voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス18…『根っこの橋』

 
一行は朝食を食べ終え、少女が言っていたアールしか知りえない歌を知っている女性の謎を残したまま、ココモコ村を出た。
村を出るとすぐにまた蛇の森が待っていたが、ルイのスキルが上がったことで村へ着く前ほど苦戦することはなかった。
 
天気も良好。泉に浸かっていないわりには一行の体力もそれなりに良好だ。
 
そして蛇の森を抜けたかと思うと目の前には50メートルもの高さがある絶壁が姿を現した。眼下を見遣ると遥か下の方で川が流れている。
 
「橋……ないねぇ、根っこしか」
 カイが苦虫を噛んだような顔で言う。
 
蛇の森から伸びた太い根っこが崖を跨いで伸びていた。長さは43メートル。
 
「立派な橋ではありませんか」
 と、ルイ。
「落ちたらどうすんのさっ」
「落ちなきゃいい」
 シドはそう言った。
 
高さに怯んでいたのはカイだけではなかった。アールの顔も青ざめている。
 
「そうは言ってもこんなに高いと足がすくむよ……長いし」
「僕が手を貸しますよ」
 と、ルイが手を差し出した。
「先行くぞ」
 シドはすたすたと根っこの上を渡ってゆく。
「だ、大丈夫。手を借りなくても行ける」
 アールは深呼吸をして、シドの後ろに続いた。
 
根っこの幅は150cmもあり、余裕で渡れそうではあるが、高さと平らではない足場では一歩踏み出すのも冷や汗ものだった。中盤に差し掛かり、アールは耐え切れずシドの裾を掴んだ。
 
「なんだよっ」
 と、足を止める。
「なんか急に恐怖心が足元から……」
「だったらルイの手ぇ借りろよ。仲良く手ぇ繋いで渡れっ」
「ルイの手を借りるのは甘えのような気がして……」
「じゃあ俺のコレはなんなんだよ」
 と、服の裾を掴むアールを指差す。
「……利用?」
 
シドの拳がゴンッとアールの頭に落ちた。
 
「痛いっ!!」
「シドさんっ! 暴力はいけませんっ」
 ルイはアールの後ろにいる。
「うっせー。利用されてムカついたんだよッ」
「アールさん、下は見ないように」
「見たくないけど見たい! 怖いけど好奇心がっ」
「わかるっ」
 と、ルイの腰にしがみついてへっぴり腰のカイ。
 
今自分がどの辺りまで来ていて、見下ろした景色がどんなものかちらりと見たくなる好奇心に負け、アールはシドの裾を掴んだまま眼下を見遣った。その途端に足元から背中にかけて冷や汗をかき、中腰になって踏ん張らないと立っているのも辛くなってきた。
 
「ぎゃーっ見なきゃよかった! 歩けないっ!」
「 バ カ か 。」
「俺は見ないっ絶対に見ないっ」
 と言いながらカイも下をチラ見する。
「ぎぃやああぁあぁあぁッ!!」
 カイの絶叫に一同はビクリと体を震わせた。
 
思わず引き返そうとしたカイだったが、真後ろにヴァイスがいたため行き場を無くしてバランスを崩した。
 
「カイさんっ」
「ひぅッ?!」
 
咄嗟に根っこに俯せにしがみついて落ちずに済んだものの、足を開いていたため局部に意識が飛ぶほどの強烈な痛みが走った。
 
「カイさん大丈夫ですか?!」
「玉が……玉がつぶれた!!」
「ぶはっ! ダッセーなぁ」
 と、シドが笑う。
「笑うな!」
 カイは体を起こしてズボンの上から局部をそっと包み込むように触れた。「ひぃ……感覚がない!」
「大丈夫……?」
 と、アールは後ろを振り向かずに訊く。振り向くとバランスを崩して落ちてしまいそうだった。
「ルイぃ……俺のタマタマに膨らみを戻して!」
「気が進みませんが、仕方ありませんね。あとで診ましょう」
「なんならアールでもいい……」
「絶対いや。」
「なんだよ汚いものでも見るみたいにっ!」
「セクハラだよセクハラ……」
「なんだセクハラって」
 と、シド。
「セクシャルハラスメント……って、今説明してる余裕ない」
「アール冷たい……。昔テレビでオカマさんが玉を無くすと女体化して体力とか女みたいに無くなってくって言ってたけど本当だねぇ、もう歩くことも出来ないわワタシ……」
 と、カイは局部を押さえたまま縮こまる。
「どんな番組観てたんだよ」
 と、シド。
「カイさん、とにかく渡りましょう。こんなところで立ち往生しても──」
 
ルイが言い終わる前に一番後ろにいたヴァイスがカイの腰に手を回してひょいと持ち上げると、根っこを蹴って飛び上がり、ひょいひょいと向こう岸へ渡った。
 
「……カイだけずるい」
「アールさんもヴァイスさんに運んでもらいますか?」
 アールの後ろからルイが優しく声をかける。
「甘えちゃ悪いよ……」
「じゃあ俺のコレはなんなんだよ」
 と、シド。
「……だから、利用?」
 
ゴンッ!とまた拳が降ってきたのは言うまでもない。
 

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