voice of mind - by ルイランノキ


 花の故郷18…『イベント』

 
ルイがからあげを買ってきてくれた。からあげは揚げたてでフードパックに入っていた。
2人は少し歩いてから、ちょうど空いているベンチを見つけて腰掛けた。
 
「熱いので気をつけてくださいね」
 と、ルイは気を利かせてポケットからハンカチを取り出すと、熱くないようにパックの下に敷いて渡した。
「ルイも食べるでしょ?」
「余ったら、でいいですよ」
「一緒に食べよ? 結構大きいし、つまようじも二つあるし」
「ではいただきます」
 
サクサクでジューシーなからあげをハフハフしつつ食べながら、行き交う人々を眺めて人間観察を楽しんだ。
どうしても女装している男性に目が行く。
 
「ルイも女装したらよかったのに。カイが言ってたけどあるんでしょ? 女装経験」
「もうこりごりですよ」
 と、ルイは苦笑した。
「見たかったなぁ。シドの女装も」
 そう言ってアールは笑う。
 
想像しただけでおかしい。イカつい女の人になりそうだ。
 
「ヴァイスさんは意外と綺麗になるかもしれませんよ」
「ああ! 確かにそうかも。綺麗な顔してるよね、でもちゃんと“男性”の顔。ルイほど中性的ではないかな。年齢もあるかもしれないけど」
 と、ルイを見遣るとルイの頬がからあげで膨らんでいた。
「僕は……中性的なのでしょうか」
「あはは、ルイ写真撮りたいよ!」
「写真?」
「ルイが頬張ってるのレアだね。いつも上品に食べてるから」
「…………」
 ルイは困惑しながら笑った。
 
からあげを食べるとなるとどうしても一口が大きくなる。しかも爪楊枝だと尚更だ。
 
「私もでっかいのいってみる」
「え?」
 
アールは大きめのからあげを選び、爪楊枝を刺して口に入れた。からあげは結構ゴツゴツしていて痛い。
 
「いひゃい……あつい……」
 左頬がはち切れんばかりに膨らんだアールは涙を浮かべた。
「頬張りすぎですよ」
 と、ルイが笑ったのでアールも笑おうとしたがからあげが邪魔で無理だった。
 
ルイが「ちょっと待っていてください」と言って席を立ったかと思うと、二人分の飲み物を買ってきた。そんなルイに女性よりも気が利くなぁと、アールは感心するしかない。
 
「なんかごめんね、働かせてばかりで」
 と、アールはため息を零し、俯いた。
「なにがです?」
「私が気が利かないから」
「そんなことありませんよ。僕は好きで勝手にやっていることですし」
「ルイみたいになりたいなぁ。ルイみたいな女の子がいたら絶対にモテるよね。見習わなくちゃって思うんだけど、つい怠けちゃう。悪いクセだね」
 そう言うとアールは最後のからあげをルイに差し出した。「──食べる?」
「いただきます。アールさんはアールさんのままでいいのですよ。無理をしても続かず、また自分を責めてしまいます。自分を変えたいという気持ちがあるのでしたら、その気持ちだけは常に持ち続けるようにして、少しずつやれることからやって、慣れて行くようにすればいいのではないかと」
「優しいねぇ」
 と、しみじみする。「よく出来た息子だよ」
「息子?」
 ルイは最後のからあげを口に入れた。
「ゴミは私が捨ててくるね?」
 アールはすぐに立ち上がった。「ちょっと待っててね」
「いえ、僕が……」
「いいからいいから」
 
アールは笑顔でゴミを持ってゴミ捨て場を探し歩いた。意外と見つからない。
途中、金魚すくいの前で楽しそうに会話をしているカップルに気づいた。ルーシーだ。隣にいるのは例の彼氏だろう。声を掛けようか迷ったが、2人は金魚すくいをはじめたので邪魔はしないことに決めた。
 
ヨーヨーを売っているお店とイカ飯店の間に漸くゴミ捨て場を見つけたが、ごみ箱はすでに溢れかえっていた。大きめのごみ箱一つでは足りず、ビニール袋が二つ、ごみ箱の前に置かれていたのでそこにゴミを捨てた。
 
来た道を戻っていると若者の集団が前方から歩いてきた。避けようと思っても他にも人が溢れかえり、人にぶつかっては押し戻されてゆく。身長の低さを恨んだ。
 
「あのっ……すみませんっ」
 
一人避けると次の人にぶつかっては下がってしまう。一歩進んで二歩下がる状態でなかなか進めない。
 
「あー…どいてくださいー…」
 
諦めて流れに身を任せてしまいそうになったが、ふらついていたアールの手首を誰かが力強く引き寄せた。
 
「大丈夫ですか?」
 と、ルイだった。
「ルイ! ごめん遅くて」
「人が多いですからね。なるべく離れないでください」
 
ルイはアールの手を引いて歩いた。
二人はそのままカイがいると思われる抽選会場へ向かった。そこではダンスショーが行われており、アールが着ている民族衣装を身に纏ったカモミール町の女性達がステージ上で円を描いて踊っている。
 
ステージの前には50席ほどのパイプ椅子が並べられ、お年寄りや小さな子供を連れた親が全席をうめている。立って観覧している人が殆どで、このあとクジの抽選会があるからか女装した男性が多く集まっていた。
 
「カイいないね」
 アールは背伸びをして辺りを見回した。
「これだけ女装した男性が溢れているとさすがのカイさんも埋もれているようですね」
「本格的な女装をしてる人少なくない? なんていうか……」
 
綺麗じゃないというか。濃いすね毛を出していたり、化粧をしているのに髭を生やしていたり、ハゲているのにカツラなど被らずスカートを履いていたり。
 
「わかりやすい女装でないといけませんからね。ぱっと見で女装だとわからないと」
「あぁ、じゃあルイは女装してもきっと普通に女の子に見えるからダメだね。髭でも生やさないと。──ていうかルイって髭生えるの?」
 と、アールはルイの顎を見た。綺麗過ぎる顎だ。
「勿論生えますよ」
 と、ルイは顎を摩った。
「放置したら頬まで毛むくじゃらになる?」
「そこまで毛深くはありませんよ」
 ルイは丁寧に否定しながら笑った。
 
会場に流れていた曲が止まり、ステージで踊っていた女性達がステージ裏へと下りていった。
マイクを持った男性が出て来ると、続いてアシスタントの男性が箱を載せたキャスター付きの台を押しながらステージの中央へ。
抽選会が始まるようだ。箱の中に抽選番号が書かれた紙が入っているらしい。
 
「1等当たるといいね、それか2等でもいいね」
「牛肉とお米ですからね。ただ、カイさんはお菓子の詰め合わせを狙っているようですが」
「お菓子かぁ、2等がおもちゃの詰め合わせだったらどっちを狙うんだろうね」
 カイにとっては究極の選択だろう。
「では1等は女性とのデート券でしょうか」
「わぁ、超究極!! でもどれ当たっても喜ぶよね」
「ですね」
 

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©Kamikawa
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