voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス25…『新たな仕掛け』

 
「おいしかったー!!」
 と、アールはお腹をさすった。
 
ルイと合流したことで食事にありつけたアールだったが、おにぎりひとつだけ貰って満足した。
 
「おにぎりだけでよかったのですか?」
「うん。本当は水だけで我慢したかったんだけどあまりにもお腹空きすぎちゃって。みんなもお腹空かしてるだろうに自分だけいっぱい食べたら会わす顔がないよ」
 
本当はたらふく食べたいところだけど、と、我慢することにした。
 
「アールさん、さっき僕はアールさんの肩に触れる前に一度声を掛けたのですが、聞こえませんでしたか?」
「え? そうなの? わかんなかった……。こんなに静かだから気づかないわけないのに」
「この迷路の仕掛けがまたひとつわかりました。おそらく数メートル離れていると相手の音や声が聞こえないのでしょう。割と近くに居ても」
 
そう言ってルイはアールから1メートル下がるごとに声を掛けてみた。そして3メートル離れたとき、互いの音が途切れた。
 
「アールさん、聞こえますか?」
 その声はアールの耳には聞こえなかったが、口の動きでわかった。
「ううん、なにも聞こえないよ」
 そう答えたアールの声も、ルイには届かなかった。
 
どうりで人の気配を感じたり声が聞こえたと思ってもその気配がすぐに消えて出会えないはずだ。3メートル以上離れてしまうといくら声を掛けても届かず、声を頼りに近づくことが出来ないのだからすぐ近くにいることにも気づかず通り過ぎていたのかもしれない。
 
ルイはアールに近づき、言った。
 
「これではなかなか出会わないはずです。──そういえばこのロープ、どうされたのですか?」
「モーメルさんから貰ったの。なにかに使えそうだなと思って。でも今日まですっかり存在を忘れてた」
「そうでしたか。これならどうにか集まれそうですね。せっかく会えたのですが二手に分かれましょうか。僕はアールさんと反対側のロープを持って歩きます。夜になったらロープを辿って戻ってきますね」
「わかった。私が向こうに行こうか? 戻るの大変でしょ?」
「大丈夫ですよ、では行ってきますね」
 
ルイは急ぎ足で戻って行った。その後ろ姿を見届けたアールは申し訳なさ気にため息をこぼした。
 
「もっと強引に言えばよかったかな」
 
ロープを引きながら歩く。3メートル以内の音しか聞こえないと知って、今まで以上に周囲を気にするようになった。
 

──ホワイトメイズを覚えてる?
この世界ならではの迷路だったね。
 
魔法というものがある世界がいかに恐ろしいか、思ってみたりして。
 
はじめはもっと早くみんなが揃うと思ってたんだ。食料まで渡されて簡単な迷路だとは思っていなかったけど、結束力とか、互いを必要とする思いとか、そういうのを信じていたのかもしれない。たかがゲームにね。
 
結局、どうだったんだろう。
他に挑戦した人とかいたのかな。平均的に見て私たちの結束力はどうだったんだろう。グダグダだったりするのかな。
 
ルイ、ハグしてくれてありがとね。気まずかったし、驚いたけど、安心したんだ。
 
女って男の人と比べてスキンシップが多いよね。なんでだろう。
女性は男性よりも安心感を求めているからかな。雌の動物は雄よりも弱いから、ひとりでいるよりも集団の中に身を置いて少しでも不安を取り除いて安全でいることを望むのかもしれない。
その点、雄はスリルや刺激を求めてる。
恋愛に当て嵌めると特にそんな気がするよ。女性は安定を求め、男性は刺激を求める。
 
男女では脳のつくりが違うと聞いたことがある。
選ばれし者、一緒に旅する相手が女というだけで物の考え方や捉え方が違ったりして、みんな苦労していたんだろうなと思う。
 
ごめんね。
 
それなのに応えられなくて。
 

「ヴァイス……」
「ロープを辿ってきた」
「うん」
 
ルイと別れてから1時間が経とうとした頃、アールの元にヴァイスがやってきた。ヴァイスの肩にいたスーが、アールの頭の上にぴょんと移動した。
 
「スーちゃんも無事でよかった。ロープの向こう側にはルイがいるの。シドとカイとは会わなかった?」
「あぁ」
「そっか。お腹空いてない? 私は持ってないけどルイが食料持ってるから」
「いや、平気だ」
「そっか。じゃあ……一緒にカイたち捜そう。あ、3メートル以内にいてね、声聞こえなくなるし、不安になるから」
「わかった」
 

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