voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス20…『移動サーカス』

 
そこには縦縞のカラフルなテントが立ち並び、火を噴いたり5メートルの高さの竹馬に乗っていたり、ジャグリングをしながら玉乗りをしている道化師がスピーカーから流れる愉快な曲に合わせてパフォーマンスをしていた。
 
入口にはあのクラウンが出迎え、チケットを受け取った。
 
「来てくれたんですねぇ、さぁ、思う存分楽しんで行ってくださーい」
 
カイがハイテンションでサーカスが行われるテントに入って行った。そのテントにも広狭魔法が使われており、外観と中の広さは大きく異なった。
ステージはゾウが歩き回れるほど広く、客席は全3,000席ある。サーカス担当の案内人に連れられて空いている席へ。そこはステージの目の前で、最前列だった。
 
「人がいっぱいだねぇ、どこから来たんだろう、ゲートかなぁ」
 と、席に座ったカイは落ち着きなく周囲を見回した。
「“サクラ”ですよ」
 と、ルイ。「ざっと見た限り、9割方ニセモノです」
「偽物?」
 アールが訊く。
「えぇ、全て“人形”です。魔法で人のように見せているのです。魔法が切れれば忽ちのっぺらぼうの人形に戻りますよ」
「騙された! 君も人形なの?!」
 と、カイは後ろの席に座っている若い女性に訊く。
「サーカス、楽しみですね!」
 と、女性は答えた。
「“演出”でしょう。僕らだけでは寂しいですからね、これだけ大勢いると、雰囲気も出て楽しめるというものです」
 
サーカスはきっちり2時間。休憩15分だった。
テントから出てきた一行に、笑顔はなかった。楽しみにしていたカイもアールも、複雑な表情をしている。
 
「いかがでしたかなぁ?」
 と、待ち構えていたクラウンが擦り寄ってきた。
「……えぇ、道化師さんたちのパフォーマンスはとても素晴らしいものでした」
 うんうん、と、カイとアールは頷く。
「それはよかった! 空中ブランコやトランポリンなんて迫力満点でしたでしょーう?」
 うんうん、と、カイとアールは頷く。
「満足していただけてよかったですぅー」
 とおどけるクラウンの胸倉を掴んだのはシドだった。
「満足するわけねぇだろクソが。ゾウやトラがいるって? 張りぼてじゃねーか!」
 
うんうん、と、アールとカイは頷いた。段ボールで作ったゾウとトラの中に、明らかに人間が入っていた。鳴き声は録音されたものでスピーカーから流してあったのだ。
 
「本物だと言った覚えはありませーん」
 と、笑うクラウンの胸倉を締め上げるシド。「す、すいません……」
 
見兼ねたルイが微笑しながらシドの手を下ろした。
 
「まぁまぁ、道化師さんたちのパフォーマンスは本当に素晴らしかったですよ。それだけでも十分見ごたえがありました」
「ったく……金払ってるってのに。玉乗りくれぇ俺にも出来るっつの」
「他にも素晴らしいアトラクションがありますよー?」
 と、クラウンは別のテントへと一行を招いた。
 
真っ白いテントが建っており、看板には《ホワイトメイズ》と書かれている。全員でゴールすれば景品がもらえると聞き、興味のなかったシドも断然やる気が出てきた。
 
「こちらは満足していただけるかとー! 一度に5人入れるけど、それぞれ別の入口からひとりずつ入ってもらうよー? 中は広いから仲間同士会えるかどうかもままならないけど、まぁ頑張ってー?」
 
全員離れた場所からのスタートになる。
それぞれスタート位置に立つと、リュックを渡された。目の前には白い壁。天井も白い。左右の壁も白い。そして出入口までも真っ白い壁に塞がれてしまった。
 
どこからともなくクラウンの声が響く。
 
「ルールは簡単。全員揃って手を繋ぎ、ゴールの旗がある場所にたどり着いて『クーリアー』と叫べば出口は開かれる。簡単だろーう? 制限時間は無制限。ま、がんばってー」
 
クラウンの声が途切れると、目の前を塞いでいた壁が消えて道が開かれた。アールはスタート位置から一歩前へ踏み出し、唖然とする。真っ白い壁だらけだ。その壁はどこまでも真っ直ぐ上に伸びている。
 
「無制限って……」
 
ワクワクするような、不安感のような、なんとも言えない動悸がする。
とりあえずアールは渡されたリュックの中を確認することにした。中身は知らされていなかったからだ。
 
「えっ……なんで……?」
 
ドクリと心臓が脈打つ。リュックの中には食料と水が入っていた。切り詰めれば1週間は持つだろう。リュックは魔道具のようで、全ての食料を詰め込んでいても全く重くなかったため、確認するまで見当もつかなかった。
 
時間は無制限。その意味がやっとわかる。
 
「みんな……」
 
アールはリュックを背負い、歩き始めた。しんと静まり返り、本当に仲間もゲームに参加しているのか、自分ひとりだけが真っ白い迷路の中に閉じ込められたのではないかと不安になる。
 
誰でもいい。はやく見つけなきゃ……。
 

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©Kamikawa
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