voice of mind - by ルイランノキ


 花の故郷25…『宣戦布告』

 
「電話? 誰から?」
 と、アールは濡れた髪をタオルで乾かしながら訊いた。
 
あれからヴァイスを除いたアールたちは宿に戻り、それぞれの時間を過ごしていた。アールはシャワーから出たばかりだ。
ベッドのある部屋に戻る通路にて、待っていたルイに声を掛けられた。
 
「シオンさんです」
 と、手渡されたのはカイの携帯電話だった。「こちらから掛けるよう、言っております」
「シオン? なんの用だろ……」
 少し不安になる。ルイが浮かない表情をしていたからだ。
 
カイは既にベッドで眠っている。シドは床で筋トレ中だ。
 
「あまり、いい内容ではなさそうです。カイさんの携帯電話に彼女から何度も連絡があったそうです。それも毎日。一度だけ出たそうですが、物凄い剣幕でアールさんに代われと怒鳴ったそうで、カイさんは驚いてその時は深夜だったこともあり、後でかけ直すと伝えたまま今日まで放置していたようで」
「…………」
 アールは眉間にシワを寄せた。
 
シオンを怒らせるようなこと、なにかしただろうか。
 
「まずは僕が掛けてみましょうか?」
 と、ルイは心配してそう言った。
「ううん、大丈夫」
 と、笑顔をつくるも引き攣ってしまう。「でも……傍にいて?」
「えぇ、なにかありましたらすぐに僕が対応しますよ」
「ありがとう……」
 
アールの心臓は不安に押し潰されそうになっていた。動揺で震える手で着信履歴からシオンにかけ直した。
呼び出し音が1回、2回、3回鳴って、漸く電話に出た。
 
『もしもし?』
 苛立ちながら出した声だとすぐにわかる。
「あ、もしもし? 私。アールだけど、どうしたの?」
 無理して平然と出した声は震えていた。
 
ルイがすぐ隣で気が気でない思いで様子を窺っている。
 
『──フッ、どうしたの? って、正気?』
「え……?」
『人殺し』
「……ごめん、なんのこと?」
 バクバクと鼓動が速くなる。
『死んだよ、ボーゼじいちゃん』
「え……なんで……」
『あんたのせーで』
「…………」
『知ってる? 知ってるんでしょ? うちらを襲ったシャチの化け物。あれ、あんたを狙ってたんだって』
 

──シオン

 
『んでね、まぁ散々な目にあったけど、なんとか助かったし、それくらいなら別にいいと思ったの』
 

久美と同じ顔で、久美と同じ声。

 
『でもあんたらが出てったあと、もうひとまわり大きいシャチが島を襲ったんだ。自分の子供を殺された仕返しにね。ちょうどボーゼじいちゃんが浜にいたときに』
 

電話越しだと尚更久美に言われたような錯覚がして、気が狂いそうになった。

 
『あんたさえいなかったら私もじいちゃんも襲われることはなかったんだ。ねぇわかってんの? わかってんでしょ?! あんたの存在がどんどん周りの人間を危険に晒して命を奪ってることわかってんでしょ?! それなのにヘラヘラ近づいて来やがって! お前のせいだよ全部!! お前の存在が関係のない人を殺してるんだ!!』
 
アールは胸を押さえながら呆然と立ち尽くしていた。足元が崩れてく。立っているだけで精一杯だった。
 
「アールさん……?」
 ルイは心配そうにアールを見遣った。
 
『人殺し。お前は人殺しだ。人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し!! お前はじいちゃんを殺した!! 絶対に許さないから。お前が殺したのはじいちゃんだけじゃない……そうだろ? 何人殺したの。今まで出会った人、何人死んだの?』
「やめて……」
『 みんな、お前がいなかったら死んでないよ 』
「やめてっ!!」
「アールさん」
 と、ルイはアールから携帯電話を奪い取った。耳に当ててみるが、電話は既に切られていた。
 
アールは両手で耳を塞いでいた。呼吸が荒くなる。
シドが顔を出した。
 
「なんだよ、うるせーぞ」
「なんでもない」
 と、アールは部屋を飛び出した。
 
ルイは追い掛けようとしたが、ドアの前で足を止めた。
 
「なんかしらねぇが、いいのか? 追い掛けねぇで」
「一人になりたいんだと思います……」
 と、ルイはベッドルームに戻り、カイが眠る枕元に携帯電話を戻した。
「まぁこの町は安全そうだから心配はいらねぇだろうが、お前は耐えられんのかよ」
 シドは床に座り、ダンベルを持ち上げた。
「えぇ、大丈夫です……。電話はシオンさんからでした」
 と、ルイも床に腰を下ろした。
 
シドにも話しておいたほうが良さそうだ。
 
「シオン? シオン……?」
 と、虚空を見遣る。
「谷底村で会った女性ですよ。グリーブ島でも一緒だった」
「あぁ、あいつか」
 
ルイは一部始終をシドに話した。電話の内容も微かだが聞こえていた。
 
「ジジイが死んだ? どーせ死期は近かったんじゃねーの」
「失礼ですよ」
 と、ルイ。
「“人殺し”ねぇ……あれを人殺しって言うなら世の中人殺しだらけだな。よっ」
 シドは両手にダンベルを持って立ち上がると、交互に持ち上げながら腕を鍛えた。
 

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©Kamikawa
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