voice of mind - by ルイランノキ |
夕飯の準備が終わってテーブルを囲んだちょうどその頃、ヴァイスがスーを連れて戻ってきた。
スーはすぐにテーブルの上に置かれていたコップの中に浸かる。
「あーっ、だからなんで俺の水に浸かるんだよぉ!」
と、カイがスーを睨んだ。
ルイがカイの水を入れ直す。
「ヴァイスさんもどうぞお掛けになってください」
「いや……」
「美味しくねぇもん食いたくねんだってよ」
と、シドが盾突く。
「美味しいよルイの料理は」
アールがすぐにそう言った。
「人間にはな。ハイマトスには合わないんじゃねーの」
そんなシドの挑発にも、ヴァイスは無表情だった。
「ヴァイスさんの分もありますので。お口に合えばいいのですが」
と、ルイは椅子を引く。
ヴァイスは仕方なく黙って椅子に座った。
「やっぱお前もハイマトスの口に合わねぇと思ってんだろ」
「そういう意味で言ったわけではありませんよ」
と、ルイはため息をこぼした。
──その時だった。
どこからともなく人の足音が聞こえ、その音と重なるように女の子の笑い声が聞こえてきた。
「……今のは?」
と、ルイ。
「女の子」
アールは立ち上がり、目を凝らして周囲を見遣った。
「アールさんが話していた子供ですね」
ルイも席を立つ。
カイは椎茸の肉詰めを口に入れて立ち上がった。
「かわいこちゃん?」
「子供なのは確かだよ」
「死んでるかもしんねーけどな」
と、シドは座ったままみそ汁を飲んだ。
「おばけ?!」
カイはルイの背中に隠れた。
また、子供の笑い声がする。弾むように楽しそうなその声に不気味さは一切感じない。無邪気な子供の笑い声だ。
「見てきましょうか」
「見つかるかな」
「こんな時間にひとりなら危ないですし。結界に囲まれた村ですから魔物に襲われることはないでしょうけれど」
「私も行くよ」
「いえ、アールさんは食事を。冷えてしまいますからね」
ルイは公園の外へ向かった。そんなルイを気にかけながら、アールは椅子に座る。カイも不安げに周囲を気にしながら椅子に座ると、ご飯を掻き込んだ。
「早く食べておとなしく寝よう!」
モーメルの家で散々眠っていたカイが言う。
「おとなしく寝れんのかよ。寝言うるせーくせに」
「なんだよシドだってイビキがうるさいじゃないかぁ!」
「ちょっと静かにして」
と、アールは子供の笑い声を気にしていた。
夕飯を食べ終えて食器を重ねていると、ルイが戻ってきた。
食卓を囲んでいた一同が思わず目を向ける。ルイの後ろを、女の子がついてきている。
赤いワンピース、フリルのついた白い靴下に赤いエナメルの靴。髪は耳の上で二つ結びにしていて赤いリボンが結んである。
10才くらいだろうか、年相応の可愛らしい笑みを浮かべていた。
「かわいいねぇ」
と、カイが女の子に近づき、しゃがむ。「お名前はー?」
「ミラ! おにいちゃんは?」
「カイ! ここでなにしてんの?」
「住んでたの! だからときどき遊びに来るの!」
ルイは少女を食卓に促した。ミラという少女は美味しそうな匂いに跳びはねるように喜んだ。
「お腹が空いているようでしたので連れて来ました」
ルイがミラのために食事を小皿に分けてあげると、よほどお腹が空いていたのか小さいながらに大きな口を開けて椎茸の肉詰めにかぶりついた。
「遊びに来たって、ひとりで?」
アールは少女の隣に座り、尋ねた。
「うん!」
「ご両親はどうされたのですか?」
ルイはアールと反対側に座り、自分の食事を食べ始めた。
「死んだ!」
「…………」
アールたちは顔を見合わせた。
「村人たちはどこいったのー?」
と、カイはテーブルを挟んでミラの向かい側に座った。隣にはヴァイス、長方形のテーブルの左右にシドとルイが座っている。
「殺された!」
「殺されたって……誰に」
カイは不安げに問う。
ミラは椎茸の肉詰めを頬に溜め込んだまま、アールをじっと見遣った。
「え……?」
「おねえちゃんも見たことある。あなたの仲間に殺されたんだと思うよ?」
そう言ってニコッと笑い、水を飲んだ。
「それはどういう意味ですか?」
ルイは食事をしていた手を止めて訊いた。
「わたしね、16部隊のたいちょーなの。ここは16部隊のみんなが住んでた村だよ? でもグロリアに殺されたから誰もいなくなっちゃった」
しんと静まり返る。
アールは美味しそうにルイの料理を食べている少女を眺めた。この子がムスタージュ組織の一員で更に十六部隊の隊長だと言う。確か十五部隊のハングが十六部隊は全滅したと言っていた。グロリアの影武者に殺されたのだ。
「知ってるんでしょ? ムスタージュ」
ミラは平然とそう言って、みそ汁を飲んだ。
「あなたが……隊長?」
アールは少しだけ警戒心を向けた。
カイは相手が子供とはいえ、自分たちを狙っている組織の一員なら話は別だと、またルイの背中に身を隠した。
「うん。本当はね、おとうさんが隊長だったの。でもね、エルナンおじさんに殺されて、わたしが後つぎになったの。エルナンおじさんとか他の人が隊長になりたかったみたいなんだけど、クロちゃんが許さなかったの。クロちゃんはおとうさんとわたしとおかあさんにしか懐いてないから!」
そう言い終えると公園の外から少女よりも一回り小さく、黒くて丸い塊が体を引きずるように集まってきた。その数は3匹。
シドは立ち上がり、刀を抜いた。ヴァイスもガンベルトに手を添える。
「なになになになにっ?!」
カイはその黒い塊に怯えた。
「クロちゃんだよ?」
少女はそう言って、椅子からぴょんと下りた。
Thank you... |