voice of mind - by ルイランノキ |
アジトに身を隠しながら足を踏み入れた人物がいた。
耳を澄ませ、人の気配を感じ取る。人の声がする倉庫に近づき、微かに開いている扉の隙間から覗き込んだ。
十五部隊の男達11人が円を描いて立っている。
「──へぇ、こうやって見るとそそられるな」
と、フレイルの男。
「そそられるってなんだよ」
と、他の仲間達が笑う。
彼等はビデオカメラを見ていた。拘束されているアールが拷問を受けている映像だった。
「なぁ」
と、なにかを企みながら一人が言う。
「おい、変なこと言い出すなよ?」
他の連中が笑う。
「まだなんも言ってねぇよ」
と、企んでいる男も笑った。「このままただロンダさんに知らせるの勿体なくねぇか」
「なんだよ暴行でもする気か? あっちの意味で」
ぶはっと一同は声を上げて笑った。
「まじかよ色気のねぇ女だぞ?」
「女は女だろ。それに子供孕ませりゃ儲けもんじゃねぇの? 選ばれし者のガキだぞ」
「お前最低だな」
そんな会話をしながらも笑いは止まらない。
「選ばれし者だって決まったわけじゃねぇのに」
「ま、犯すまではいかなくても記念に身ぐるみ剥がして記念撮影するのも悪くねぇだろ」
「身ぐるみ剥がしたらヤるだろ」
腹を抱えて笑う彼等の談笑を止めたのは、扉の前で聞き耳を立てていた男だった。
「誰だッ!!」
フレイルの男と部員達は咄嗟に身構えた。
彼等の足元に、思わず落としてしまったビデオカメラが転がっている。
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アールは叫び声で目が覚めた。
気を失っていた足に力を入れてしっかりと立ち、上を見遣る。上の柱から吊された鎖に両手が繋がっている。深いため息を零した。
──また捕まってしまった。
そう思ったとき、橋の前でルイが背後にいた男に殴られたことを思い出した。ルイは大丈夫だろうか……
両手を引いたり上げたりしてみても鎖はジャラジャラと音を立てるばかりで外れそうにない。
「あーもう! 私のバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!」
体をめちゃくちゃにくねらせて叫んだものの、ジャラジャラとより一層鎖が動いて手首が痛くなるだけだった。
しかしすぐに扉から音がした。誰かが鍵を開けようとしている。敵か味方か、神に祈った。
鍵が開く音が小さく響いて扉が開いた。アールがいる倉庫内に姿を現したのはカイだった。
「カイっ?!」
「助けにきたよーっ! 仲間を連れてね!」
と、後からルイ、ヴァイスが姿を見せた。
ルイは慌ててアールに駆け寄った。
「大丈夫ですか?!」
「うん、私は平気。また捕まってしまってごめんなさい……」
「いえ、無事でなりよりです。──ヴァイスさん」
ルイはヴァイスに目配せをした。
ヴァイスは黙ったまま銃を構えてアールを拘束していた鎖に向けて引き金を引いた。
鎖は切れ、漸く腕を下ろすことが出来た。両手首を縛っているベルトはルイが外し、アールは赤くなっていた手首を摩った。
「ルイ、よかった無事で……」
「後頭部を殴られましたが、なんとか意識を取り戻せました」
「私をここに運んできた奴らは……?」
ルイはヴァイスとカイを見遣ったが、二人とも知らないと首を振った。
「アールさんがどこにいるのかわからなかったので別行動でアジト内を捜し回ったのですが……誰もいませんでした。そこにアールさんの声が聞こえてきたのです」
「バカバカ言ってたねぇ」
と、カイ。
「あ……うん」
アールは聞こえていたのかと少し恥ずかしくなった。
「そういえば」
と、ヴァイスが口を開く。「アジトの奥に巨大な岩があったようだが」
「それがなにか……?」
3人は倉庫を出た。
「不自然だ」
「不自然……?」
「その岩どけたら地下へ下りる階段があってぇ、お宝沢山眠ってるかもねぇ」
と、カイは言った。
「地下……」
──と、その時、ルイの携帯電話が鳴った。シドからだ。
「なにかありましたか?」
ルイは電話に出るなり不安げに訊いた。
『いや、こっちは終わった』
「終わった?」
思わず聞き返した。
「ひゃっほー、一件落着ぅー! 腹減ったぁ」
と、先走ったカイがルイたちを置いて歩き出す。
アールはカイの後を追った。
「まだわかんないよ、下手に動かないほうがいいかも」
「俺アールみたいに鈍臭くないもん」
「悪かったね鈍臭くて。あ、スーちゃんは?」
「スーちん? 置いてきた。ていうか子供たちに取られた。今頃ツリーハウスでマスキンと一緒に子供の相手してやってるんじゃないかなぁ」
と、カイはアジトを出ずに曲がった。
「そっか。──ていうかどこ行くの? まだ十五部隊の人いるかもしれないのに」
「いないよ声しないし。地下にはいるかもしれないけど」
「地下があるかはまだわからな──」
アールは突然足を止め、えずきながら手で口と鼻を塞いだ。──嫌な臭いがする。
「…………」
カイもどうしたの?と訊こうとした口を閉じた。
「カイ……ヤバい」
「ヤバいねぇ……鼻がひん曲がる臭いがするよ……」
「どこから……? なんのにおい……?」
「え、確かめるの……?」
アールは臭いの元を探しはじめた。
「焦げ臭いというか血生臭いというか……。誰かいるかもしれない」
「生き物のにおい? だとしても生きてる生き物のにおいじゃないと思うなぁ……」
そして2人は扉が開かれたままの倉庫の前で立ち尽くした。あまりの悪臭に何度もえずく。
カイは袖で鼻と口を押さえながら、扉に近づいて倉庫内に身を乗り出した。眉をひそめ、確かめる。
「……みんな真っ黒だ」
その後ろでアールはまた吐き気を催した。
倉庫内には真っ黒に焦げた人間の遺体が転がっている。
「全部で11人かなぁ……」
カイは倉庫内に何かを見つけ、足を踏み入れた。
「カイ……気をつけて……」
カイは焦げた死体を避けながら奥へ進み、ビデオカメラを拾い上げた。赤いランプがついており、録画中だった。
カイは停止ボタンを押して、倉庫から出て来ると、もうスピードで走ってゆく。
「え、なに?!」
アールは慌てて後を追うと、カイはアジトの奥、森の手間で嘔吐していた。「大丈夫……?」
しゃがんでいるカイの背中を摩った。
ここは倉庫から離れており、風は倉庫がある方へと流れているため、臭いはあまりしない。
「限界だった……ふぅ」
と、涙目のカイ。
「頑張ったね」
と、アールは優しく言った。「何を拾ったの? ビデオカメラ?」
「うん、録画中だったからなにか映ってるかも」
「え……あの変死してた人達を殺した犯人とか……?」
「んーでも床に落ちてたから足元しか映ってないかも。あと死んだ奴らの姿とかかなぁ」
「……見るの?」
「アールは犯人気にならない? あれ多分生きたまま焼かれてるしぃ、そこまで惨い殺し方をするなんて理由があるんだろうしぃ、仲間内で喧嘩してやり合ったならいいけど、もし、もしもだよ?」
と、カイはアールに耳打ちをした。
「──もしもだよ? アールが選ばれし者だとわかってて取り合いになってあいつらが邪魔だから殺したっていう奴だったら、アールピンチじゃん? 生きた人間を焼き殺すような恐ろしい敵の正体は知っておいたほうがいいと思うんだ」
「怖いこと言わないでよ……」
「俺たちももしかしたら焼き殺されるかもしれないしぃ……」
「やめてよ! 変なこと言わないで!」
遠くから誰かが駆けてくる足音がして、二人は警戒しながら顔を向けたが、ルイとヴァイスだった。
カイは咄嗟にビデオカメラをシキンチャク袋に仕舞う。
「アールぅ、ビデオカメラのことは二人だけの秘密ね、ひ・み・つ」
「なんでよ……」
と、カイを見遣る。
「勝手に人のものを取ってはいけませんとか、人が焼き殺される姿なんてアールには見せたくないだろうし、ちゃんと自分の目で確かめるには秘密にしたほうがいいよ、それに中身見てから知らせればいいんだし」
「…………」
アールは納得したようなしないようか複雑な表情をした。
Thank you... |