voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス17…『白塗り』◆

 
翌朝、朝食を食べながら同時に欠伸をしたのはアールとルイだった。そんな2人につられてカイも大きな欠伸をした。
 
「ルイ、顔色わりぃな。寝てねぇのか?」
 と、シドはパンを頬張る。
「いえ、大丈夫ですよ」
 ルイは心配かけまいと笑顔で答えた。
 
ふとシドはアールと目が合い、言った。
 
「お前は顔が悪いな」
「ムッ、朝から喧嘩売らないでよ」
「空を見て今日は天気がわりぃなって見たままを言ったまでだ」
「ムカつくなぁ。思ってもわざわざ言わないでよ、心の中に留めておいてよ」
「吐き出したくなるんだよ、愚痴は」
「愚痴かよっ! ふざけんなっ」
 
ふて腐れるアールが視界を変えたとき、心臓が鈍い音を立てた。視界の先にあの奇抜なデザインのベンチがあり、そこに気味の悪いピエロが座ってこちらをじっと見ていたのだ。
 
「ルイ……」
 蛇に睨まれたカエルのように硬直したアールは、視線をピエロに向けたまま呼び掛けた。
 
顔色の悪いアールに気づき、ルイは視線を辿る。ルイの目にも奇妙なピエロが映り込んだ。
 
「どったの?」
 カイもベンチがある方を見遣ると、シドやヴァイスも見遣った。
 
ピエロが遠目からゆっくりと手を振っている。
 
「ピエロじゃん! でもなんでこんなとこに? いつの間に?」
 
警戒心を向けなかったのはカイだけだった。
丸くて赤い鼻に白い顔、赤と黒の縦シマジャケットに青い水玉の服、オレンジ色の髪に青い帽子。控えめなメイクで不気味に微笑んでいる。
 

 
ピエロは手を振っていたが、動きをとめ、今度は手招きをした。
 
「用があんならテメェから来いよ」
 シドは動く気はさらさらなく、パンの最後の一口を食べた。
「俺行ってくるー」
 と、駆け出したカイに、ルイは慌てて言った。
「警戒してください!」
 
アールは青ざめた表情で水を飲んだ。ルイもカイの後を追ってピエロに歩み寄った。
 
「私昔からピエロ嫌いなんだよね」
「顔がお前に似てるからか」
「似てねーわ!」
 イラッとしたが、不安な気持ちが紛れる。
「まぁ俺も好きじゃねーな」
「なんか気味悪いし、怖いよね……」
「は? それはねぇな。あのイラつかせるメイクが嫌いなんだよ」
 シドは水を飲み干した。
 
「チケットぉ?」
 と、カイはピエロからチケットを貰った。
「それ1枚で5人ぶーん。よかったらおいでー?」
 と、妙に高い声で喋るピエロ。
「ピエロって喋っていいわけ?」
「オレはピエロじゃなくてクラウンさ。ピエロはここに涙がある」
 と、目の下を指差した。「オレにはないだろーう?」
「ピエロとクラウンって違うの?」
「ピエロなんかと一緒にしないでほしいねーえ。ま、とにかく遊びにおいでー?」
 
カイはチケットを見遣った。《楽しい愉快な移動サーカス!》と書かれている。
 
「移動サーカス、ですか」
 と、ルイはチケットを覗き込んだ。
「村を出て進むとちょうど良い広場があってねぇ。カラフルで巨大なテントがいくつか建ってあるから寄っておいでよー」
「行きたい行きたい!」
 と、カイは目を輝かせた。
「寄り道ですか……」
 ルイは気が進まなかった。
「空中ブランコ、玉乗りはもちろん、懐かしの動物にも会えるさ」
 
──動物。
魔物が溢れてからは保護団体に保護され、取り残された動物は魔物によって殺されてしまった。
 
「ぞ、ゾウさんとか……いるの?!」
 カイは興奮気味に訊く。
「いるさ! ゾウだけじゃない、トラもいる。ライオンは……まぁ検討中さ。犬っころのミニミニショーもある。サーカスとは無関係なミニ観覧車もある。ミラーハウスもあるし、ジェットコースターはないが……まぁ色々ある!」
「ルイ行きたいっ!」
 カイはルイの腕を掴んだ。「お願いっ! きっとアールも気晴らしになるよ!」
「……おいくらですか?」
 少し悩み、尋ねた。
「本来はひとり1,000ミル、全員で5,000ミルだがそのチケットがあれば半額で2,500ミルさ」
「…………」
「るぅーいー」
 カイは甘えた。「お小遣い減らしていいからさぁ」
「…………」
「おやつも食べすぎないようにするしおかわりもし過ぎないようにして節約するからさぁ」
「……そこまで言うなら良しとしましょうか」
 
ルイは仕方なく許可を下した。カイは跳びはねて喜び、チケットを持ってアールの元へ戻る。
 
「後ほど窺います」
 と、ピエロ改め、クラウンに告げた。
「待ってるよー。君たちに有利なゲームもあるからさーあ」
「ゲーム?」
「ホワイトメイズっていう迷路があるのさ。クリア出来たら、強力な武器や旅に役立つアーム玉など景品があるよー」
「それは興味深いですね」
「是非、挑戦してねー」
 
クラウンはそう言って不気味に笑った。
 

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©Kamikawa
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