voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス5…『力不足』

 
珍しくテントの中にヴァイスがいた。そしてテント内はいつもよりも暗く、シドとアールは荒れた呼吸を繰り返しながら嘔吐(えず)いた。
 
「大丈夫ですか……?」
 ルイが回復薬を出し、アールの背中を摩った。
「ゼェ……ゼェ……おえっ……」
 回復薬を飲む余裕もない。
「ルイー、チョーやばいよー」
 と、カイはテントの壁や天井を見遣った。
 
テント内がいつもより暗いのは、ビッグアーマイゼの大群がよじ登って覆っているからだ。
 
「テントは丈夫なので心配いりません」
「もういや……ウジャウジャ出てきた……斬る度に頭と胴体やお尻がバラバラに分かれてその辺に転がって黒い丸い玉になったアリの死骸がゴロゴロと……」
 アールはそう言って回復薬を飲んだ。
「ぎゃああぁあぁ聞きたくない!」
 と、カイが耳を塞ぐ。
「お疲れ様です……」
 ルイはアールの背中を摩り続けた。
 
ビッグアーマイゼが集まってきたのはシドが巨大てんとう虫を殺したからだ。それが原因だと気づかず、ビッグアーマイゼと戦っているアールを尻目に次に再び現れた巨大てんとう虫を薙ぎ倒した。そしてまたウジャウジャとアリがやってきて、シドが魔物を仕留める度にアールの仕事が増え、原因に気づいたときには全員巨大アリに囲まれていた。
そこで慌ててルイがテントを広げ、避難したのである。
 
「巨大てんとう虫を運び追えたらいなくなるでしょうから、それまで待ちましょう」
 
テントは根っこの上に建てたため、床が歪んでいる。
 
「でもまた巨大てんとう虫が現れたらどうするの? 倒しちゃったらまたアリが出てくるよ……」
 アールは漸く呼吸が落ち着き、ため息をついた。
「結界で囲むしかありませんね。実はグリーブ島でスイミン効果を与えるスキルを手に入れたのですよ。発動しようと試みているのですが上手くいきません……僕自身が覚えたスキルではなく、ロッドに覚えさせた魔法なので自由自在に操るにはもう少し僕自身が経験を積む必要があるようです」
「そうなんだ……魔力は持ちそう?」
「魔物の数次第でしょうか」
「そっか、他にいい方法があればいいんだけど」
「今後立ち往生しそうだな」
 と、シドは仰向けに寝転がった。「暫くはスキルアップを中心に行くか」
「そうですね、アーム玉集めも自分達を強化出来るものを中心に集めましょう。ココモコ村にゲートボックスがあればいいのですが、小さな集落なら難しいかもしれませんね」
 
一行はビッグアーマイゼが去るのをひたすらに待った。
 
時刻は午後1時過ぎ。
カイは魔物の魔法攻撃によって眠り過ぎたせいで珍しくテントの中でも起きていた。携帯ゲームをしながら時間を潰している。シドは昼寝をし、ヴァイスはテントの隅で片膝を立てて静かに座っている。アールもやることがなく、横になっていたらいつの間にか眠っていた。
起きたときにはテント内に空腹を刺激するいい香りが漂っていた。
 
「お昼ご飯?」
 と、アールは目を擦った。
 
ルイはテントの中央に丸型のテーブルを出して調理していた。大きな鍋の中にはカレーが出来上がっている。
 
「えぇ、もう出来ますよ」
「ヴァイスも今日は一緒だね」
 と、笑顔で言ったアールに、ヴァイスの肩に乗っていたスーが自分のことも忘れないでとアールの頭の上に飛び乗った。
「スーちゃんもだね!」
「スーさんは最近よくヴァイスさんと一緒にいますね」
 と、ルイはコードがついていない炊飯器からご飯を人数分、器に装った。
「ほんと。ヴァイスとばっか一緒にいるから存在忘れちゃう」
 アールは寂しさのあまり意地悪でそう言うと、スーは床に下りて体を伸ばしたりペタンコにしたりねじったりして慌てて存在をアピールした。
「あはは、冗談だよ。スーちゃんはいざという時に超活躍してくれるもんね。ありがとね」
 ポンポンと指先で軽くスーの頭を撫でた。
 
「──さ、ご飯出来ましたよ。シドさん起きてください」
 
シドはカイと違ってすぐに起きると、背伸びをして席についた。
 
「今日はヴァイスさんもいますから、もうひとつテーブルを出しましょう」
 と、ルイは同じテーブルをもうひとつ取り出し、食事を始めた。
「やっぱり女の子の仲間がほしいなぁ」
 と、アールはカレーを食べながら言う。
「賛成っ」
 と、アールの隣に移動してきたカイが言う。アールと同じテーブルで食べたかったようだ。
「ふざけんな。女なんか面倒くせぇ」
 そう言ってカレーをかき込むシドと同じテーブルにいるのはルイだ。
「仲間を増やすとなると食材も増やさなければならなくなりますね。それに6人をまとめるのも一苦労です」
「権力者がいるな」
 と、シドは水を飲んだ。
 
隣のテーブルにいるアールはシドに視線を送った。
 
「権力者?」
「纏めるには必要不可欠だろ。特にわがまま自己中女は自分勝手だからな。勝手にふらふらどっか行かねぇよう絶対に命令を聞かせる権力者がいる」
「…………」
 ムスッとシドを睨むと、カイの顔がアールの視界を塞いだ。
「俺は賛成だからね!」
「うん、ありがとう」
 
ヴァイスはアールとカイがいるテーブルにいたが、テーブルから離れてカレーを食べていた。
 
「可愛い系か、セクシィ系か、ボーイッシュ系かで悩むよねぇ」
 と、カイは虚空を見遣り、妄想する。「やっぱセクシィ系かな、アール色気ないし」
「それは同感」
 と、シドが言う。
「絞めるよ」
 アールはボソリとそう呟いた。
 

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