voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス19…『森を抜けて』

 
根っこの橋を渡り終えると、普通の森の間に伸びる一本道が一行を出迎えてた。
 
「やっと平らな道……」
 と、アール。
「無駄に体力消耗しなくて済むな」
 シドは道の端に腰を下ろした。
「移動サーカス、もうすぐかな」
 アールは隣にしゃがみ込む。
「知るか。時間の無駄だ」
「せっかくなんだから楽しもうよ」
「誰だよピエロ見て怯えてたのは」
「うっ……それとこれとは別だよ。ていうかあれはクラウンだってさ」
「どっちもかわんねぇよ」
 
カイとルイは、テントの中にいた。カイはズボンを下ろし、涙ぐむ。
 
「俺のタマタマちゃん、潰れてない? 生きてる?」
「潰れるどころかソフトボール並にひどく腫れてますね、紫色に。内出血を起こしているようですが……さほど問題ないでしょう。自然治療で治ります」
「えっ?! そんなわけないよもっとよく見てよ! キンタマ弾け飛んだかと思ったんだから! なんか薬とかさぁ、治療魔法で元気な状態に戻してよ!」
「魔力や薬はむやみやたら使うものではありません。大切に使わないと。ズボンを上げてください」
「俺のタマタマも大事にしてほしいよ! 勃たなくなったらどうすんのさ!」
「シドさんのように動き回るのであればすぐに治しますが、カイさんは戦いませんよね。自然治療で十分です」
「なに言っちゃってんのっ?!」
「では一応アイスファールカップを出しますから装着しておいてください。冷やせば治りも早くなります」
「即効治してよ!」
 
一本道の先から魔物が現れた。シドが立ち上がり、刀を抜く。
 
「おぉ、ダム・ボーラだね、久々に見た」
 と、アール。
 
大人になると雑食になるカンガルーのような魔物だ。ダム・ボーラ1匹ならシドが一撃で倒せるだろうとアールは眺めていたが、シドは少し手間取り、仕留めた。
 
「…………?」
 アールは立ち上がる。
「同じ魔物でも場所によって強さが異なる」
 木に寄り掛かっていたヴァイスがアールの疑問を察し、言った。
「あ、そっか……そうだよね」
 
シドが戻ってくると、テントの中からルイとカイが出てきた。カイは足を曲げてがに股で不自然に歩き、アールの前で立ち止まった。
 
「……大丈夫?」
 と、局部に視線を落としてしまう。
「タマタマが巨大化してるんだ……見るでしょ?」
「見ないよ」
「見てよ!」
「変態かっ!」
「行きますよ」
 と、ルイは歩き出す。
「よかったじゃねぇか小せぇ玉が大きくなって」
 馬鹿にしながらシドも先を行く。アールも歩き出した。その後ろをスーを肩に乗せたヴァイスもついていく。
 
「待ってよ! 怪我人を置いていかないでよ!」
 
カイはがに股で追い掛けた。一歩一歩踏み出す度に局部に違和感がある。麻痺しているのかさほど痛みを感じないのは幸運かもしれない。
 

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©Kamikawa
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