voice of mind - by ルイランノキ


 サンジュサーカス3…『蛇の森?』

 
鱗粉(りんぷん)が舞う。
シドはいつも捲っている袖を伸ばして鼻や口を塞ぎながら、片手で刀を振るった。蛾の魔物、モスマルムがひらりと軽快に交わして再びシドを目掛けて羽を羽ばたかせ、鱗粉を巻き散らかした。
 
結界の中で遠目から見ていたカイも思わず鱗粉を見て目を細める。陽の光に反射するとキラキラと輝いて綺麗だが、見ているだけで咳き込みそうだ。
 
「ねぇねぇあれってヴァイスが銃を一発ぶち込んだら死ぬんじゃないのー?」
 カイは自分がいる結界の隣に立っているヴァイスに言った。
「そうだな」
「じゃーなんでぶっ放さないのさぁ」
「鱗粉が広範囲に舞いますね」
 と、ルイ。
「風も少しありますし、全員にかかる可能性があります。結界で囲むのもいいですが、銃弾にも限りはありますから」
「ヴァイスん使えなーい」
「お前に言われたくはないな……」
 と、ヴァイスはカイを見下ろした。
 
アールは周囲を警戒しながらシドの戦闘を見ていた。自分も参戦してもし二人同時に粉を浴びては困る。交代ごうたいに戦うのが良好だろう。
 
シドが高らかに跳び上がって振り払った刀はモスマルムの体を真っ二つに斬り裂いた。今回はアールの出番はなかった。
 
「あ"ー……クソ。目が痒い」
「シドさん、毒消しを飲んでください」
 ルイが歩み寄る。
「うるせー」
「いいじゃないそのままで。涙目のシド“カワイイ”し」
 と、アールは言った。
「ルイ薬だせ」
「はい。」
 
ルイはシキンチャク袋から毒消しを取り出してシドに渡した。
 
「アールさん、ありがとうございます」
「どういたしまして」
 
ある意味連携プレイだ。
ルイが腕に嵌めているデータッタがアーム玉の在りかを知らせた。確認すると、このまま真っ直ぐ進んだ先にあるようだが、気掛かりなのはそのアーム玉が動いていることだ。
 
「この先、大きな魔物がいそうですね。その体内にあるのかもしれません」
「蛇は勘弁」
 と、アールは顔を歪める。
「それってさーあ、人が持ってるアーム玉は表示されちゃわないのー?」
 と、カイがデータッタを覗き込んだ。
 
一行は歩き進めながら会話を続けた。
 
「そのようですね。どういう仕組みなのかはわかりませんが、もし僕らのようにアーム玉を持っている人がいたとして、そのアーム玉も映し出されてしまうとしたら街に立ち寄ったときにもっと表示されているかと」
 
相変わらず森の中に一本道があるだけで代わり映えのしない旅路。そんな中、カイのテンションが上がる瞬間といえば“落とし物”を見つけたときだ。なんでもすぐに拾い、どんな人がなぜ落としたのかを想像する。それが旅の楽しみだった。
 
シドはというと魔物が現れさえすれば暇は免れるものの、同じ魔物ばかり現れるとイライラし始める。ルイとヴァイスは特に文句もなく黙々と歩みを進め、アールは騒がしいカイや代わり映えのない景色に溜息をついたり突然現れる魔物に驚いたり足の疲れにイライラしたりルイの優しさに癒されたりと忙しい。
 
「行き止まりか……?」
 
シドが足を止めた。
目の前には道を塞ぐように巨大な木が横たわっている。──と思いきや、よく見ると木の“根っこ”であることが判明した。それにしても不自然だ。本体の木は他の木に比べて少しだけ背が高いが、その割に根っこは何倍も太くてでかい。そのせいで地面に収まらずに地上に出てきてしまっている。
 
「上半身だけ見ると痩せてんのに足が太いおばさんみたいだなぁ」
 と、カイが笑う。
「それにしても大きすぎるよ……」
 と、アールは見上げた。
 
高さ5メートル。よじ登るのは無理だ。
しかしヴァイスはひょいとジャンプして根っこの上に立った。
後に続くようにシドは助走をつけてから思いっきりジャンプし、一度根っこの中間辺りでもう一度蹴り上げて飛び乗った。
 
「出た。二段階ジャンプ」
 と、アールは羨む。
 
カイはというと、得意な木登りで木の本体によじ登ってから根っこに渡った。
 
「アールさん、僕が結界の階段を作りますから、そちらから」
「助かる! ありがとう!」
 しかし上からシドが文句を垂れた。
「戦い以外のことに魔力を使うな」
「ですがアールさんにこの高さは……」
「これだからチビは……」
「チビじゃなくても普通は無理だから!」
 と、アールは下から怒鳴る。
 
すると上にいたカイが滑るように落ちてきた。
 
「ヒャッホーウ!」
 地面に着地。「向こう凄いことになってるよ」
「凄いこと?」
「根っこだらけ。根っこの迷路みたいになってる。巨大な蛇が重なり合って埋めつくしてるみたい」
「あ、もしかしてそれが“蛇の森”?」
 と、アールは笑顔になる。
 
本物の蛇じゃないならなんでもいい。
 
「よし、ルイっち。例のアレ、行こう」
「例のアレ?」
「かつて俺とルイとシドが生み出した必殺技。『組んでダッシュしてグイッとやってピョン』だよ!」
「あぁ、組んでダッシュしてグイッとやってピョン、ですね」
「え、なにそれ……」
 と、アールは蚊帳の外。
「生み出したもなにも俺らが考えた技じゃねぇから」
 シドは呆れながらそう言った。
 
必殺技というほどのものではなかった。ルイとカイが根っこの前で手を組み、アールが助走をつけて二人の手の上に飛び乗り、二人が思いっきり上に持ち上げると同時にアールがジャンプすることで高い場所に上れる、というものだった。
しかしその必殺技を使うことなくアールは根っこの上に降り立った。見兼ねたヴァイスが彼女を持ち上げて運んだのである。
 
「ありがとうヴァイス」
 
根っこの下で取り残されたカイとルイは、なんとも言えない表情で二人を見上げていた。

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©Kamikawa
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