voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス22…『仲間を捜して』

 
一行は迷路の中をさ迷いながら、様々なことを試していたが、どれも通用しなかった。
物の代わりに水滴を落としてみても、すぐに吸い込んでしまう。
 
そこでルイとアールが取り出したのはノートとペンだった。
歩きながら地図を描いていくしかない。ただ、似たような構造が多く、描きながらでも混乱してゆく。
 
アールのノートはあっという間に数ページ、真っ黒になってしまった。
 
「ダメだ……頭痛い……」
 
その場でしゃがみ込み、リュックから水を取り出して飲んだ。
 
「壁が途切れていたらヴァイスがひょいと飛んで壁の上から捜してくれるだろうに……ズルだけど」
 
アールは力なく横になった。
5人もいるのだから早く誰かと合流したい。ひとりでいるのと誰かといるのとじゃ心の持ち様が全然違う──。
 
その頃、とにかくスタート地点からずっと歩き続けているのはヴァイスだった。右肩にリュックを背負い、左肩にスーを乗せて。
 
ヴァイスもこの迷路のルールを検証済みだった。銃を発砲しても壁に穴どころか小さな疵も付かない。落ちた銃弾は消えてしまった。
 
「お前も消えるのかもしれないな」
 と、ヴァイスはスーに言った。
 
スーは手を作り出して必死にやめてくれと意思表示をした。
 
「冗談だ。落ちないようにな」
 
ヴァイスは勘を頼りに道を進んだ。
どこを見ても白い壁しかない。気を紛らわせるものなどなにもない。
 
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「アール、待たせたね。『ううん、いいの、私を見つけてくれたんだもの。それだけで十分よ』いや、もっと早く見つけたかった。寂しい思いをさせたこと、ごめん。『そんなっ、謝らないで?』もう二度と離れないから。アール、君が嫌だと言っても。『嫌だなんて言うわけないじゃない』本当かい?『本当よ』本当の本当にかい?『本当の本当によ』そして2人はしかと抱きしめ合ったのでした、めでたしめでたしー!」
 
妄想に心を踊らせたカイは迷路をジグザグに走ってゆく。
 
「アールぅ! 聞こえたら返事してー! 俺はここにいるよーっ!」
 
けれどもそのテンションも半日で無くなり、時刻はあっという間に午後10時過ぎ。
アールの声が聞こえてくることはなく、やけ食いをした。
 
「まったくもう。迷路というから楽しみにしていたのにこれじゃあ楽しくないよっ。あ、でも苦労して乗り越えた矢先にアールと再会したらお互いに気持ちが高ぶって……チュウくらいはするよねぇ」
 
カイは頭上を見上げた。遥か上空は霧で見えない。迷路の壁はその霧の中まで伸びている。夜になろうが暗くならない迷路内。時間の感覚もおかしくなる。
 
「ねよーっと……」
 
カイはその場で横になった。朝起きたとき、隣にアールがいてくれたらなと思いながら。
 
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ルイも食事を済ませ、壁に寄り掛かって座っていた。不安が募ってゆく。
もし食料がなくなるまでここを出られなかったら。普段の食材は自分が全て持っている。だからと言って渡された食材が無くなったとき、自分だけが持参の食材に手を出そうなどと考えてはいない。
魔法が使えないこの場所で仲間を見つける方法などなく、偶然や奇跡を信じるしかない。ノートに描いていた地図は何ページにまで及び、すぐに描く場所がなくなりそうだった。
 
「みなさん……明日こそ会いましょう」
 
そう呟き、ルイも横になった。暑くも寒くもない。室温としては過ごしやすい空間だった。
 

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©Kamikawa
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