voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス12…『スイミン解除』

 
ルイたちがココモコ村に戻ってきたのは午後7時頃だった。
すっかり薄暗くなっており、ルイは足速にテントがある公園へ。その後ろを寝起きのカイが追いかける。結局カイはルイが起こすまで寝続けていたのである。
 
「ねぇルイー、そんなに急がなくてもぉ」
「気づいたらもうこんな時間になっていたなんて。早く戻って夕飯の支度に取り掛からなくては」
 
公園に入ると、辺りは静まりかえっていた。ただいま戻りました、とテントに入ると、仕切りのカーテンが閉められていてアールの姿は見えないがシドは横になって眠っていた。
 
「おかえりー」
 と、アールが仕切りのカーテンを開ける。「遅かったね」
「すみません……起こしましたか? 今から夕飯の準備しますね」
「ううん、起きてたよ」
 
そう答えたアールの後ろに、青いノートとペンが置いてあるのが見えた。
 
「何か調べ物でも?」
「え?」
 と後ろを見遣り、ノートに気づく。「違う違う、日記をね」
「日記を……つけているのですか?」
 
ルイは正直、内容が気になった。不安や悩みが書かれているのではないかと思ったからだ。前向きな楽しい日記ではないことは確かだろう。
 
「うん、ちょろっとね。ココモコ村についた、とか。出会った人の名前とか忘れないうちにメモしてるような内容。まぁ日記を書くのを忘れることがほとんどなんだけどね」
 と、アールは苦笑した。
「いいことです。──外で調理しますね」
 外へ出ようとしたルイに、アールは訊いた。
「あ、カイとヴァイスは?」
「カイさんは……」
 と、テントの外を見遣る。「ブランコですね」
「子供だね」
 アールは呆れて笑う。
「ヴァイスさんはまだ帰っていないようですね、別行動をしていたので。一応先にココモコ村へ戻りますと連絡しておきましたが」
「そっか。──あ、暇だから私も手伝うっ」
 
アールはルイとテントの外へ出た。
公園には街灯があるにはあるが、噴水の近くにはないため暗い。ルイはいつものテーブルを出して中央にランプを置いた。今日はここで夕飯も食べよう。
 
「なにか食べたいものはありますか?」
「牛肉食べたかった……」
 と、お腹の虫が鳴る。
「そうですね、大きな街に寄る機会があればレストランへ行きましょう」
 ルイはシキンチャク袋から調理器具と食材を取り出した。
 
ブランコで立ち漕ぎをしているカイがこっちを見ながら「にーく、にーく」と連呼している。
 
「肉が食べたいみたい。あ、椎茸の肉詰めとかある?」
 この世界に、という質問だ。
「ありますよ、椎茸もありますし、それにしましょう。アサリ入りのおみそ汁も付けましょうか」
「いいね!」
 
アールは椎茸のいしづきを切りながら、今日ルイたちを待っている間に起きたことを話した。例の女の子の話である。
 
「子供……ですか」
 ルイは玉ねぎをみじん切りにする。
「うん、でも結局それからは声もしなくなっちゃって。私もはっきりと見たわけじゃないから、幽霊だったら嫌だなぁって」
「確かに子供がひとりで村に住んでいるとは考えにくいですからね」
「あ、ルイはどうだったの? なにか新しいスキル手に入れた?」
「えぇ、使えそうなアーム玉がいくつかありましたので。スイミンをかけられたときに解除する魔法と、こちらからスイミンをかける魔法の強化を」
「おぉ! 凄いね!」
「これで少しはスイミンの魔法をこちらから一度目でかけられる可能性は高まったはずです。あとは僕次第でしょう」
「そっか、使い慣れなきゃだね」
「えぇ。それから防御力を少しアップさせる魔法を」
「おおお! いいねぇ」
「出来れば毒消しの魔法を手に入れたかったのですが、残念ながらありませんでした。攻撃系のものはありましたが、今はまだ僕には必要ないかと思い、省きました。だいぶ金額が上がりますし」
「…………」
 
アールは最後の椎茸のいしづきを切って、ルイを見遣った。
 
「……ちゃっかりお金取るんだね、モーメルさん」
「もちろんですよ」
 

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©Kamikawa
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