voice of mind - by ルイランノキ |
「いやあああぁあぁあぁッ!!」
それは悍ましい光景だった。目が六つある蜘蛛が牙を動かしながら横に伸びた足でゆっくりとジリジリと近づいて来る。
「シドどうにかして! クモやだ! クモやなの! やだやだやだやだッ!!」
「無理言うな。俺を見ろ。グルグル巻きにされて両手使えねんだから」
「やだぁーッ!」
蜘蛛の足がアールの体に触れようとしたとき、森の中を走り抜ける銃声が響いた。
「ヴァイス!」
蜘蛛はアールの真横でクリーム色の液体を体から流しながら息耐えた。
ヴァイスは大きな蜘蛛の巣の前で、二人を見上げた。家主を殺したものの、巣から助け出すにはどうしたものか。
「暫くそこにいろ」
「はぁ?!」
「そこなら他の虫も寄ってくることはないだろうからな」
「そんなっ……あっ……ねぇ待ってよ! ヴァイス!」
ヴァイスはアールとシドに背を向けて戻って行ってしまった。
「そんなぁ……」
「確かにここは安全っちゃ安全だな。家主さえいなきゃな」
と、遠い目のシド。
「確かに自ら進んで蜘蛛の巣に近づこうとするバカな虫はいないだろうけどさ……」
「巨大てんとう虫は俺らを蜘蛛の餌にして自分らは捕まらないようにしていたようだぞ。お前が来る前に小さいてんとう虫がくっついていたが解放されたからな」
「なにそれ私身代わり? わいろ的な?!」
「虫の世界にもいろいろあるんだろうぜ、魔物だけどな」
「…………」
「……ハンモックみてぇだな」
「やめてよシドらしくないっ!」
どうやら蜘蛛の糸には精神力を奪う効果があるようだった。
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カイは緑の膜に包まれていた。カイを包み込んでいるのは体を平たく伸ばしたスーだった。
「ありがとうスーちん。愛してる」
スーは自分の体をよじ登ってゆく白いカマキリに耐えていた。
「アールは無事だ。もう一人もな」
と、戻ってきたヴァイスはルイに言った。
「シドさんと一緒ですか、それならよかったです」
詳しい事情を知らないルイはそう言って、足元を見遣った。巨大カマキリが気絶して倒れている。
「アーム玉を手に入れるなら切り裂く必要があるな」
「えぇ……ですが」
巨大アリが気掛かりだった。
体を切り裂いてアーム玉を取り出すと匂いがつく。それを辿ってビッグアーマイゼが追ってくる可能性もあった。
「やはりこの先、シドさんが言っていたようにスキルを身につける必要がありますね。諦めましょう」
ルイはカイに近づき、まだ辺りをうろついていた白いカマキリをロッドで優しく弾いた。子供のカマキリは攻撃性がほとんどない。
「カイさん、行きますよ」
スーが体を縮めてヴァイスの肩に移動した。カイは立ち上がり、辺りを気にしながらルイの後をついて行った。
そして、蜘蛛の巣に引っ掛かっているアールとシドを見て、ルイは度肝を抜かれた。
「ヴァイスさん、これは……無事と言い切れますでしょうか」
「問題ない」
「…………」
「あ、ルイ!」
と、アールは笑顔で森の奥を指差した。「あそこ! 宝箱!」
「本当ですか?」
ルイの場所からは見えなかった。
「私が行こう」
ヴァイスが率先して見に行った。
ルイはシキンチャク袋から生地を伸ばすのに使う麺棒と、布切れと、凧糸を取り出して松明を作り、食用油を付けて火を燈した。松明を蜘蛛の糸に近づけると気持ちがいいほどスウッと糸が焼けて切れてゆく。
そうして助けられたアールだったが、服についてしまった蜘蛛の糸はとれなかった。着替える必要がある。
シドはグルグル巻きにされていたため、救出に時間がかかった。火を近づけ過ぎないようにしてある程度の糸を焼き切り、シドの両手は漸く自由になった。
「ちょっと進んじゃ足止めされて、面倒くせぇな」
と、シドは回復薬を飲んだ。
そこにヴァイスが戻ってきた。
「よかったな、アーム玉だ」
と、ヴァイスはひとつのアーム玉をルイに渡した。
「それは運がいいですね。代わりになるものを探すのに困りますね」
と、ルイはアーム玉を貰う代わりに空になった宝箱に備える物を考えた。
「なんなら俺っちのけん玉あげてもいいけど」
と、カイ。
「もしここで死にかけの人間が偶然見つけた宝箱に縋って開けたらけん玉だったら絶望しかないな」
と、シド。
「あれは? グリーブ島で見つけた武器。槍だっけ」
「銛(もり)ですね。どちらもたいして違いはありませんが。ではすみませんが銛を納めてきて貰えますか?」
と、ルイは伝説の武器、トライデントをヴァイスに託した。
ヴァイスは少し面倒くさげにため息をつき、再び宝箱の元へ向かった。ルイはアーたちが着替えるためにテントを取り出した。
「売りゃあ金になんのによ」
と、シドはぶつくさ言いながらテント内に入った。
アールも後から入り、続けて入ろうとしたカイの腕をルイが掴んだ。
「休むわけではありませんよ」
「へぇーい」
Thank you... |