voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス21…『ホワイトメイズ』

 
時間を確認するため、携帯電話を取り出したときに圏外であることに気づいた。迷路の中では携帯電話が使えないらしい。
 
スタート地点は迷路の外側だ。おそらく他のみんなもそうだろう。アールは内側に入る道の前で立ち止まった。
 
「だとすると、多分ゴールは迷路の真ん中あたりだったりするのかな」
 
いや、意外と仲間の誰かのスタート地点のすぐ隣だったりするのかもしれない。重要なのは全員揃ってゴールすることなのだから。
 
「適当に歩いてみようかな。右、左、右、左……で行こうかな」
 
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一方ルイは、仲間が気掛かりでしょうがなかった。辺りを見回し、悪い予感しかしない。リュックの中身は確認済みだ。自分はいいとして、特にカイが心配だった。限られた食料を、一気に食べてしまわないだろうか。
 
「端から回ってみましょう」
 
一刻も早く仲間と出会わなければ。おそらくこのゲームに“リタイヤ”は無いだろうと、ルイは確信していた。
 
迷路の一番端側を歩いていれば誰かと出会うかもしれないと思ったが、時折行き止まりになる。仕方なく内側に入り、また外側に出られそうな道があれば選んで進んだ。
迷路の広さがわからない為、一周回るのにどのくらいの時間が掛かるのかもわからない。食料を渡されるということは並大抵の広さではないだろう。
 
ルイは真っ白い壁に触れ、魔力を感じ取った。なにか魔法が掛けられているが、それを読み取ることは出来ない。
ゴールがあるのは確かだろう。なければルール説明はもっと簡単でいいはずだ。全員揃ってクリアと叫ぶという設定は必要ない。希望を持たせて絶望させたいのなら話は別だが。
 
しばらく歩き進めると、スタート地点と似たような構造の場所に来た。腕時計を見遣り、首を傾げる。まだ30分も経っていない。ただ似ている、もしくは同じ構造の場所なだけで、実際自分がいたスタート地点とは別の場所なのかもしれない。ゆっくり歩いて30分もかからない広さなら、今頃カイの声が聞こえていてもおかしくないだろう。それに1週間分の食料も気になる。
 
ルイはため息を零した。
 
「こんな場所で時間を潰している場合ではないのに……」
 
不覚だったと、自分を責めた。
 
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シドは眉間に深いシワを寄せて苛立っていた。
どこもかしこも白、白、真っ白。真っ白い空間の中にいると段々と気持ち悪くなり、苛立ってくるのはなぜだろう。
 
シドは舌打ちをして立ち止まると、腰に掛けていた刀を抜いた。
 
「こんなもん印しつけりゃ簡単だっての」
 
刀を構え、壁に斬り疵をつけた。──と思ったが、小さな疵ひとつついていない。
 
「……あ"?」
 
シドはもう一度刀を構え、今度は壁を破壊するくらいの勢いで刀を振った。
 
「……なんだよこれ」
 
それでも疵ひとつ付かなかった。
苛立ちが増して魔力を使って今度は本気で破壊してやろうと思ったが、魔力の発動が出来なかった。いくら集中しても魔力が起きる気配すらない。
この迷路には魔法が掛けられていた。迷路の中では魔力が使えない。壁には疵ひとつ与えることができない。そして、ペンで印しを描いても消えてしまうことはカイが実証済みだった。
 
「んなっ?! ズルは出来ないのかぁ」
 と、カイはもう一度太い油性ペンで壁に矢印を描いた。
 
その矢印は描いた矢先にスッと消えてしまう。
 
「クッソォー。じゃあこれはどうだ!」
 
次にカイはリュックからおにぎりを取り出して、米粒を一粒、床に置いていき、米粒で矢印をつくった。暫く待ってみても、消えない。
 
「へっへぇーん、俺天才じゃーん」
 
そしておにぎりに被りつき、自分で矢印を向けた道を進んで行ったが行き止まりだった。
仕方なくごはん粒の矢印の元に戻ろうとしたが、米粒はどこにもなかった。
 
「ん? あれ?? おっかしいなぁ、この辺だったはずなのに」
 首を傾げる。
「もしや米粒も消えちゃった……?」
 
カイは実験がてら、長い真っ直ぐな道の中央に米粒を並べ、米粒を見つめながら一歩ずつ下がってみた。
 
──まだ大丈夫。まだある。まだ、ある。まだ……消えたっ!?
 
カイは米粒を置いた場所に戻ったが、米粒ひとつ落ちていなかった。この実験でわかったのは、印しのかわりに地面に物を置いても、その置いた物から3メートル離れると物が消える、ということだ。
 
「ズル出来ないじゃん!!」
 

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