voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス10…『謎の子供と情報』

 
「シド」
 と、テント内に顔を出すアール。
 
シドは爪切りを終えて雑誌を読んでいた。
 
「なんだよ」
「子供がいた。公園に入ったと思ったんだけど、どこにもいないの」
「見間違いじゃねーの? また幻覚でも見たか」
 シドはそう言って雑誌をめくった。綺麗なお姉さんがお尻を向けている写真が載っている。
「エロ本見てないでシドも捜してよ」
「エロ本じゃねーよ、脱いでねんだから」
「8割脱いでんじゃん」
 手ブラにTバック。ほぼ全裸だ。
「お前エロ本見たことねぇの?」
「いいから早く。いなくなっちゃう」
「知らねぇよ。捕まえてどうすんだ」
 そう言いながらも面倒くさそうに雑誌を閉じて立ち上がった。
「なにかわかるかもしれないじゃない。この村のこともあの写真のことも」
「知ってどうすんだって訊いてんだよ。暇潰ししたいだけだろ」
 
ぶつくさ言いつつもテントの外に出たシドの耳にも、少女の笑い声が聞こえた。
 
「ね? 誰かいるでしょ?」
「はぁ……」
 けだるそうにシドは声がする方へ向かう。「追いかけても逃げるなら無視すりゃ向こうから来るんじゃねーの?」
「来なかったら?」
「知るかよ」
 
公園から出ようとしたとき、アールの携帯電話が鳴った。確認するとミシェルからだった。足を止めて電話に出る。シドは一人で子供を捜しに行ってしまった。
 
『アールちゃん元気? 来ないみたいだから電話しちゃった』
 と、ミシェルの明るい声にアールの表情が綻んだ。
「元気元気! ミシェルも元気そうでよかった。やっぱり会いに行けばよかったかな」
『うん、会いたかった。でも直接だと言いにくいから電話でよかったかも……』
「え、なんの話……?」
 
暫く沈黙があった。アールはミシェルに何を言われるのかと不安に思いながら耳を凝らした。
 
『あのね』
「うん」
『ワオンさんとのことなんだけど……正式に付き合うことになったの』
「えぇっ?! 急展開っ!!」
 と、アールは思わず叫んだ。
 
──嬉しい。ずっと気になっていた。ずっと二人が結ばれたらと思ってた。
傷の舐め合いではないけれど、辛い恋愛経験をした者同士わかり合えることもあるだろうし、互いに支え合えたらって。
 
『あれからね、私、何度か自分から連絡をしたの。それに会いに行ったりもしたの。それで漸くちゃんと話を聞いてくれるようになって』
「そうだったんだ」
『うん。アールちゃんたちの一件で、ワオンさん人を殺(あや)めてしまったじゃない? あれからずっと夜になるとうなされていたみたいで……』
「そう……」
 
胸が痛む。ワオンもまた、巻き込まれたひとりだ。自分と関わらなければ苦しむことはなかっただろう。
 
『私ね、ワオンさんときちんと話をしているうちに、彼の優しさや真っ直ぐさに惹かれたの。なるべく彼の支えになりたいと思ってる』
「うん。応援してる」
 と、アールは微笑んだ。
 
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「ふんふふーん」
 と、ミシェルが自分のコーヒーをついでルイたちがいるテーブルへ戻ってきた。
「ご機嫌ですね」
 と、ルイはミシェルが座る椅子を引いた。
「ありがとう。うん、今アールちゃんに電話して色々報告したの」
「ご報告ですか」
「ダーリンができたとかぁー?」
 と、カイが訊くと、ミシェルは飲もうとしていたコーヒーを吹き出しそうになった。
「な、なんでわかるの?」
「やっぱりぃ? 俺は女の子の気持ちよくわかるからさぁ」
「もしやワオンさんですか?」
 と、ルイ。
「え、えぇそうなの」
 ミシェルは頬を赤らめ、顔を伏せた。
「おめでとうございます」
「ありがとう!」
 
室内はまだモーメルのタバコの香りが残っている。
 
「あ、ミシェルちん、ラムネっちは?」
 と、カイはクッキーをまるごと食べた。
「ラムネ? とっくに飼い主のところへ戻っていったわよ」
「そっかぁ、つまんないの。おもちゃもないし。俺もアールとお留守番すればよかったなぁ。シドが邪魔だけど」
 カイは背もたれに寄り掛かり、後ろに椅子を傾けた。面白くないのだ。ミシェルに彼氏が出来たことも。
「これからでも先に帰られますか?」
「どうしよっかなー」
「あ、ねぇ、そういえばアリアン様の西の塔を知ってる?」
「なにそれ」
 と、カイは小指を鼻に突っ込んだ。
「なんかね、ヌーベっていう地域にしかない話らしいんだけど、アリアン様が生前に過ごされた塔があるんですって。ワオンさんがVRCの会員さんから聞いたらしいの」
「誰かが勝手に話を作って広まったってやつぅ? よくあるよねぇ」
 鼻をほじり、デカイ塊が取れた。
 
ルイはすぐにティッシュを渡した。
 
「テーブルにつけないでくださいね」
「つけないよ! 子供じゃないんだから!」
 
そう言ったカイのテーブル周りにはクッキーのカスが散らばっていた。
 

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