voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス9…『アーム玉の仕分け』

 
アールは噴水の隣に出したテントに入ると、中ではシドが足の爪を切っていた。シドの前にしゃがみ込み、まじまじと眺めた。
 
「なんだよ……爪切りフェチか?」
「男の人って爪デカイよね」
「はあ?」
「私の小指の爪見てよ」
 と、アールは靴下を脱いで小指を見せた。
 
横7ミリ、長さ5ミリのミニサイズだ。
 
「ちっせぇな。存在してる意味あんのかそれ」
「失礼な!」
 
アールは靴下を履き、大の字に寝転がった。
 
「暇ならお前も行きゃよかったろ」
「うん、でも邪魔かなって。カイだけでも邪魔だろうに」
「ぶはっ! そりゃ言えてんな」
 と、シドは笑った。
 
ココモコ村にはアールとシドだけが残されている。暇を持て余したアールは体を起こして村の探索に出掛けた。とはいえ、村の全てを見て回るにしてもさほど時間を潰せそうにない。
アールは一軒一軒、ドアをノックして歩いた。もしかしたら一人くらい、家の中で昼寝でもしていないだろうかと思ったからだ。
けれどどの家も返答は得られなかった。庭を覗き込んでみても争ったような形跡はない。ヴァイスのように地面を注意深く見遣るが、大人の足跡も、魔物が侵入したような足跡もない。ブラオを襲ったドルバードの羽根も落ちていない。
 
「ん?」
 
アールは一軒家の庭に立っている木の根元を見た。こんなところに宝箱が置いてある。
 
「ちょいとお邪魔します……」
 
庭に足を踏み入れ、宝箱に触れた。鍵は掛かっておらず、簡単に開いてしまった。中には薬草が入っていた。普通に考えれば人の家の物だ。だが、ゲームの中の世界なら貰って当然。この場にタケルがいたら彼はどう選択しただろうかとアールは思った。
 
薬草を持ち上げてみると、下に白い紙が置いてあった。何か書かれている。
 
《不要。必要な者、持ち去り許諾》
 
「なんと律儀な」
 
貰って帰ろうと思ったが、薬草だ。ルイが帰るまでにヘナヘナになってしまうかもしれない。それに代わりに入れる物がないため、一度宝箱に戻し、ルイが戻ったら知らせようと思った。
宝箱があった一軒家を出ると、家と家の間を人が駆け抜けて行った。
 
「え……?」
 
突然のことで見間違いかと一瞬思う。耳を凝らすと、パタパタと走る音がする。一瞬しか見えなかったが、子供だったのは確かだ。小さく、赤いワンピースを着ていたように思う。
 
アールは子供が走って行った方へと向かった。するとまた、家と家との間から子供が走り抜ける姿が見えた。女の子の笑い声がする。
 
「誰? ねぇ、ちょっと出てきてくれない?」
 
アールは声を掛けてみたが、はっきりと姿を現さない子供はアールとの鬼ごっこを楽しんでいるかのように足音と笑い声を響かせた。
 
━━━━━━━━━━━
 
ルイとカイはモーメルの家にお邪魔していた。外は小雨が降っている。ヴァイスはムゲット村へ行ったのか室内に姿はない。
 
「連絡くらいしてほしいもんだね」
 モーメルはそう言ってタバコをふかした。
「すみません……急いでいたもので」
 と、ルイはシキンチャク袋から、これまで集めたアーム玉を取り出し、テーブルに置いた。
 
大きな瓶が9つ。全てにアーム玉が入っている。
 
「調べてほしいのかい」
「えぇ、力不足で、足止めをくらっています」
「あんたらの力になりそうな物を仕分けりゃいいんだね、他に用があるからコンピュータを使うがそれでも少し時間かかるよ」
「はい、お願いします」
 
そこに台所からミシェルがコーヒーを運んできた。クッキー付きだ。カイがすぐに席についてコーヒーよりも真っ先にクッキーに手を伸ばすと、モーメルに手を叩(はた)かれた。
 
「手を洗いな!」
「へぇーい……」
 
ルイとカイは手を洗い、再び席に着いた。
モーメルはアーム玉が入った瓶をモニターが並ぶ作業場に運び、ひとつずつ専用のケースに嵌め込んだ。ケースは冷蔵庫にある卵を入れるケースに似ている。それから業務用保冷庫のようなアーム玉を仕分ける機械に設置し、ボタンを押すと、沢山あるモニターのひとつにアーム玉の情報が映し出された。
 
「アタシはちょっと家を出るから、ミシェル、あとは頼んだよ」
「はい、お気をつけて」
 
モーメルはタバコの火を消し、外へ出て行った。
 
「モーメルさんはどちらへ?」
 と、ルイはコーヒーを頂く。
「昔の知り合いと会うみたいです。互いの魔道具を売り合ったり、情報交換をするみたいですよ」
 と、ミシェルも席に着いた。「アールちゃんは元気?」
「ええ、元気ですよ」
「会いたかったなぁ」
 と、残念そうに言う。
「すみません、モーメルさんに用もないのについて来るのはご迷惑を掛けると思ったようで、遠慮されました。今からでも呼びましょうか」
「ううん、いいの。元気なら」
 と、ミシェルは笑顔でクッキーをつまんだ。「私もコーヒー入れてこよっと」
 
コーヒーはルイとカイの分しかなかった。台所へ戻って行ったミシェルの後ろ姿をカイは黙々とクッキーを食べながら見ていた。
 
「カイさん今日はおとなしいですね」
「え? いつもはうるさいみたいな言い方で侵害だなぁ」
 と、カイは頬を膨らませた。
「すみません……」
 ルイは苦笑する。
「なんか見ない間にミシェルん、感じ変わったよねぇ」
「そうですか? 僕には変わらないように思えますが。──以前より少し落ち着かれたのでしょうか、ここの生活にも慣れて」
「チッチッチ」
 と、カイは人差し指の代わりにクッキーを左右に振った。「そういうんじゃなくてさぁ、お肌つるつる的な?」
「環境に慣れてストレスも減り、モーメルさんと一緒ですから食事に気を遣い、健康になられたのかもしれませんね」
「だーからそういうんじゃないってば」
「なんです?」
「男だよ、お・と・こ。あの暴力変態ヤローは忘れて良い人が出来たんじゃないかなぁ。女の子ってわかりやすいよねえ」
「…………」
 
そのわりにはよく自意識過剰な勘違いを繰り返しますね、と、思ったが口には出さないことにしたルイだった。
 

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