voice of mind - by ルイランノキ


 カスミ街と海19…『ファンゼフ』

 
屋敷の客間には豪華な食事が並んでいる。
それぞれ席に座り、つかの間の休息。
 
いつの間にか席についているルイとカイ。
アールの首にはカイが持ち帰ったアールの剣がペンダントトップになってぶら下がっており、カイの頭の上にはスーが乗っている。
 
「──そういうことだったのですね」
 事の一部始終を聞いたルイがそう言った。「でもよかったです、ヨーゼフさんが味方で」
「そういえばそのヨーゼフさんは今どこにいるの?」
 と、アールはマスキンに尋ねたが、マスキンはわからないと首を振った。
「透明マントを返さなくては」
 と、ルイは空席の背もたれに掛けておいたマントを見遣った。
「まだスカートめくってないのにぃ」
 カイはそう言ってふて腐れた。
 
ルイとカイはあれから十五部隊に追いかけられ、なかなか東の森まで抜け出せずにいたが、途中でスーが合流し、戦闘に加わった。
スーは体を大きく広げて道を塞いだり、顔に覆いかぶさったり、拾った石を投げたりと、逃げ惑うだけのカイよりも大活躍だった。
 
ヴァイスとルイ達が屋敷に到着したときには、アールの顔の傷や腫れは薬で引いていたため、彼女が酷い暴行を受けたことはマスキンとシド、スー以外の仲間は誰も知らない。
 
全員揃い、ファンゼフによって全員分のグラスに水が注がれた。
 
「いただきまーす」
 と、先に食べはじめたカイの合図で食事が始まった。
「ファンゼフさん、こんなに頂いてよろしいのでしょうか。ファンゼフさんもご一緒に……」
 と、ルイは食事に手をつける前にそう訊いた。
「わしは先に食べたからの。それに、食材が有り余って困っておった。久々に腕を振るうことが出来て嬉しいんじゃよ」
 
ルイは改めて礼を言ってから、食事をはじめた。
 
「これからどうすんだ?」
 と、フランスパンを頬張りながらルイに訊くシド。
「アーム玉を手に入れたいですね。その為にカスミ街に立ち寄ったのですから。──それから、気になることが」
「なんだよ」
「子供です。どうやらアジトに、子供達が閉じ込められているようなのです」
「……関係ねぇだろ」
 シドは面倒くさそうに吐き捨て、スープを啜った。
「助けたいよね」
 と、アールは呟く。
「その前に言うことあんだろ」
 と、シド。
「……ルイ」
「はい?」
「ごめん色々あって……その……携帯電話無くしちゃって……」
「壊したんだろーが」
 と、シド。
「ハングが壊したんですけど? ハングがアールさんの電話を放り投げたのです」
 と、マスキンがフォローする。
  
アールは食事する手を止めて、「ごめんなさい」とルイに言った。
 
「アールさんが無事だったならよかったです。携帯電話はまた買えばいいのですから」
 ルイは優しく笑った。
「無駄遣い増えたな。回復薬も既に2個使用」
 シドは意地悪く言って笑う。
「え、アールさん回復薬を使われたのですか? 怪我されたのですか?」
 ルイは不安げにアールを見遣った。
「たいしたことないんだけどね」
 と、苦笑し、シドを軽く睨んだ。
「大したことねぇならなんで2回も使ったんだろな」
「シドは黙っててよ!」
「どの種類の回復薬を使われたのですか? あとで補充しておきましょう」
「ありがとう。ごめんね」
 
「アールスカート履いてくんない?」
 と、カイがパンくずを零しながら言う。
「なんでよ」
「スカートめくりしたいから。透明マント着て」
「なにそのもう手近なとこでいいやみたいな言い方」
「だってショーパンガールばっかりなんだもん。潮風が強いからかなぁ? アールスカート履いて」
「やだよ。めくられるために誰が履くか」
「めくんないから履いて」
「信用できるか!」
「じゃーもうアールが透明マント着て俺に悪戯して」
 と、カイは口を尖らせた。
「どんな趣味だよッ」
 と吹き出したのはシドだった。
 
━━━━━━━━━━━
 
時刻は午後7時過ぎ。外は大雨が降っている。
一同は食事を終え、それぞれの時間を潰していた。
ルイは台所でファンゼフの手伝いを、カイはスーを頭に乗せたマスキンを連れて屋敷内の探索を、シドは客間の椅子を並べて横になり、ヴァイスはなにもない広間の突き当たりの窓から外を眺めている。
 
アールは屋敷内にある書斎で本を眺めていた。
魔法文字が読めるようになってから、解読しながら読むのが楽しい。
そこに手伝いを終えたルイがやってきた。
 
「アールさん、回復薬です」
 と、回復薬を2本手渡した。
「ありがとう」
 と、シキンチャク袋に入れる。「これからどうするの?」
「アジトに捕われている子供達を救う方法を考えておりました。ただ、今捕まっている子供達を助けても、僕たちがこの街を離れれば同じことが繰り返されてしまう……」
「そうだよね……。こういうのって警察は見て見ぬふりなの? 取り締まらないの?」
「ケーサツではなく、スィッタですね」
 と、ルイは自然に訂正した。
「小さな村だった頃はスィッタ施設などありませんでしたが、街と化すと同時にスィッタ施設も出来ました。ただ時期が悪かったのかもしれません」
「どういうこと?」
 
ルイが説明しようとしたとき、ふたりがいる書斎にファンゼフが顔を出した。
 
「ダムール村だった頃の話だがね」
 と、ファンゼフは書斎にある机の椅子に腰掛けた。
「山賊が子供を拐い、売り物にしていたんじゃ。山賊に怯えた村人たちは魔術師に依頼をして、迷宮の森をつくりだし、山賊の足がダムール村に向かないようにしたんじゃが、すでに何度か村に訪れていた山賊の内、数人が、村に住み着いていておったんじゃよ」
 
ルイとアールは、黙ってファンゼフの話に耳を傾けている。
 
「はじめは大人しくしておってな、中には村の女と契りを交わして子供を授かった者もおった。──だが突然村の外にいる仲間からの連絡が途絶え、異変に気づいたんじゃ。迷宮の森の存在を知った山賊は激怒しての、村の女を片っ端から襲い、孕ませた」
「最低……」
 と、アールは呟いた。「その子供をまた売り物にしたの?」
「そうじゃな」
「…………」
 アールは不快感で胸が気持ち悪くなった。
「村の男共も奴隷のように扱われ、逆らう者は容赦なく殺された。村人から金品を受け取り、山賊は新たに魔術師を雇った。外へ通じる道を開け、と。今でいうゲートボックスじゃな」
「迷宮の森をつくった魔術師とは別の人なの?」
 と、アール。
「さぁな、そこまではわからん。もし同一人物でも引き受けたろうからな」
「どうして……? お金のため?」
「魔術師というのは何かと金がかかるんじゃよ。魔術、魔法についての研究実験、なにかを作り出すにも金がいる。どんなに汚い仕事でも金のためなら引き受ける。法律がまだ緩かった時代の話じゃがの」
「……だとしても、迷宮の森の罠を外せばよかったのに、わざわざゲートボックスを作るなんて」
「罠を外せない理由があったんじゃろう。森から来たお前さんらならわかるんじゃないのかね?」
 
アールとルイは顔を見合わせた。
おそらく、エテルネルライトの存在だろう。
 
「村の男たちは一日中働かされた。村の開拓じゃよ」
「長く続いて、街になった……けいさ……えっと、スィッタはいつできたの? そんな街に」
「その街の支配者は山賊じゃよ。奴らは金をたんまりもっておった。正義を翳す男らを操れるほどの金をな」
 そう言ってファンゼフは机の上にあった本をパラパラとめくった。
「賄賂(ワイロ)ってこと? 結局金なの……? 汚い金の為に今も子供たちが犠牲になってるの? スィッタと村人が手を組んでるなんて……」
 

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