voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス24…『便利グッズ』

 
シドも動きはじめたが、直線に伸びた道を見つけ、全速力で走り抜けると再び全速力で戻ってきた。シドの気合いの入れ方だ。とにかく体を思い切り動かす。
 
「よし」
 
シドはリュックの中を見遣った。お握りが2つ残っている。
 
「足りねぇなぁ。肉食いてぇ肉。魔物と戦いてぇし。カイを一発ぶん殴りてぇ」
 
それもこれも全てわがままなカイのせいだと思っている。サーカスを見に行くことに対して最終決定をしたのはルイだが、ルイははじめ渋っていた。それをカイのわがままが押し通したのだ。
 
「ぜってぇーシバく」
 シドは意味もなく刀を抜いた。数日間刀を抜かずにいると気持ちが悪い。
「とにかく真っ直ぐ行くかな」
 と、刀を振りながら歩き進める。
 
カイはまだ眠っていた。シキンチャク袋の中に隠し持っていたお菓子のビスケットを食べた袋が頭の横に落ちている。起きる気配は全くない。だが、カイのリュックも既に空っぽだった。
 
食料に関してはカイのことを一番心配していたルイは、不意に足を止めた。
遠くに見える白い壁に、一本の横線があったからだ。これまではそんなものなかったはずだ。
足速に線に近づき、それは線ではなくロープであることに気づいた。
 
「……?」
 
ルイはロープを辿ってゆく。このロープがなんなのかわからない為、気分は浮かないままだ。
そしてルイがたどり着いたのは残念ながらアールとは反対側のロープの先端だった。壁に巻き付けてある。
 
「……カイさん?」
 
カイが真っ先に浮かんだ。このような道具を持っていそうなのはカイくらいだと思ったからだ。ルイは慌ててまたロープを伝い、今度は反対側の先端を目指して走り出した。
 
その頃アールはロープを引っ張りながらグイグイと歩き回っていた。すると角を曲がったとき、目の前を横切るロープと出くわした。
 
「ん? あれ??」
 
やっぱり同じ場所を回ってしまっていたらしい。白くて目印がなく、進んでは戻ったりを繰り返していると方向感覚を無くしてしまう。ただでさえ方向音痴なのだから。
 
「よし、じゃあこっちに行こう」
 
道を変えて、また突き進む。お腹の虫が鳴ったが、気にしないことにした。
 
もしかしたら今日も明日も会えないかもしれない。その次もまた次の日も。そんな風にマイナスに考えるのもやめにした。考えてもしょうがない。時に不安が背中を押してくれるけれど、不安は足枷にもなる。
 
15分ほど歩き進め、一休み。
ここまで引いてきたロープを見遣る。誰かが来る気配はまだない。
 
「最初に見つけてくれるのは誰だろう」
 
そんなことを考えながら壁に寄り掛かる。一番距離を歩いていそうなのは誰だろうと考え、ルイを思い浮かべていた。決して歩みは速くないだろうけれど、長く休むことはしないだろう。ある程度の道を把握しながら仲間を捜しているような気がする。
 
「シドは……苛立ってるだろうなぁ」
 と、苦笑。「ヴァイスは黙々とマイペース」
 
曲がり角から誰か現れないかと眺めた。
 
「カイは……きっと最初はやる気満々で、今頃バテてるかな。でも意外とカイがゴールを見つけたりして」
 
仲間と会えても、今度はゴールを目指さなければならない。
 
「──よし、歩こう」
 
アールは壁から離れ、歩き出した。
するとその後ろの角からルイが姿を現した。最初にアールがいる反対側を見遣り、そしてアールを見つけた。
 
「アールさんっ!」
 
ルイが声を掛けたが、アールは振り向かない。駆け足で歩み寄り、肩に手を掛けた。
 
「アールさん?」
「わぁっ?!」
 と、アールは跳びはねた。「ビックリした! ルイ!! やっと会えた!」
 
満面の笑みで喜ぶアールに、ルイも笑顔を向けた。けれど、2人の間に妙な空気が流れる。
 
「やっとやっと会えて、めちゃくちゃ嬉しくてハグしたい気分だけど出来ないからなんか嬉しさ表現出来なくてもどかしいね」
 と、アールは笑った。
 
女同士ならとっくに抱きしめ合って跳びはねているところだった。それが出来ないのはこんなときでも男と女なわけで、特にアールの場合は雪斗の存在が大きく、命を掛け合う仲間といえども相手が異性というだけでブレーキがかかる。
 
「あ、ねぇ、誰かと会った?」
 
そう訊いたアールの腕を、ルイは掴んで引き寄せた。
アールはふわりとルイに抱きすくめられ、目をパチクリとさせた。
 
「会えてよかったです。ご無事でよかった。──心配しないでください、このハグに深い意味はありませんから」
「う、うん」
 
とは言え、アールは“日本人”だ。欧米人なら異性とのハグでも挨拶程度に受け入れられるだろうが、慣れていないアールにとってはどうも気まずく、動揺する。
それもなんだかおかしいと思い、アールはルイの背中をポンポンと叩いた。
 
「よかったよかった、お互い無事で!」
 

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©Kamikawa
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