voice of mind - by ルイランノキ


 花の故郷9…『真実』

 
そこは町外れにある、辺り一面に白い花畑が広がる霊園だった。
洋風の墓石が綺麗に並べられ、墓参りに来ている人がちらほらと見受けられる。
 
「わざわざごめんね、一緒に来てもらって」
 と、アールは言った。
「いえ、大丈夫ですよ」
 花束を抱えたルイはそう答え、シェラの母親、ウェンディの墓を探した。
 
ルイたちが供えた花束にはシャグランの花もある。
墓石に刻まれたウェンディの名前を見遣り、手を合わせた。
 
「ウェンディさん、病気だったんだって」
「病気、ですか」
「カーリーさんからお墓の場所を教えてもらったときに聞いたの。長くはなかったみたい。それで、旦那さん……シェラのお父さんであるパウロさんに、もしものことがあったら娘を守ることを優先してくださいって話していたみたい」
「もしものこと……?」
「パウロさんの過去を知っていたから、そう言ったんじゃないかと思う。シェラの家を襲ったのは、パウロさんの元強盗仲間だったんだって。殺人を犯したからパウロさんより遅れて出所して、自分の名前を売ったパウロさんを捜したら平和に暮らしていたから、嫉んだみたい」
「そうですか……」
 と、ルイはウェンディの墓を見遣る。
「それと、私がシェラから聞いた話と少し食い違ってるところがあって」
「なんです?」
「シェラは、父親が母を見殺しにして逃亡したって言ってたけど、パウロさんはウェンディさんとの約束、娘を守ることを第一に考えることを優先した。ウェンディさんが人質に捕らえられていたとき、シェラは別の部屋にいたんだって。でも部屋のドアは空いていて、強盗がいる部屋が見えた。シェラはそこから怯えるように身を隠しながらその様子を見ていたから、強盗はシェラが向かいの部屋にいるなんて気が付いていなかったみたいなの。だからパウロさんは強盗にシェラが見つかってしまう前に……慌てて武器を取りに行こうと思った」
 
武器を取りに行くタイミングを何もせずに見計らっている様子は、シェラには顔色ひとつ変えていないように見えたのかもしれない。
それに痺れを切らした強盗は、ウェンディの首を刃物で切り裂いた。そして、パウロは慌てて強盗に背を向けて武器を取りに行った。それを逃亡したと思い込んだのはシェラだけでなく、強盗も同じだった。逃げたと思った強盗はパウロを追いかけた。
その後のことは、シェラが知るはずもない。シェラの目が届かない場所で起きたことだからだ。
 
パウロは外に出て、隣の倉庫から銃を取り出した。しかし銃口を向ける前に背後から刃物を突き付けられ、「娘の命が惜しければおとなしくついて来い」と言われ、家を離れた。
パウロは昔の強盗仲間と再会した。足を洗ったはずの悪行にまた手をつけ、妻を殺されたことでその事実から逃げるように酒に溺れた。
 
「パウロさんからカーリーさんに、事の説明とシェラのことを頼みますって連絡があったらしいの。あと、嫌なことを忘れるためにも俺の話はしないでやってくれって。俺みたいなクズを親父だなんて思わなくていい、シェラを危険な目に合わせたくもないから自分からはもう二度と逢いには行かない。シェラを幸せにしてやってくださいって」
「……複雑ですね。パウロさんなりに娘を愛していたのでしょうが、過去の行いが自分と家族の首を絞めることになったとは」
「過去は変えられなくても自分次第で未来はいくらでも変えられると思ってた」
 
アールはウェンディの墓を見遣りながら、小さく溜息を零した。
 
「でも、過去は消せないから、良くも悪くもどうしても未来に影響を及ぼしてしまうね。自分ひとりで生きているわけではないから、誰かに描いていた未来を奪われてしまうこともあるし」
 
──交通事故と同じ。
自分だけマナーを守って真面目に生きていてもしょうがないのだ。
 
「シェラさんはご存知ないのでしょうね」
「うん。知るべきなのか、このまま知らないほうがいいのかわからない」
「どちらにしろ、シェラさんの心は晴れないでしょうね……」
 
殺してしまったのだから。
 
━━━━━━━━━━━
 
シドは暇を持て余していた。
偶然見つけた本屋に入り、武器のカタログを見て時間を潰している。
時折住人の男が興味津々に声を掛けてくる。
 
「あんた外から来たのか?」
 30代半ばの男はシドの腰に掛けてある刀を見てそう訊く。
「あぁ、見りゃわかんだろ」
「若いのに珍しいな。どこから来たんだ?」
「ルヴィエール方面」
「えっ、あんな遠くから外を回って来たのか?! そりゃご苦労なことだな……。まだ若いんだ、命落とすなよ?」
「ご忠告どーも」
 
素っ気なく受け答えし、本屋を後にした。
時間を潰せそうな場所はほとんどない。こんな町に2泊するなど時間の無駄過ぎる。
シドは指の骨をポキポキと鳴らし、軽く屈伸をして走り出した。ジョギングでもしていれば時間は潰れるだろう。
 
そしてシドはいいトレーニング場所を見つけた。星影丘へ上る階段だ。上り下りすればかなりの運動になるだろう。
迷わず階段を駆け足で上り、頂点にたどり着いてUターンをしようとしたが、止められた。一番厄介な奴に出くわして、一気にけだるくなる。
 
「シドじゃーん、俺に会いにきたわけ?」
 カイだ。
「んなわけねぇだろ、お前がいるとわかってたら登ってこねぇよ」
「またまたまたぁ。暇だから俺に会いに来たんだろぉ? 無理しなくていいのに」
「してねぇよ……」
 
集中力が途切れ、階段を駆け降りる気力をなくしたシドはベンチに横になった。
 
「おめーは何してんだよ独りで」
「ナンパしてたんだけどねぇ、相変わらずみんな恥ずかしがってたり不安がって連絡先教えてくれないんだ」
「不審がって、だろ」
「魅力的すぎるのも問題なんだ。ほら、綺麗すぎる女の人を見たら裏がありそうじゃん? 女の子もかっこよすぎる人を見たらなにか裏があるんじゃないかって不安になるんだろうねぇ。そうやって疑うせいで素敵な出会いを逃してるって気づけないものかなぁ」
「…………」
「俺って罪な男だよねぇ」
「バカな男だよ」
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -