voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス4…『拾った写真』

 
そこはまさに蛇の森という名前が相応しく、地面を這う巨大な木の根っこが交差しながら一面に広がっていた。根っこから根っこに跳び移る度に体力を奪われる。直径5メートルもあるからだ。間に落ちてしまえばよじ登るのは一苦労だろう。
 
「しんどい……」
 と、最初に愚痴ったのはカイだった。
 
アールもそろそろ休みたいと思っていた。ずっとヴァイスにお姫様抱っこをされていたからだ。時間が経つにつれて申し訳なさと気まずさが増してゆく。頼りっぱなして恥ずかしい。
 
「……ヴァイス、ありがとう。下ろして?」
 
ヴァイスはそっとアールを根っこの上に下ろした。
 
「では少し休みましょう。魔物も出ないようですし」
「アーム玉はどこにあんだよ」
 シドはルイ達がいる木の根の隣の根っこの上にいた。
 
ルイはデータッタを見遣った。アーム玉の在りかを示すランプが消えている。
 
「少し前から消えてしまったのですよ。魔物の体内にあるのだとしたら、魔物がどこかへ移動したのでしょう」
「大きい魔物かもしれないんでしょ? 飛ぶ系かなぁ」
 と、アールは落ち着かない様子で頭上を見やった。
 
こんな場所で戦闘など足場が悪くて危険すぎる。
 
「わかりませんが、また近づいてきたら知らせる音がなるはずです」
 
とはいえ、巨大な根っこの上に座り込んでルイのコーヒーを嗜んでいるとファンタジーな雰囲気がアールを包み込んだ。妖精でも出てきそうだ。空は晴天、青々として気持ちがいいし、木の葉が擦り合わさる音も涼しげだ。
 
「カイさん?」
 と、地図を広げているルイが呼ぶ。
「なんだいルイさん」
 カイはミルクと多めの砂糖入りのコーヒーが入ったカップを持ってルイの隣に移動した。
「以前カイさんが見つけた写真、見せてもらえますか?」
「写真?」
「ブラオに向かう途中で拾ったシキンチャク袋の中に入っていたものです。家族写真の」
「あーはいはい」
 カイは一先ずルイにコーヒーを渡して自分のシキンチャク袋からその写真を取り出し、ルイに渡した。
 
ルイはコーヒーを返し、改めてその写真を眺めた。30代くらいの男性と女性が寄り添い、2人の前には小さな男の子が写っている。そしてその背景には噴水がある。
 
「もしかしたらここから西方面にあるココモコ村で撮られたものかもしれません。確かこの村にも噴水が」
「でも噴水だけじゃあねぇ……」
「ですよね。他にも手掛かりが写っていればいいのですが」
「虫眼鏡貸してあげよう」
 と、カイはシキンチャク袋から虫眼鏡を取り出してルイに渡した。
「カイは色々持ってるね」
 と、アールも近付いてきた。
「備えあればうれいなし!」
「まぁそうだけど」
 アールもルイの横から写真を覗き込んだ。「なにか写ってる?」
「…………」
 ルイは虫眼鏡越しに目を細めて何かをじっと見つめていた。
「ルイ?」
「あ、いえ、この噴水の横の奥に小さくベンチが見えるんですよ」
 と、アールに虫眼鏡と写真を渡した。
「ベンチ?」
 アールも同じように注意深く見遣った。「ほんとだ。しかもなんか変な形の」
「俺にも見して!」
 と、カイ。
「個性的なデザインのベンチだね、天秤みたいな。傾かないのかな」
 アールはカイに虫眼鏡と写真を渡した。
「ほんとだ! シーソーみたいだ。ベンチの脚っていうか、支えてるやつが三角だねぇ、傾きそうで傾いてない」
 その脚はベンチの中央下にひとつだけ。
「そのココモコ村ってどんなとこなの?」
「写真で見たことがあるだけで訪ねたことがないので詳しくはわかりませんが、村というくらいですから小さな集落でしょう。行ってみる価値は……」
「ねーよ。」
 と、シドが言う。
「でも決してそうは言い切れませんよ。この先真っ直ぐに行くと暫く聖なる泉はないようですし、少しだけ道を逸れますがその村に休む場所があれば体力を回復しましょう。蛇の森は進むだけで体力を奪われます」
「…………」
 
シドは何も言わなかったが、不機嫌な顔をしていた。
一行は一休みを終えて再び先を進み始めた。ヴァイスは何も言わずにアールに近づいてひょいと抱き抱える。
 
「ごめんね……」
 アールが申し訳なくそう言っても、ヴァイスは顔色ひとつ変えなかった。
 
15分ほど進むと、漸く魔物が姿を現した。今度は蛾の魔物ではないが、巨大てんとう虫だ。真っ赤な羽に黒い点の模様。小さければまだ可愛いと思えるが、2メートル以上あると気味が悪い上に悪臭漂う黄色い汁を飛ばしてくる。
シドは軽々と避けながら隙を見て攻撃を仕掛けた。
 
「アールさんは暫く戦闘はお休みですね。足場が悪すぎます」
「そうもいかないようだ」
 と、ヴァイスがアールを下ろした。
「え?」
 ヴァイスの視線の先を見遣ると、体長30センチほどある巨大アリが根っこをよじ登って近づいてきている。
「ビッグアーマイゼという魔物です。アールさん大丈夫ですか?」
「飛ぶやつじゃないならなんとか」
 と、アールは武器を構えた。
「足元に気をつけて」
「はいっ」
 

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