましょう!」
 
4人は急ぎ足でカイを捜した。アールはカイが独り寂しく膝を抱えて待っているとばかり思い、会ったら抱きしめる勢いだった。
しかしカイは白いドアがある前で気持ち良さそうに眠っていた。彼の横には開けたばかりのスナック菓子の袋がふたつも散らかっている。
ルイは音楽プレーヤーの停止ボタンを押して、お菓子の袋を持ち上げて見遣った。賞味期限が3ヶ月前で切れている。
 
「…………」
「カイ、起きて」
 アールはカイの肩を叩いた。もう抱きしめる気持ちはどこにもないが、無事でなによりと安堵した。「カイ」
「どけ」
 と、シドがカイに歩みより、平手でおでこを思いっきりひっぱたいた。
「痛いッ!」
 目を覚ましたカイはシドを見て抱き着いた。「シドぉおおぉ!」
「くっつくな!」
 と、引きはがす。
「アールぅ!」
 カイは全員いることに気づき、目に涙を溜めた。
「はいはい、喜ぶのは後でね。その前にお説教かな」
「お説教?」
 首を傾げるカイに、お菓子の袋を持ったルイが近づいた。
「──これは?」
 と、無表情で尋ねるルイ。
「……非常食!」
「スナック菓子がですか。賞味期限と袋の状態を見る限りでは、おそらく買い込んでシキンチャク袋に詰め込み、夜な夜な食べていたこともあり、そしてこれらは買ったことも忘れさられていた分ですよね? 違いますか?」
 と、早口でまくし立てる。
「えーっとねぇ……だいたい合ってる」
「…………」
「……ごめんなさい」
 
見兼ねたアールはルイの肩に手を置いた。
 
「でもおかげで助かったね。お腹すかせてなくてよかった」
「……そうですね。ですがこんなことにならなければこのお菓子は無駄になるところでした。お小遣でなにを買うかは任せていますが、無駄遣いや買ったものを忘れて無駄にすることだけは気をつけてください。お金をドブに捨てたようなものですよ」
「はい……」
 と、なぜかアールも同時に返事をした。
 

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