voice of mind - by ルイランノキ


 花の故郷27…『嫌な予感』

 
「これは?」
 と、ルイが部屋にある収納棚の上に置かれていたネックレスを持ち上げた。
「あぁ、祭りの帰りに見つけたんだよ。木にぶら下がってた」
 と、シドはダンベルをシキンチャク袋に仕舞いながら言った。
「随分と錆びていますが、魔道具ですね。魔力を感じます」
「高いところにぶら下がってたから刀で突いて落とした。枝に跡がついていたから長らく放置されてたんじゃねーの?」
「そのようですね。勝手に頂いてはいけませんね」
「お前そのクソ真面目なとこどうにかしろよ。こっちは一応旅人だぞ、使えそうなもんあったら貰ってくのが普通だ。旅の心得だよ心得」
「ですが外にあったのならまだしも、町の中ですよ?」
「知るか。あいつが言ってたろ、ゲームん中じゃ、当たり前のように他人の家に入って回復薬なり武器なり見つけてもらってくって」
 そう言ってシドは鼻で笑った。
「あいつって……」
「あ? もう忘れたか。まぁ偽物だもんな」
 
タケルのことだ、とルイは察した。だが、いやにトゲのある言い方に引っ掛かる。それにシドが自らタケルの話をするのは珍しかった。
 
「どうしたんですか、急に……」
「別に。もう寝るわ」
 と、シドは部屋の隅に置かれていた布団を広げて潜り込んだ。
「シドさん……」
「…………」
「筋トレで汗をかいたならシャワー浴びてください。布団が汚れます」
「っだぁー! うっせぇなテメェは!」
 と、シドはシャワールームに入った。
 
ルイはシドの様子を気にかけながら、ベッドに寝ているカイの布団を掛け直した。
部屋にある時計を見遣り、携帯電話を取り出した。アールに電話を掛けようか迷い、もう少し待つことにした。あまり心配しすぎると逆に気を遣わせてしまう。
 
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「ごめん」
 
アールはそう言ってヴァイスの背中から離れた。
 
「安心して、鼻水とかつけてないから。おでこの脂はついたけど」
「…………」
 
ズズッと鼻を啜ったアールは、目に溜まっていた涙を袖でゴシゴシと拭った。
 
「もう平気なのか?」
「うん。スーちゃんも気を利かせてくれてありがとう」
 と、ベンチにいるスーを見遣る。
 
スーは目をパチクリとさせて、小さな手をひらひらと振った。
 
「よっしゃ! 元気になったんでそろそろおいとま致します」
 クルッと階段の方へ体を向けて歩こうとしたとき、ぐねっと右足を捻って地面に手をついた。「い”ったぁー!」
「……大丈夫か?」
「大丈夫じゃないよもう! あ、ごめん逆ギレしちゃった……。おやすみ。イテテ……」
 
アールは片足を引きずりながら階段を下りて行った。
 
「…………」
 
ヴァイスの肩に、スーが飛び乗って一緒にアールを見送った。
 
「彼女だけは読めないな」
 
微かにクスリと笑うかのようにそう言ったヴァイスに、スーはパチパチと拍手をして、わからなくもないと意思表示をした。
 
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午後0時前。
 
さすがに不安になったルイがアールに電話を掛けようとしたとき、部屋のドアが開く音がした。
 
「ただいま」
 と、アールが帰ってきたのである。「汗かいたからシャワー浴びるね」
「あっ、今シドさんが……」
 
アールはシャワールームのドアノブに手を掛けていたが、ベッドルームに移動した。
 
「ごめんねルイ、心配かけて。もう大丈夫だから。──多分だけど」
 と、苦笑する。
「電話の内容は微かに聞こえていました。シオンさんはアールさんのせいだと思っているようですね」
「うん……仕方ないよ。直接そう仕向けたわけじゃないけど。それとちょっと気になるんだよね」
「なんです?」
 
アールは空いているベッドに腰掛けた。
 
「絶対に許さないって。あと、他にも何人か殺したんでしょ、とか、私の存在が……って、シオン、なにか知ってるよね。こっちの事情」
「……えぇ。自ら調べたのか、誰かに知らされたのか」
「…………」
「用心しましょう」
 と、ルイは窓際のテーブルへ。
「ねぇルイ」
 椅子に座ろうとして、ルイは振り返った。
「はい?」
「私いやだよ……シオンが敵になるの……」
「…………」
 
ルイは俯いているアールを見遣り、彼女の心痛を感じ取った。
 
「……僕もです」
 

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