voice of mind - by ルイランノキ


 花の故郷28…『予告』

 
翌朝6時。
アールはカーリーに借りていた民族衣装を持ってカーリーの自宅へ急いでいた。似たような家ばかりだが、もう道は覚えている。
 
息を切らしてたどり着いたとき、ちょうど自宅からシェラのお兄さんが出掛けるところだった。
 
「あ! あー……あのっ!」
 
声を掛けようとして、そういえば名前を聞いていなかったことに気づく。
 
「あぁ、シェラの」
「あの、これ、借りていたので返しにきました」
「話は聞いてる。でもまだばあさん寝てるんだ。部屋に運んでおくよ」
 と、彼は衣装を受け取った。
「そうですか、ありがとうございます。ご挨拶したかったんですけど、起こしちゃ悪いのでよろしくお伝えください」
「あぁ、またゲートを使ってでも遊びに来てくれよ。ばあさん、あんたのこと気に入っていたみたいだし」
「そうなんですか?」
 と、驚いて微笑む。「じゃあまた来ます」
「その頃には、シェラも戻ってるといいんだけどな」
「──はい。また逢いたいです」
 
アールは彼に頭を下げて、帰り道を急いだ。なぜなら遅くなればシドが黙っていないからだ。
走りながら、また名前を聞き忘れた!と気づく。
いつかまたシェラと逢えたら聞こう。なぜだかその日が来るような気がして気分は爽快だった。
 
ルイたちは宿の外でアールを待っていた。走って戻ってきたアールに、ルイは言った。
 
「急がなくてもよかったのですよ?」
「うん、でもほら、シドがうるさいから」
「人のせいにすんじゃねぇよ。旅を再開する前に体力使ってどうすんだ」
「ムッ……遅かったらそれはそれで文句言うくせに」
「言わねぇよ」
 フンッと笑うシド。
「ぜっったい嘘だね!」
「まぁまぁ。さ、出発しましょう」
 
一行がカモミールを出ようとしたとき、入れ違いに今来たばかりの旅人とすれ違った。相手は男3人組みで、髪も髭も伸ばしっぱなし、着ている服も随分汚れており、すれ違っただけで嫌な臭いがした。
 
「おい若者っ」
 と、呼び止められ一行は足を止めて振り返った。
「右に行くのか? この先気をつけた方がいいぞ、蛇の森は厄介だからな」
「……ご忠告ありがとうございます」
 と、ルイ。
 
男達は黄色い歯を見せて笑うと、カモミール町へと入っていった。
 
「ねぇ今……蛇の森って言った?」
 と、アール。
「言いましたね。しかし初めて聞きました」
「ヤなんだけど蛇……」
「きっと大丈夫ですよ」
「なにを根拠にそんな……」
 
先頭をシドが歩いている。その後ろをルイとアールが肩を並べて歩き、その後ろにはカイ、一番後ろはヴァイスとスーだ。
 
「まぁミミズよりはいいけど」
「似たようなもんだろ。つかミミズのが可愛いじゃねぇか噛み付くわけじゃねーし基本は土ん中で引きこもってんだしよ」
 と、シド。
「ぜんっぜん違うから。ビジュアルが。蛇はまだ頭らしい頭があるから生き物っぽいけどミミズなんて意味不明。青ミミズなんて超気持ち悪いから!」
「まぁデカ青ミミズはヤバイな」
「え、なにそれ。でかい青ミミズ?」
「まぁそうだが、体長は小さくても1メートル以上の魔物だな」
「最悪っ!!」
 と、アールは顔を青ざめた。
 
今日は一日天候に恵まれそうだ。風も穏やかで、気温もちょうどいい。
ただ、気にかかることがひとつだけ。
 
「ねぇルイ、カイ大丈夫? 昨日の夜から全く喋らないけど」
「フラれたようです」
「うん、だと思ってたけど」
 と、振り返ってカイを見遣る。「いつものことじゃない」
「ひどいッ!!」
 トボトボと歩いていたカイが顔を上げた。
「気にしなさんな。すぐに出会いがあるよ」
 カイは惚れっぽいし、ということは言わなかった。
「人事だと思って! ヒミツさん、いい子だと思ったのに光る樹だと思った木が光らないとわかった瞬間俺に向かって『チッ。あんた使えないね』って言って去っていったんだよ?! あの豹変ぶりにはダメージ1000くらい食らったよ!」
「あぁ、光る樹なら私見つけちゃったぁ」
 と、アールは自慢げに言った。
「マジで?!」
「本当ですか?」
 と、ルイも驚いた。
「偶然だけどね。──ね、ヴァイス!」
 
ルイとカイはヴァイスを見遣った。先頭を歩いていたシドもヴァイスを一瞥した。
 
「……あぁ」
 
「超ついてたよね! 普通の空き地にあった普通の木だった。いきなり光ったからビックリした」
「え、なに……じゃあアールはヴァイスと……ラブラブチュッチュになるわけぇ?」
 と、物凄く不機嫌にカイは言った。
「なんでよ」
 と、アールは笑う。「じゃあスーちゃんともラブラブチュッチュになっちゃうね」
「スーの野郎もいたのかコノヤロー……」
 と、カイは後ろを向いてヴァイスとスーを交互に睨みつけた。
「あれって“心を通わせてるカップル”が光る樹の下で言葉を交わすことでずっと長く一緒にいられるっていうやつでしょ?」
 と、アールは胸に手を置いてときめいた。「カップルのためのジンクスだよ」
「あ、そっか。じゃあいいや。俺やっぱりアール一筋にするぅー」
 と、カイの立ち直りは早かった。
 
「おいっ、体なまってねぇだろうな、行くぞっ」
 
シドは前方に現れた蛾のような魔物に向かって走り出した。
アールも首に掛けていた刀剣を元の大きさに戻して駆け出した。
 
「俺は体なまっちゃって困っちゃって」
 と、体がなまってようがなまってなかろうが戦闘に参加しないカイがけだるそうに言った。
「ではこれをカイさんに」
 と、ルイはシドが見つけてきたネックレスを渡した。
「なにこの汚いの」
「一応魔道具で、気力が少しアップする効果があります」
「…………」
「お前の為に存在するようだな」
 と、ヴァイスが言った。
「やかましい! 黙らっしゃい! 珍しく喋りかけてきたと思ったら失礼なっ!」
「独り言だ。」
「やかましい!」
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -