voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス6…『ピンチ』

 
食事を終えて1時間後、一行はテントを出てココモコ村へ向かった。
巨大アリの大群はすっかり姿を消していたが、時折重なり合っている根っこの隙間から地面を這うアリの姿が見えた。
 
アールは少しビクビクしていた。アリやてんとう虫がいるとなると、他の巨大昆虫も出てきそうだからだ。
 
「アール、俺も抱っこしてあげたいんだけど、アールを落としそうで怖いから無理なんだ。ごめんね……?」
 と、突然カイが言う。
「え? うん……」
「抱っこは出来るんだけどね? だからもう暫くヴァイスんで我慢して……?」
「え? うん……我慢はしてないけど」
「ルイ、絨毯を浮かせる魔法を取得してよ。そしたらそれに乗ってススイのスイスイだよ」
「人を乗せて、ですか。難しいですね。魔術師から魔法の絨毯を買った方が早いでしょうが、危険ですからスピードは出せませんしあまり高くは飛べませんよ」
「いいよ、みんなが歩いてる中、俺だけが乗ればいいんだから。スーイスイスイ、ススイスイ」
「え、話変わってんじゃん」
 と、ヴァイスの腕の中のアール。
「楽がしたいのだろう」
 と、珍しくヴァイスが会話に入る。
「アールだけずるいって言ってんだよーっ、シド俺もお姫様抱っこして!」
 カイはそう言ってシドに飛びつこうとしたが、シドは逃げるように根っこを渡ってゆく。カイはすぐに追い掛けた。
「おんぶでも良し!!」
「ふざけんなっ!」
 
こういうときだけは体力を発揮するカイ。2人の姿が見えなくなってしまった。
 
「僕らはゆっくり行きましょう」
 と、ルイは比較的に次に渡る根っことの間が狭い場所を選んで移動した。
 
ヴァイスに抱き抱えられているアールは身を委ねているため、足元や行く手を気にする必要もなく、辺りを見回していた。
 
「ヴァイス……」
 森の中にあるものを見つけて注意を促した。
 
ヴァイスが足を止めると、ルイも足を止めて振り返った。
 
「あれなに……」
 
一本の木に、巨大ないなり寿司のような塊がくっついている。嫌な予感しかしない。
 
「卵のようだな」
「なんの……?」
 
ヴァイスが答えようとした時、カイの悲鳴が森の中を響き渡った。そしてルイのデータッタがアーム玉の在りかを知らせる。
 
「来ますね」
 ルイはロッドを構えた。
 
ヴァイスはアールを下ろし、ガンベルトに手を添えた。行く手からカイが戻ってくる。その後ろから巨大カマキリが細長い羽を羽ばたかせながら追って来る。
アールは顔を引き攣らせながらあの“巨大いなり寿司”を見遣った。
 
「孵化しないよね……?」
「どうだろうな。他にもあるようだが」

辺りを見回し、あちらこちらに点々と巨大いなり寿司が木にくっついていることに気づく。
 
「既に吐きそう」
 
巨大カマキリが鎌を振りかざしてカイの首を掻き切ろうとした。
 
「あぶないッ!」
 
アールが叫ぶとカイは危険を感じて身を屈めたが、バランスを崩して根っこから落ちてしまった。
 
「カイッ!」
 
思わず駆け寄ろうとしたアールの腕をヴァイスが掴んだ。気持ちばかり先走ってアールまで入り組む根っこの間に落ちてしまうところだった。
 
ルイがロッドを振るい、風を起こした。強風に煽られてカマキリはカイが落ちた場所から離されたものの、すぐにまた向かってくる。今度はルイを目掛けて飛んできた。
巨大カマキリの大きさと太い根っこの直径を考えて地面が平らでないと正方形の結界が張れない。シャボン玉のような剛柔結界は人間にしか使えない。
見兼ねたヴァイスが銃口を向けたが、殺せばアリの大群がやってくるだろう。引き金を引けずにいた。
 
「仕方ありませんね」
 ルイは再びロッドを構えた。
 
鎌を振りかざしてくる巨大カマキリに、ルイはロッドで振り払いながら対抗する。スイミンの魔法を発動させてみようと試みるも、焦れば焦るほど空振りしてしまう。せめて殺さずに気絶させることができたらとロッドを振るうが、巨大カマキリの小さな頭は巨大な二本の鎌でガードされてなかなか届かない。
 
「ヴァイス、カイを助けて」
 
アールがそう言うと、ヴァイスはすぐにカイの元へ向かった。
カイは根っこと根っこの間にバンザイをした状態で挟まっていた。ヴァイスは暫し考えた。ここで大人しくしていてもらったほうが好都合ではないだろうか。
 
「ヴァイスんなに眺めてんだよぉ……早く助けてよぉ……」
「…………」
 
仕方なく近くの木に巻き付いていた蔦を取り外してロープの代わりに使った。
 
「ふぅ、俺ってばおっちょこちょいだなぁ」
 と、助けられて照れ笑いをするカイに忍び寄る体長10センチの小さな白いカマキリ。「ひぃっ?!」
 
小さいといっても巨大カマキリと比べた場合である。普通の昆虫のカマキリとは比べものにならないほど大きい。ヴァイスは手で掴み、根っこの下へ落とした。そして周囲を見回す。どこかに孵化した卵があるようだ。
 
「ひぃっ!! ヴァイスん沢山よじ登って来てるよ!」
 体長10センチの白いカマキリが何匹も上ってくる。
「お前も刀を使え。振り払うくらいなら出来るだろう」
 
「ひゃあっ!」
 と、今度はアールの悲鳴だ。
 
ルイが思い切り巨大カマキリを殴り飛ばしてアールに視線を向けると、アールはルイの頭上を通り過ぎていた。
 
「アールさん!」
 
巨大てんとう虫が再び現れ、アールを運んでカイたちの頭上を通り過ぎて行く。
 
「離してっ離してっ!」
 
アールが運ばれて行く先に、シドの姿があった。
シドは半透明の糸にグルグル巻きにされて“引っ掛かって”いる。
 
「蜘蛛の巣っ?!」
 
アールが抵抗する間もなく、巨大てんとう虫はアールを蜘蛛の巣に引っ掛けるようにぶん投げて去って行った。
 
ベッタリと蜘蛛の巣にくっつくアールの横に、遠い目をして巨大てんとう虫を見送るシド。
 
「あいつ、俺をもここにくっつけて行きやがったんだぜ……」
「人の心配してる場合じゃないけどシドどうしたの……? なんかいつもの覇気がないけど」
「虫の気持ちがわかる。グルグル巻きにされるとやる気なくすわー…」
「やめてよシドらしくないッ!」
 
その時、蜘蛛の巣が軋むのがわかった。シドの方を向いているアールの背後から、黒と黄色の縞模様の巨大グモが近づいてきていた。
 

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©Kamikawa
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